近年日本は、しきりに「女性の社会進出」を掲げ「女性が家庭や子育て、仕事を両立できる世の中」を目指してきたわけだが、それが実現された暁にどうなるかというと、単純に考えると「女がやることが2倍になる」だ。
さらにそれが「当たり前」になると、家庭か仕事どちらかに専念している女が「怠け者」と呼ばれるようになってしまい、余計生きづらくなってしまう。
そもそも「『ガキは育てる』『仕事は正社員』『両方』やらなくっちゃあならないってのが『令和の女』のつらいところだな、覚悟はいいか?オレはできてる」という強い意志で、家庭と仕事を両立したいと思っている女ばかりではない。そうしなければやっていけないからやっているだけで、できればどちらかにしたいという者も少なくはないのだ。
ともかく「両脇にドでかい荷物を抱えてえ」と思っているわけではないのだ。「女性の仕事と家庭の両立」を進めるなら、同時に「男性の仕事と家庭の両立」も進めて負担を平等にしていかなければいけない。
令和の世に「男の産休」制度が登場
もちろん、女性の社会進出だけではなく、男性の家庭参加を促すために様々な施策はとられてきた。途中「『イクメン』と呼んで持てはやしてみる」という斜め下に行ってしまったこともあるが、それでも徐々に男性の家庭や育児への参加は進んできているようである。
その一環として先日「男性版産休」というなかなか強い言葉がTwitter(ツイッター)を含め、世間をにぎわせた。
しかし、その言葉自体に突っ込んでいる人はツイッター上でもあまり見かけなかった。
もはや「男の産休」という言葉に「男が産むの? 」と言ってシュワちゃんの妊娠画像を貼る奴は、昭和に帰れ、もしくは溶鉱炉に沈めということなのだろう。もちろんサムズアップでは許されない、犬神家スタイルだ。
ツイッターでも言う奴がいない、ということはリアルで言うのはいよいよヤバい、ということである。
もし男性部下に産休を申請された場合、これから股が裂けた妻をサポートしようかという人に対し、たとえ冗談でも「君が産むの?」などとは口が裂けても言ってはならないのだ。
だが、残念なことに「男が産まない」というのも事実である。よって男性版産休は、男が産むために休むのではなく「子どもが生まれてから8週間以内に最大4週間分取れる休暇」、つまり子が生まれた後に、これまでの育休とは別に休みが取れる制度だ。ただ2週間前に会社に申請が必要なため、取りたい場合はスピーディに申請しなければならない。
すでに育休は男女ともに取得できるものであり、男性の育休取得率を上げるために様々な対策が取られている。
子どもを産むのは非常に重労働であり、子どもを産んだ直後の女性の体はトラックに甘轢きされたか、ゴリラと縄張り争いをしてきたかのようなダメージを受けているという。
そんな状態で、乳幼児という目を離した一瞬の隙に呼吸を止めて星屑ロンリネスになっているかもしれない生き物の世話をするのは苛酷すぎる。
よって、育休よりも、産後の妻をサポートできる制度の方が重要と前から言われおり、「男性版産休」はそのニーズに応えるものとして、おおむね好意的に受け取られているようだ。
産休・育休がとりやすいのは「優しい人がいる職場」ではない
ただし、育休同様「男性が産休を取ったことによる現場の負担」に関する懸念はあがっている。
確かに、制度を利用しやすいかどうか、というのは、職場の人間の性格が良いか悪いかではなく「現場に余裕があるかないか」である。
むしろどれだけ性格の良い人でも、余裕がなく追いつめられれば、舌打ちでエイトビートを刻み始めるし、貧乏ゆすりでしか返事をしなくなる。
育休や産休は認められたものと頭でわかっていても、両手両脇、鼻の穴にまで仕事を詰めている状態で同僚から「明日から育休取るんで」と言われたら、ついつい「俺のこの姿を見て正気か? 」と言ってしまったりするし、そんな状況を知っているから休暇を取りづらいという人もたくさんいる。
取得率を上げたかったら、まず現場に余裕を作ることが不可欠であり、それをしないままに取得だけを強制すると、逆に職場にいづらくなり退職を余儀なくされてしまうケースもある。
ちなみに「産休にかこつけて休もうとするだけの男が増えるだけでは」という意見は意外と少ないそうである。やはり徐々にだが、男性の家庭や育児参加も浸透しつつあるようだ。
しかし一方で、「男が育休や産休を取るのは当然」という風潮になるのもどうか、との指摘もある。
やはり事情というのは各家庭によって違うものであり、どこのご家庭も男が育休や産休を取るのがベストとは限らない。
人には得手不得手、というものがあり、本人にやる気はあっても、「ヒグマは遊びのつもりでも人間の首は一周半している」場合があるのだ。
そういう悲しきモンスタータイプの方が育児に参加し、余計に手間が増えるよりは、産後のサポートは外注するから、そっちは得意分野である「仕事」の方を頑張ってほしいという妻もいるだろう。
話し合った結果「夫は産休育休を取らない」のがベストという判断になる夫婦がいるにもかかわらず、取らないというだけで「奥さんがかわいそう」と言われ肩身が狭い思いをするのは、ワーママが「子どもがかわいそう」「旦那さんは何も言わないの?」と言われてきたのと大して変わらない状態である。
まず作らなければいけないのは、女性や男性以前に「他人が何を選ぼうが周囲がガタガタ言わない」社会なのかもしれない。