まだコロナが存在しないころ、某ライブハウスでトークライブをしたことがある。

その際のドリンクメニューに私が普段よく飲むことにちなんで「水道水」が入っており、確か価格は「800円」ぐらいだった気がする。

ミスヤンマガがいったん口に含んで出した水道水というわけではなく、いたって普通の水道水だったのだが、なぜかこれが普通に売れた。

どうして売れたのか、そしてこれが許されるならミネラルウォーターを800円で売った川越シェフはなぜ炎上したのか、すべてが謎である。

「水への課金」をいとわないのは国民性?

日本人はタダで水を飲める国に住んでいながら、比較的「水」に課金することに抵抗がない。

コンビニに行けば必ずミネラルウォーターを売っているし、自宅や会社に何かの付き合いで設置せざるをえなかったウォーターサーバーを置いているところも珍しくない。

確かに人間にとって水以上に大切なものと言ったら、もはや空気ぐらいしかないだろう。

居酒屋で痛飲したあと立ち寄ったコンビニで買うのはしるこではなく水だし、砂漠で見つけたオアシスが「がぶ飲みメロンソーダ」で満たされていても困るのである。

大事なものだからこそ良い物を飲みたい、水道水を飲むのは抵抗がある、という人も多いのだろう。

日本でミネラルウォーターが誕生したのは明治時代で、家庭でも飲まれるようになったのは約40年前と、意外と歴史は古い。

だが、その歴史の中で市販のミネラルウォーターは一貫して「冷」であった。

他のコールド飲料が冷やされていたから右に倣って冷やしていただけというのもあるかもしれないが、ミネラルウォーターと言えば「よく冷えた天然水」というイメージである。

しかし近年「お前ら地下王国の住民じゃあるまいし、いつまでもキンキンに冷えていることばかりに価値を見出すんじゃない」となったのか、コンビニで水含む「常温」の飲料が販売されるようになった。

常温とは「部屋に放置されたぐらいの温度」である、コンビニでも温められるわけでも冷やされるわけでもなく、乾麺棚とかの隣で文字通り常温販売されている。

家であれば「飲んだらちゃんと冷蔵庫にいれておけ」と怒られる状態であり、果たしてこれが売れるのかと思ったが、今でも見かけるのでおそらく売れたのだろう。

しかし「常温の前にやることがあるのではないか」と思った人も多いのではないか。

普通、飲料と言えば「冷たい」と「熱い」である。

しかしミネラルウォーター界は「熱い」を作らずに、その間にある「へぬるい」を作ってしまっているのである。

「白湯」と名付けたらヒット、ネーミングはかくも大切か

それはおかしいということでこの度ついにミネラルウォーターのホット、つまり「お湯」が「白湯」と称して発売されたようだ。

実は以前にも「ホット天然水」という名称でお湯を販売したらしいのだが、それは我々の記憶に残らないレベルでコケたらしい。

そこで「白湯」という名前で再発売したところ「ホット天然水」のことなどまるでなかったかのように「こういうのを待っていた!」と売れ行き好調らしい。

確かに名前と言うのは大事である。同じ商品でも「刺身」と「魚の死骸」では売れ行きが5億倍違うだろう。

確かに我々は「天然水」に対し、暑い季節に飲むキンキンに冷えた爽やかな飲料というイメージがあるため、「ホット天然水」と言われても「ヘルシー背脂」「甘栗むきませんでした」と言われたかのような違和感を覚えてしまい、「わざわざ金を出してそんな不自然な存在を飲むのはどうか」と思ってしまう。

対して「白湯」はイメージが良い。なぜなら意識高い系や丁寧な暮らしユーチューバーのモーニングルーティンを見ると、9割の確率で起きてすぐ「白湯」を飲んでいるからだ。

ちなみに意識低い系雑な暮らしが朝起きてまず摂取するのは「Twitter」である。

このように「白湯」に対しては健康にいい、丁寧、しゃらくさい、というイメージが確立されているため、コンビニに行ってなんとなくビタミン配合飲料を買ってしまう感覚で白湯を手に取る人間は多いのではないかと思われる。

実際に白湯が健康に良いかはわからないが、少なくとも「健康に悪くない」。他の飲料だとカフェインなどを気にする必要が出てくるが、水であればその必要はない。むしろ水を飲んで健康を害すなら何を飲んでも害す。

また同じ水でも冷水を急に飲んだら内臓を冷やしてしまう、つまり「体に優しい飲料」としては白湯がベストなのだ。

さらに、薬を飲むときの飲料もお湯がベストと言われている。そう言われれば、私が前に勤めていた会社の会長は大量の薬を飲むのに、ウォーターサーバーの冷たいと熱いをブレンドして、薬を飲むのにベストなぬるま湯を自作していた。もしかしたら高齢化も白湯人気に一役かっているのかもしれない。

ちなみに「赤ちゃんのミルクも作れる」という情報もあったらしいが、ミルクに使う湯は細菌感染を防ぐため、70度以上でないといけないそうだ。コンビニのペット入り白湯はそれよりぬるく、ミルク作りには適していないので注意が必要である。

ネットは便利だが、当然誤情報も含まれているので、特に健康に関わる情報には注意が必要である。

我々中年の体はTwitter情報を鵜呑みにするぐらい雑に扱ってもどうとでもなるが、乳幼児や老の健康に関わる情報はネットではなく専門機関で調べることを心がけよう。