運転免許証の更新がオンライン化するらしい。

運転免許証と言えば、近年高齢者ドライバーによる大きな事故が相次いだことから、高齢者の免許更新基準をもっと厳格化すべき、いっそのこと一定の年齢になったら免許を取り消しすべきなのでは、という議論も起こっていた。

そんな中、オンラインでさらに更新を簡略化するのは逆行しているようにも見えるが、オンライン化するのは「運転者講習」のみであり、さらに対象は5年間無事故無違反のゴールド免許保持者が受ける「優良運転者講習」だけだそうだ。

つまり、視力検査や更新料の払い込みのため、交通センターや警察署に出向くことは避けられないということだ。申請はオンラインでできるが、交付は結局役所へ行く必要がある、これでは「マイナンバーカード作成で見たことあるやつだ!」という進研ゼミ状態だ。

意識を保っていればOK、「優良運転者講習」実録レポ

今回オンライン化する「優良運転者講習」とは、「同じ話を5億回してきた」という面構えの交通課のベテランによる講習テキストの読み上げを清聴し、「交通事故はヤバい」という内容の講習ビデオ(時間切れのため途中で切られたりする)を無言で見つめる30分間のことである。

さすがに寝ていても大丈夫、というわけではなく、突然ベテランに質問されることもある。私も「車のライトはどのぐらいの距離まで届くか」という質問に「1.5メートルぐらい」と答えて、お通夜ムードでお馴染みの講習にひとときの笑いをもたらしてしまったことがあった。しかし、笑いのあとで急に真顔になったベテランの合図により現れた謎の黒服に両脇を固められて退場、ということはなく、免許も無事更新できた。

要するに、意識を保ったままそこに30分存在できればOKというのが「優良運転者講習」というやつである。

逆に言えば、これがオンライン化されたとして、交通センターに出向く手間や、視力検査や更新料支払いの長蛇の列に並ぶ時間はそのままに、講習の30分間だけが時短される、ということだ。

部屋に大人数を集めなくて良いことから、コロナ感染防止という意味もあるものの、対象が優良運転者講習だけなので、一般や違反者はこれまで通り1時間~2時間程度、部屋に集められることになってしまう。

つまり、オンライン化により本当に合理化されているのか極めて「微妙」なのだが、何事もいきなり全部変えてしまうのは事故の元である。まずは優良運転者講習で様子見して、段階的に他もオンライン化していこうと言う試みなのだろう。

ちなみに、オンライン講習にしてしまったら、講習の再生ボタンを押したあと風呂に入ってしまうなどの手法で、講習を「受けたことにしてしまう」人間が続出するのでは、という危惧は当然出ている。

現在の講習でも、受講者の半分は心を手放した関口メンディーみたいな顔をしているので、オフライン講習ならちゃんと聞いているというわけでもないのだが、まったく動画を見ないなどの不正を防ぐため、一定時間を過ぎると質問が現れ、それに答えないと次に進めないなどの対策を取るようである。

どちらにしても、試験ではなく「一定時間目を開けたまま講習を受けた」という事実さえあれば良いのが運転者講習であり、視力検査などに比べれば重要度は低く、オンライン化による合理化は必然と言えるかもしれない。

本人のやる気次第で更新できてしまう「高齢者の免許」

  • 温かい応援は嬉しいものですが、免許更新の視力検査でもらっていいものかというと…

    温かい応援は嬉しいものですが、免許更新の視力検査でもらっていいものかというと…

だが、免許更新において一番重要と言われている「視力検査」もあってないような物だ、という意見も多い。

確かに、視力検査で間違えても「もう一回見てみようか!」とワンチャン与えたり、「これはどっちの方向に穴が空いているでしょう? 左? 左からの~? そう右!」と正解を言うまで粘らせたり、「まあギリギリOKということで」と甘めの採点をしたりするなど、「あとがつかえているから、とりあえず通している」ように見える現場を、私も幾度となく見たことがある。

視力検査で不合格になるとどうなるかというと、即刻免許停止ということはなく、その場で時間を空けて再挑戦することもできるし、「その日は徹マン明けで目の調子が悪かっただけかもしれない」ため、後日再挑戦ということもできる。

免許の有効期限内なら何回でも再検査できるようなので、「カンでも当たるまで挑戦できる」「緩すぎる審査官に当たるまでトライできる」ということにもなってしまう。どちらにしても、視力検査で更新ができないということはあっても、それで免許取消ということはないようだ。

70歳以上になると「高齢者講習」を受けなくてはならなくなるが、これも試験というわけではないため、視力検査を前述のようなガッツと人々のやさしさでクリアし、実技を含む講習を2時間受けさえすれば免許は更新できる。

さらに75歳以上になると講習の前に「認知機能検査」を受けなければいけなくなる。これにひっかかると、臨時適正検査や医師の診断を受ける必要があり、「認知症」と診断されると、ついに免許は停止または取り消しになる。逆に認知症と診断されなければ、3時間の講習を受けることで免許は更新される。こちらも、運転の実技を講習中にチェックするという。

今のところ「認知症」でさえなければ、本人の「まだイケるっす」というやる気次第で免許が更新できてしまうシステム、と言えなくもない。

「運転者講習」という、家で言えば「便所の壁紙の柄」のように、「そこまで力入れんでもええやろ」という部分をオンラインで簡略化するというのは良いと思うし、合理化と言えるだろう。

だが、今の免許更新の様子を見ていると、「免許更新の基準」という「大黒柱」にあたる部分の補強が先のように思える。視力検査などで今やっている諸々の対応は、まるで「大黒柱を抜く」ようなことではないか。これで一時的なコストダウンは図れても、最悪の場合、人命が失われる事故が起きてしまう。

「運転者講習」の合理化そのものは良いとしても、大黒柱である免許の更新基準を補強しないままに他の部分を簡略化したら、家屋倒壊という事故の危険性がますます高まってしまう。

合理化も良いが、免許更新の基準の見直し、それに伴い、車が運転できなくなった地方の老がどうやって餓死せず生きていくかということも引き続き考えてもらいたい。