私はTwitterが不穏な話題で荒れるたびに「Twitterはいのちの輝き君で盛り上がっていた時が一番平和だった」と、昔を極端に美化する老害ムーブをしてきたのだが、その平和が久方ぶりに戻ってきた。
しかし、いのちの輝き君改め「ミャクミャク様」が2ツイートごと(必ず挟まるプロモツイート)に並ぶTLは「平和」というより「終末」感が出ている。
さらに「#ミャクミャク様マイクロビキニ部」というタグまで混入するようになり、少なくとも「日本は終わった」と確信することができた。
そんなTwitterに平和と滅亡をもたらす創造神でありながら破壊神でもあるミャクミャク様だが、いつもどおり盛り上がっているのはTwitterだけで、一歩外に出れば誰もミャクミャク様のことを知らないという可能性は十分にある。
ネット民に愛される元・いのちの輝き君
いのちの輝き君改めミャクミャク様とは、2025年開催予定の大阪万博のマスコットキャラクターのようなものである。「ようなもの」というのは、造形が明らかに「名状し難いナニカ」なため断言が憚られるからだ。
だが、元はキャラクターではなく大阪万博用に公募された「ロゴマーク」だったのだ。
そのロゴマークがマークと言うにはあまりにも生物っぽかったせいか、テーマである「いのちの輝き」にちなみ「いのちの輝き君」というそのまんますぎる名前で、キャラクターのように扱われるようになったのである。
運営側も、計算通りなのか思わぬ反響だったのかは定かではないが、このいのちの輝き氏をマークだけで終わらせるのは惜しいと思ったのだろう。
闇堕ちしたポンデリングのようないのちの輝きくんに、ハンターに親を殺され人間への復讐を誓ったポンデライオン的胴体をつけ、本当にキャラクター化してしまったのである。(※編集注:万博キャラクターはロゴマークとは別に公募したものの、最終選考に残ったのはすべていのちの輝き君を踏まえたデザインのキャラでした)
そしてそのキャラクターの名前も募集され、このたび無事「ミャクミャク様」に決定した次第である。
運営に我々がこのキャラに何を期待しているか完全に把握されているのが癪に触るチョイスだが、ネット民たちも「そういうの嫌いではない」と言う感じで、乗れるものには乗っておく姿勢である。
“非公式”の「様」呼びに見る土着神っぽさ
先ほどから「ミャクミャク様」と呼んではいるが、実は正式名称は「ミャクミャク」であり、誰も「様をつけろよデコ助野郎!」とは言っていないのである。
ただあまりにも呼び捨てが憚られる造形と名前だったため、見た者のほとんどが自発的に様をつけるようになったのだ。
確かにTwitterでも「何かの土着神に見える」という意見が多かったのだが、様をつけるのは神への敬意というより祟りを恐れている感がある。
「女神転生」というゲームシリーズに「ミシャグジさま」というマーラ様に並んで男根のメタファーなキャラクターがいるのだが、このキャラクターは「様」までが正式名称である。
ミシャグジさまはミャクミャク様と同様土着神である。そう言いかけて「ミャクミャク様は土着神ではない」と思い出すという作業を3回ほど繰り返しているが、ミシャグジ様の方は間違いなく土着神だ。
当初「ミシャグジ」と敬称なしで登場させる予定だったのだが、スタッフが高熱を出すなど怪奇現象が相次いだそうだ。これは神に敬意を欠いた呪いでは、ということになり「さま」をつけたところ、怪奇現象は治ったという。
その後ミシャグジさまをゲームに登場させるときは、必ず「さま」までつけているというエピソードがあるらしい。
同様にミャクミャク様も「様」をつけないと、何かしら凶事が起こりそうな予感しかしないため、見たものは皆本能で「様」をつけているのだろう。
このように、いろんな意味で概ね好意的に受け入れられているミャクミャク様だが、一方でミャクミャク様のせいで、大阪万博に対する反対の意志が揺らいでしまうという意見もある。
いくら見た目で判断するのは良くないと言っても、人間は主に視覚で物事を判断する生き物である。
人間を滅ぼす凶悪な地球外生命体であろうとも、それが子猫の姿をしていたら殺せないし、逆に可愛らしい女子供の姿をしていたら「そのあざとい考えが余計癪に触る」という理由でさらに躊躇いなく処すと思う。
このようなイメージによる「ほだし」を使ってくる戦略は珍しくないので、我々はそれに惑わされず判断していかなければならない。
ミャクミャク様も見た目はいろんな意味でキュートだが、中身はあくまで大阪府はじめ地方自治体や政府、経済団体といった面々である。それを忘れてはならない。