Twitter(ツイッター)を使った抗議活動というのは昔からあったが、最近特に「#○○に反対します」「#△△に抗議します」というようなタグをよく見かけるようになった気がする。

最近大きく注目を集めたツイッターでの抗議活動と言えば、「#検察庁法改正案に抗議します」だろう。

検察庁法改正案とは、検察官の定年を一律65歳に引き上げ、次長検事と検事長に63歳の役職定年を設けるという法案なのだが、その中に「公務の運営に著しい支障が生じる」と判断された場合、63歳で役職定年のはずの次長検事と検事長に最大3年、66歳までの官職継続を認め、同じく検事総長にも65歳の定年から68歳までの定年延長を認める、という特別措置が盛り込まれていたのだ。

一般企業でも、目の上の人面疽だったお局がやっと定年退職した次の日、「契約社員 お局」という島耕作形式で復活してきた時の絶望感は計り知れないが、これはそういう単純な話ではない。

その定年継続判断の権限を持つのが内閣または法務大臣のため、検察の人事に政治介入しようとしていると大きく批判されたのだ。「#検察庁法改正案に抗議します」のタグつきのツイートは1,000万件を超えたという。

「ツイッター文化に詳しい」という、人前であまり言わない方が良い肩書きを持つ人によると、ツイッターで起こる運動というのは、ある程度盛り上がると必ず「カウンター」と呼ばれる「逆張り勢」が現れるものだが、この検察庁法改正案に関しては、それがあまり現れなかったという珍しい例だという。

この活動には多くの著名人も参加していたので、「ワイのカワイイ推しが政治について語ってるところなど見とうない、一生『愛犬の写真』と言いながら自分の顔面の方がデカい自撮り写真をあげて欲しいんや」という別次元の反対意見こそあったが、検察庁法改正案そのものに対しては、検察人事に対する政治介入とは言い切れないまでも、コロナ禍の真っただ中にこの法案を駆け足で通す意味について説明できる人はあまりいなかったようである。

結局、この法案は見送りとなった。ツイッターの運動のおかげとまでは言えないが、無関係でないことは確かだ。このことから、「#近所の女子高の黒スト廃止に抗議する」というような、個人の好みで何でもかんでも反対するのは感心できないが、反対するだけの理由があるなら抗議することに意義はあるという考えが広まり、抗議系のタグが割と頻繁にトレンド入りするようになったのではないかと思う。

人の怒りを秒で刺激する「抗議系ハッシュタグ」

  • 一億総SNS時代、自分の意見を持つまでの道のりは長くなっているのかも……

    一億総SNS時代、自分の意見を持つまでの道のりは長くなっているのかも……

ちなみに今ホットな抗議系ハッシュタグは「#中曽根の葬式に税金出すな」である。

若干語気が強すぎる気がするので、もう少しソフトに表現するため、何でもお嬢様言葉にしてくれる変換器に「#中曽根の葬式に税金出すな」と入力したところ、「#中曽根の葬式に税金出すな」と変換された。

つまり仮にお嬢様に言わせたとしても、「中曽根の葬式に税金出すんじゃねえですわ」、ということらしい。

このタグの発端は、政府が故・中曽根元総理の合同葬儀に、9,000万円の税金を使用することを決定したというニュースからである。もちろんこれはツイッターに流れてきた情報であり、元総理とは言え一個人の葬式に税金を9,000万円使うと言われたら「やめろ!」と言いたくなる。

しかし、何故そんな決定がされたのかという理由が書かれていない。ツイッターというのはこの「理由」部分が省かれ、とりあえず刺激的な文言だけが抜き出されているケースが多い。むしろ、意図的に「見た人間が一瞬で理性を失いRTを押すように書かれている」と言っても良い。

とりあえず、何で9,000万円の税金を使って葬式をするのか理由がわからぬうちは、わたくしも反対ですわ、とは言えないので、詳細を確かめるべく新聞系のニュースサイトに飛んでみた。

そこには、「政府は25日の閣議で、内閣と自民党による故中曽根康弘元首相の合同葬の経費として約9600万円を計上することを決定した。令和2年度一般会計予備費から支出する。合同葬は10月17日午後2時から東京・高輪のグランドプリンスホテル新高輪で実施される。」とだけ書かれていた。

発表日時と場所が正確になっただけで、金額についてはまさかの600万アップであり、理由についてはやはり書かれていない。

続いて他のニュースサイトにも飛んでみたところ「今年度予算の予備費から約9,643万円を支出」するということが分かった、さらに43万円アップである。

もしかして本当に何の説明もなく9,643万円使うつもりなのか、と思われたが、いくつか回ってみたところ、「過去の先例などを考え、政府が適切に判断した」という説明が内閣府からされていたことが明らかになった。

もしかして「説明」の意味を調べるところから始めるべきだったのかと思ったが、いろいろと記事を読んでみたところ、葬式と言っても一般人の葬式とは意味が違い、外国から国賓も来る、つまり葬式が外交の場として使われるなら税金が使われるのもやむなしであり、国賓を呼んでおきながら、イオンのお葬式プランというわけにもいかないという擁護意見もあることがわかった。海外でもイギリスのサッチャー元首相の葬儀に15億円の国費を使ったこともあり、中曽根氏の功績を考えれば、妥当なのではという意見もあるようだ。

それらの理由を踏まえて反対か賛成かは個人の判断だが、9,643万円使う理由や、賛成派の意見にたどり着くまでが結構長かった。

ネットやSNSが発達した現代、自分の意見を言ったり運動を起こしたりするハードルは格段に下がった。だが、正しい情報を集め、情況を正確に理解した上で意見を言うハードルは上がっているような気がする。