先日、とあるキャラクターが世の話題をかっさらった。

それが「いのちの輝きくん」である。

ただ、明らかに女の子なんだから「いのちの輝きちゃん」だろ、という人もいるだろうし、どう見ても男の娘なのだから「いのちの輝ききゅん」が正しい、一体どこに目をつけているのか、5個も目らしき物をつけている輝ききゅんを見習え!という人もいるだろう。

呼称に関しては意見の別れるところだと思うので、間をとって「いのちの輝き氏」と呼ばせてもらおう。

真っ当にバズった、真っ当じゃないデザイン

いのちの輝き氏は正確にはキャラクターではなく、「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のロゴマーク」の事である。2019年からロゴマークの公募が始まり、今年8月25日に5894件の応募の中から選ばれた作品が公開されたところ、主にネット上で大いに話題となった。

昨今何かのロゴが話題になると言ったら「どこぞのアレに似ている」などの「パクリ事案」が多かったように思う。実際、この大阪・関西万博のロゴも発表されるや否や「あれに似ている」という声が相次いだ。

だが、その似ていると言われたものが「寄生獣で見た」「沙耶の唄にいた」「幼少期、山で追いかけられたことがある」など、どちらかというと「遭遇情報」ばかりで「あのロゴに似ている」というような指摘は見た限りではほぼ見つからなかった。

つまり、パクリとかネガティブな理由ではなく「デザインの斬新さ」という、ロゴマークとして極めて真っ当なバズり方をした次第である。しか何故バズったのか、と聞かれると「デザインが真っ当じゃなかった」と答えざるを得ない。

もちろん「真っ当じゃない」というのは個人の感想だが、このロゴを見て「正気か?」というリアクションをした人は多い。ただし、非難ではなく、ヒューと口笛を吹きながら「クレイジー!」と叫んでコロナビールを一気飲みする感じの「正気か?」である。

つまり「活きの良いネタが入った」と受け入れられ、ロゴマークのテーマである「いのちの輝き」というキャラクターとして、瞬く間にツイッターには輝き氏のファンアートが溢れかえった。

肝心の輝き氏のビジュアルだが、似ていると言われた物のラインナップで大体わかると思うが、ロゴでありながら何か生き物っぽい、そして「キモい」のも特徴である。

キモいというのも主観だが、世の中には「キモカワイイ」といような良く分からない概念もあるので、キモいのが悪いというわけでない。

この「生き物っぽい」というのもあながち間違いではなく、いのちの輝き氏は「細胞」をモチーフにしているという。全くそんなつもりがなく、生き物っぽくなってしまったなら悲劇だが、ある意味デザイナーの意図は正しく国民に伝わっているのだ。

広報的には大成功?でも気がかりな「賞味期限」

  • 前回の万博にリスペクトを示した結果「目玉」が誕生するのはデザインの妙ですね

    前回の万博にリスペクトを示した結果「目玉」が誕生するのはデザインの妙ですね

そもそも流れてくる情報が「輝き氏大喜利」ばかりで、輝き氏に関する公式プロフィールに関しては何一つ知らないという人も多いかもしれない。

このロゴマークは「TEAM INARI」という、大阪市浪速区稲荷を拠点に活動するクリエイターグループの作品である。グループの代表は、前の万博で見た「太陽の塔」に衝撃を受け、岡本太郎氏のようなパンチにある作品を作りたかった、と語っている。

そう言われれば、大阪・関西万博には岡本太郎パイセンの太陽の塔を生み出した実績がある。今回いきなりインパクト重視にしたわけではなく、昔から世間の度肝を抜くような斬新なものを出すというテーマはブレていないのだ。

むしろ、無難なロゴを出したら「日和りやがって」と批判されたかもしれない。破天荒な先輩と、真面目な後輩という構図はBLならやぶさかではないが、催しとしては「コンプラを重視するあまりのパワーダウン」と取られてしまう危険性がある。

ちなみに、前の大阪・関西万博と言えば太陽の塔が連想されてしまうが、それがシンボルマークというわけではなく、マークは別にある。そして今回のいのちの輝き氏がビジュアル的にオマージュしたのは、こちらのマークの方なのである。

1970年の大阪・関西万博のマークは、桜の花びらをモチーフにしており、いのちの輝き氏に比べると、かなり地味である。だが、この5枚の花びら部分の色を反転させると、確かにいのちの輝き氏の「目玉」と言われている部分になっているのだ。

反転させて配置を変えるだけで、桜の花びらがクリーチャーになるのだから、デザインと言うのは本当に奥が深い。

このように、いかにも出オチのように見えた2025年大阪・関西万博のロゴだが、インパクトだけではなく、前の万博に対するリスペクトも込められた作品なのである。

ともかく、これだけ話題になったことを考えれば、このロゴマークはひとまず「成功」と言えるのではないだろうか。

ただ心配なのはネット、特にツイッターで話題になったものの賞味期限は非常に短いという点である。実際、発表された日は輝き氏の話題でツイッターは持ち切りだったが、4日経った今ではかなり減ってきている。

この記事が公開されるころには「今更、いのちの輝きの話?」と言われていないことを祈る。