商品というのは、蕎麦打ちAVのように最初から針の穴目がけて発射されているようなものもあるが、多くは「メジャー化」を目指して作られているはずである。
3Dプリンターや4Kテレビだって、「いずれ一家に一台」というつもりで開発されていたかもしれないし、VHSとガチったβパイセンだってそういう気概だったはずだ。
セガサターンやドリームキャストも、本当だったら今ごろ「5」発売の発表をしているつもりだったかもしれないし、あつ森の大ヒットでワンダースワンスイッシが品薄になり、転売ヤーの殴り合いになっていたかもしれないのだ。
死体にローリングソバットをしたいわけではない、健闘を讃えているのだ。
この度、そんな勇者たちが眠る石碑に新たな名前が刻まれることが決定した。
「セグウェイ」
それが勇者の名である。
セグウェイって有名だったけど、そもそも乗ったことある?
我々中年ですら「まだ生きとったんかい、ワレ」と作画・漫☆画太郎の顔になっているくらいだから、若人は存在すら知らないかもしれない。そもそもセグウェイが発表されたのが2001年であるから、小中学生は生まれてすらいなかった時の製品である。
つまり20年近くは生きていたということだ。これは「メジャーを狙ったが大して浸透しなかった商品界」では5億歳ぐらいに相当するので短命商品とは言えない。
まず「セグウェイ」とは、立ち乗りで、車輪が2つ並んだ「並行二輪車」のことである。 ハンドル操作ではなく、乗り手の体重移動で走行や方向転換をすることが特徴であった。
セグウェイは発表後、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾスといったIT界の著名人から「革新的な製品」として絶賛されたという。
つまり「一般とはかけ離れた人たち」から支持されたということである。
もうこの時点でちょっと嫌な雰囲気だが、実際のところ、セグウェイは「米国で100万台売ったあと世界進出」という目標に対し、3年間の販売台数は6,000台だったという。
なぜそこで「やめよう」とならず20年近くウェーイしてしまったのか、逆に不思議である。
売れなかった原因としてはまず「60万円」という値段の高さ、時速19kmと決して速くはなく、歩行の代わりというなら「チャリがある」という意見を論破することが出来なかったからと言われている。
そして、物珍しい商品に高額を出せる人間というのは、ジョギングを日課としているような意識高い系であることが多い。だが、世の中には意識高い系よりも「歩くの面倒くさいデブ」の方が多い。彼らと相性が悪かったため、移動手段としてマスを取ることができなかったのではないか。
高齢者向けにするにしても、既に奴らには「セニアカー」という、いわゆる電動車イス的なマシンがあった。何せ老なのだから、「どうせなら座って乗れた方が良い」と思うに決まっている。
つまり、振り返ってみればセグウェイは蕎麦打ちAVよりもターゲティングが出来ていないシロモノだったということなのだろう。
だがアメリカ的には何としてでもセグウェイを世界のスタンダードにしたかったのか、ブッシュ元大統領が自ら、父のブッシュ元大統領の誕生日プレゼントにセグウェイを贈るという、ややこしいことをしてPRを謀っていたりした。
しかもちゃんとオチもあり、そのブッシュ元大統領(多分父の方)が休暇中セグウェイで転倒しかけるところが報道されてしまい、さらに売り上げを落とす一因になってしまったという。
ちなみに元ブッシュ大統領(多分父の方)が特別どんくさかったというわけではなく、セグウェイは実際転倒事故が多かったようで、このかどでリコールもされている。つまり、安全な乗り物でもなかった、ということだ。
だが、それでもセグウェイを推したいブッシュ元大統領(こっちは息子の方)は当時の日本の総理大臣・小泉首相にもセグウェイをプレゼントしている。ブッシュ元大統領(息子)は、自分では乗りたくなかったのだろうか。
バーチャルボーイがなければ3DSもなかったかもよ
その後、セグウェイはどこかの警察や警備会社などで正式使用されるなどして話題になったりもしていたが、一般化したとは言い難い。特に日本なんかでは、道交法への対応が面倒すぎて、いつまでたっても幻のあのセグウェイだった。ついに2009年、セグウェイ社はイギリスの実業家ジミー・ヘセルデンに買収されてしまう。
そして2010年、ジミー・ヘセルデンはセグウェイで走行中、林道から川に落ちて死んだ。
サラッとすごいことが起きてしまっている。死者が出た。しかも会社のオーナーが死んでしまっているのだ。危険性はもちろん「呪われている」と言われても仕方がない話だ。 そこからさらに何故10年生き延びられたのか、本当に不思議で仕方がない。
その後、2015年に中国上海の企業に買収されてからは特に目につくような出来事はなく、2020年7月15日に製造を終了すると発表された。
製造終了に伴い、セグウェイ工場で働いていた21人が解雇になるという。21名の方には災難であるが、正直「少ない」。本当に、縮小に縮小を重ね、最後ひっそり息を引き取ったという形なのだろう。そういった意味では大往生だ。
メジャーの影には、無数のメジャーになろうとしてなれなかったものたちの死体が転がっている。
だが、その死体1つひとつにもやはりドラマがあるのだと思わされた。