規制と闘いながら市場を拡大させてきたメール便から、なぜ撤退!?

ヤマト運輸は、3月31日付けでクロネコメール便を廃止すると発表した。1997年から18年続けてきたサービスが幕を閉じることになる。

信書(手紙)は郵便で送ることが義務付けられており、メール便で送ると罪に問われる。この「信書規制」に対して、ヤマト運輸は長年にわたり見直しを提言してきたが受け入れられなかった。信書の定義がはっきりしていないことから「お客さまが知らないうちに信書を(メール便で)送ってしまうリスク」を防ぐために、メール便を廃止するという。

ヤマト運輸ホームページ画面(出典 : ヤマト運輸ホームページ)

同社によると、クロネコメール便で信書に該当する文書を送った顧客が、郵便法違反容疑により警察に取り調べを受けたり、書類送検されたりするケースが、2009~2013年度で8件発生している。

ヤマト運輸は、常に規制と闘いながら新市場を切り開いてきた。日本通運に勤務する知人が「ヤマトはグレー(規制に触れるリスクがある)分野にどんどん進出して市場を取った。わが社は規制を厳格に守って出遅れた」と語っていたのが印象に残っている。そのヤマトが18年間、規制と闘いながら市場を拡大させてきたメール便から、なぜ撤退するのか。規制を緩和して新市場を作るというアベノミクス「第3の矢」に、完全に逆行する動きである。

メール便の事業環境悪化も、サービス廃止を後押しか?

顧客まで罪に問う規制当局の締め付けが厳しいという面は、確かにあるだろう。ただし、それだけで今になって撤退とは、どうにも解せない。

メール便の事業環境悪化も、サービス廃止を後押ししたのではないか。メール便は競争が激化し、収益を確保するのが難しくなってきている。さらに、ドライバーやアルバイトの確保が難しくなったことも逆風である。

陸運業界は今、無店舗販売の増加で超多忙になっている。運送サービスには、「B2B(企業内物流・企業間物流)」「B2C(企業から消費者へカタログや商品を送付)」「C2C(消費者間の商品送付、ネットオークションの商品送付など)」の3種類がある。今、特に繁忙なのは「B2C」ビジネスである。

「B2C」ビジネスは、配送先が小口に分かれて手間がかかるが、集荷は企業からまとめて行えるので管理しやすい。一方、集荷先も配送先も分散している「C2C」ビジネスは、手間がかかる上に単価も低く、採算を取るのが困難である。メール便も、「B2C」が「C2C」よりも採算が良かったと推定される。

クロネコメール便を利用していた個人顧客はどうなるのか?

ヤマト運輸は、これまでクロネコメール便を利用していた法人顧客には、「非信書に限定し、運賃体系を見直したうえ、本年4月1日より『クロネコDM便』と名前を変えて、サービスを継続いたします」と発表している。

では、クロネコメール便を利用していた個人顧客はどうなるのか。「小さな荷物をご利用いただいている個人、法人のお客さま向けには、同じく本年4月1日より小さな荷物をあんしんで手軽にご利用いただける宅急便のサービスを拡充いたします」としている。新サービスの詳細は、3月に発表する予定となっている。

低価格で個人に評判のよかったメール便市場は徐々に縮小していく運命にあるのかもしれない。ここにもインフレの影が見える。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。