「100日後に死ぬワニ」の映画が公開された。

そういうと大体の人が「ワニのことなどすっかり忘れていた」と言うのだが、その後「あれは売り方が悪かった」「追悼ポップアップショップ」「よくね」などで30分ぐらい会話が続いてしまうので、正直みんな忘れていないと思う。

それでも忘れたと言い張る方、もしくは最初からツイッターなど見ていない正しい生活を送っている方の足をひっぱるために説明させてもらうと、「100日後に死ぬワニ」とは2019年末ごろから100日間、ツイッター上で公開された漫画のことである。

同作は大変人気を博し、多くの人がタイトル通り本当にワニは死んでしまうのか固唾を飲んで見守り、最終話には200万もの「いいね」がついたという。

しかし、ワニが死ぬや否や「追悼ポップアップショップ開催決定!」など「強い言葉相撲」の横綱を筆頭に、「ここからは我々にお任せください」とバックヤードから「商業の人たち」が出て来てしまったせいで「余韻を台無しにするな」と炎上し、そこから「最初から仕込みだった」「バックは電通」などのうわさまで立つようになった。

この様子を「火葬」と評されだしたあたりから、ワニはネット上のネタとして扱われるようになってしまった気がするし、現に私のような木っ端ライターに何の断りもなく2回もネタにされるという被害にあっている(1回目はこちら)。

しかし、ネット上で「ネタにされる」とは、ただ「笑いものにされる」などのヌルい意味ではなく、「どれだけ叩いても大丈夫な存在」と見なされることなのだ。

もちろん「大丈夫」とは「こちらの拳が」という意味であり、叩かれた方は大丈夫ではない。

映画公開で「100ワニ」いじりが再燃

ネット上で「そういうもの」と認定されてしまったワニは、映画公開前からレビューサイトに低評価レビューが投稿されるなど、やっている側からしたら「ネタ」でもやられている側からすれば完全に嫌がらせと営業妨害が相次いでいる。

ただ、バイトテロと同様に営業妨害の意図はなく、ただワニをネタに面白いことを言ってやりたいだけの人も多分に混ざっているため、酷評ではなく「ワニがサムズアップで溶鉱炉に沈んでいくシーンには涙を禁じ得なかった」というような、お約束ネタレビューも散見された。

私も、とりあえずサムズアップで溶鉱炉に沈ませておけば面白いと思っている節があり、何よりこのコラムがまさに「ワニをネタに何か面白いことを言おうとしてる奴」なので何も言えないが、見てもいない映画に低評価や嘘レビューを書くというのは制作者側から見れば完全に営業妨害であり、映画レビューサイトにとっても迷惑である。

このように、当事者なら叩いていいわけでもないが、当事者以外も巻き込まれ出すのがネットの悪ふざけというものである。

そして今回その悪ノリに大きく巻き込まれたのが新宿の映画館「バルト9」である。バルト9の予約システムを使い、何者かが一人で複数の席を予約、予約状況の画面に「ワニ」の文字が表示されるというお遊びを行ったそうだ。

もしワニの文字分だけ席を購入したというなら、それは既にアンチを越えてファンと言っても良いレベルな気がするし、「買ってくれるなら見なくていい」を信条にしているタイプならありがたい、まである。

しかし、当然そんなことはなかった。

バルト9が「遊び場」にされてしまった裏事情

  • ワニなら叩いていい、なんてことはなく…

    ワニなら叩いていい、なんてことはなく…

そもそもバルト9が標的にされたのは、その特徴的な予約システムに理由がある。多くの映画館の予約システムは、予約したときにクレカなどで決済するようになっているが、バルト9や同系列の施設は事前に席だけ予約し、当日現地で精算する「後払い」が可能なのである。

よって、料金を支払わずに、席だけ埋めるという悪ふざけが可能となってしまったのだ。

余談だが居住県内に映画館は5館、うち1館は新作がひと月遅れで配給、でおなじみの私もバルト9には行ったことがある。その時話題だったアニメ映画「キンプリ(KING OF PRISM)」のレビューを書くに際し「一晩連続2回視聴」という、今思えば薬物系の法律に触れていそうなことをするためである。

なぜわざわざ東京の映画館まで来たかといえば、もちろん我が村の映画館ではやっていないからだ。

1回目の上映時点で22時近かったと思うのだが、バルト9のロビーは我が村で言うところの「夏休みコナン初日」ぐらい混んでいた。ちなみに我が村は22時になると、映画館どころか、町全体から人が消え、ついでに信号も消えたりする。

この盛況ぶりこそが、バルト9が「後払い」というリスクの高いシステムを導入できた理由の一つだろう。クレカを持てない学生や、私のように社会的信用の問題でクレカが持てない勢にとってはありがたいシステムである。

しかし、それが悪用されたとなれば「廃止」ということもあり得る。

これらの悪ノリに対し、ネット民が「ワニなんだから仕方ない」と反応したかというと、「さすがにやり過ぎ」、「全然面白くない」という意見の方が増えてきており、特に予約を使ったいたずらに対しては、バルト9利用者をはじめ、映画ファンから強い批判が起っている。

バルト9側もこれを「迷惑行為」として発表しており、警察への相談も視野に入れているようだ。

もし、これをやった犯人が特定されたら、今度はその人物が「叩いても大丈夫な存在」になることは容易に想像がつく。

法律的に見ればこの世に「叩いてもいい人間」など存在しない。だが、何かを叩く時は最悪お縄、そして「自分が次の叩いてもいい人間」になってもいいという覚悟を持つべきである。