最近、株式市場で、原油急落の恩恵を受けて原燃料費の低下が見込まれる電力・空運株などが上昇している。28日は中国電力株が100円(6.6%)高の1,614円となった。2015年3月期経常利益予想を、210億円から430億円に増額したことが好感された。同社説明によると「原油CIF価格の大幅な低下などによる原材料費の減少が見込まれることや経営全般の効率化に努めていることなどが」利益見通しの増額修正につながった。  

(1)原燃料調整制度があるので原油急落メリットは最終的に電力会社には残らない

電力会社は、「原燃料費調整制度」により、燃料価格変動によるコスト増減を、3カ月後の電力料金に自動的に転嫁できることになっている。燃料コストが上がれば料金を3カ月後に引き上げ、燃料コストが下がれば、3カ月後に料金を引き下げる。

2月の電力料金は昨年9~11月の平均燃料価格から計算する。9~11月は円安によって輸入LNGコストが上昇していたので、中国電力および東京・中部・関西・東北・九州の6電力会社が電力料金を引き上げる。

足元の燃料コストが減少しているにもかかわらず、料金を引き上げるので、2015年3月期の利益は計画以上に出る。

ただし、足元の原油急落の影響を受けて、電力料金は4月以降、徐々に下がってくると予想される。電力会社の利益は、今期(2015年3月期)は燃料コスト低下で上ぶれしても、来期(2016年3月期)にはその効果は残らない。

来期には、長期契約のLNG輸入価格が下がってくることが見込まれる。長期契約のLNG価格に、原油連動条項がついているからだ。LNGガス火力への依存が大きい日本の電力会社は、LNG価格の低下でさらにメリットを受けることになりそうだ。ただし、そのメリットも最終的には電力料金の引き下げを通じて、消費者に還元される。

(2)原発事業を有する電力9社は投資対象としてリスクが高い

原発事業を行ってきた電力9社(東京・関西・中部・九州・中国・四国・北陸・東北・北海道)への投資はリスクが高いと判断される。それは、核燃料サイクル事業が実行可能か否か、現時点でわからないからだ。

(※注 沖縄電力は原発を保有していない。Jパワーは原発の建設を始めているが未完成である)

核燃料サイクル実施を前提とすると、使用済み核燃料はプルサーマル発電や高速増殖炉で新たに発電を行うための「資源」となる。しかし、核燃料サイクルを断念する場合、使用済み核燃料は、最終処分に莫大なコストがかかる「核のゴミ」となる。

今の日本は、技術的にまったく完成のメドがたっていない核燃料サイクル事業が実現することを前提に原発事業を推進している。つまり、使用済み核燃料をバランスシートでは「資源」として評価している。

ところが、最近になって核燃料サイクルは実現が不可能との見方が強まってきている。もし、政府が「核燃料サイクルを実施しない」と判断を変える場合、国内に積み上がった使用済み核燃料は「資源」から「核のゴミ」に変わる。その最終処分コスト負担によって、電力会社の財務は悪化する。

<参考>核燃料サイクル事業について

核燃料サイクル事業とは、使用済み核燃料を再生してMOX燃料を作り、繰り返し発電に使う事業のことである。最終的に天然ウランに含まれるエネルギーの7割近くを発電に利用できる可能性がある。

現在の原発(軽水炉)で、燃料として使用しているのはウラン235だけである。ウラン235は天然ウランに約0.7%しか含まれていない。残り99.3%は核分裂しないウラン238なので、発電に使えない。つまり、現在の原発では天然ウランの持つエネルギーの約0.7%しか使用していないことになる。アメリカ・カナダ・ドイツ・フィンランド・スウェーデンなどは、技術的にむずかしくコストが嵩む核燃料サイクルはやらない方針である。ウラン235だけ使って発電し、使用済み核燃料は、廃棄処分する方針だ(図1)。

<図1>核燃料サイクルを行わない場合:使用済み核燃料を直接処分

ウラン238の持つエネルギーを活用するのが核燃料サイクル事業だ。ウラン238の一部は、ウラン235が分裂する際に出す中性子を吸収することでプルトニウムに変わる。このプルトニウムを使って再生燃料(MOX燃料)を作り軽水炉で発電を行うのが、プルサーマル発電である(図2)。

<図2>核燃料サイクルを行う場合:プルサーマル発電まで

さらに、MOX燃料を使って高速増殖炉で発電すると、発電に使ったプルトニウムの量を大幅に上回るプルトニウムが得られる。そうすると、使用済み核燃料は、繰り返し何回も使える貴重な資源となる(図3)。

<図3>核燃料サイクルを行う場合:高速増殖炉まで

高速増殖炉を実現して、MOX燃料を何回も再生して使用し、天然ウランの持つエネルギーの7割まで活用できれば、原子力は計算上、人類が使用するエネルギーの1000~2000年分を賄うことができるようになるはずだった。

ところが、日本の核燃料サイクル事業は、現時点でまだ何も実現していない。使用済燃料から未使用のウランやプルトニウムを取り出してMOX燃料に加工する予定であった青森県六ヶ所村の再処理工場は技術上の問題が次々と出て完成していない。

核燃料サイクル構想は、高速増殖炉の開発でも遅滞している。日本では、再処理したプルトニウムで動くはずであった高速増殖炉「もんじゅ」が1995年にナトリウム漏洩事故を起こして以来、実質稼働停止のままだ。欧米でも技術的な困難と経済性から、高速増殖炉の開発は断念する国が増えている。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。