株式市場で、産業用ロボット(自動車などモノを作るロボット)への注目が急に高まってきた。昨年まで、株式市場で話題になるロボットは、産業用ロボットではなく、サービス・ロボット(人間に代わって良質なサービスを提供するロボット)だった。介護ロボット・警備ロボットなど、人手不足が深刻な分野で、いかに良質なサービスを供給するロボットを作るかが重要なテーマだった。
ところが、足元、突然、産業用ロボットが注目され始めた。中国が産業用ロボットへの投資を急に増やし始めたからだ。
日本ロボット工業会の見通しによると、2017年の産業用ロボット出荷額が前年比7%増の7,500億円と過去最高になる。
中国向け輸出が拡大している。中国では、人件費上昇を受けて、自動化・省力化投資が急拡大している。世界トップとなったスマートフォンや、自動車・通信関連で、投資が伸びている。 中国向けが牽引する形で、日本の産業用ロボット出荷指数は、2017年に入ってから伸びが加速している。
日本の産業用ロボット・メーカーは、ロボット需要が世界的に拡大していることを受けて、日本および中国で、ロボットの増産投資を行う。ファナックや安川電機が、国内あるいは中国で、産業用ロボットの増産投資を行う。
産業用ロボットは、一時、成長が止まっていた。世界的に製造業の能力過剰が広がり、モノの値段が上がりにくくなったことが原因である。
20世紀は、モノの豊かさを求めて、人類が努力した時代だった。良質なモノをいち早く大量生産する企業が、成長企業となった。そうした中、20世紀の終盤に、産業用ロボットが急成長した。高品質の製品を安価に量産できる技術が威力を発揮し、自動車や機械の量産技術が一気に拡大した。
ところが、21世紀に入り、製造業は、軒並み能力過剰となった。大量生産技術が高度に発達したために、モノは一時的に不足しても、すぐ量産されて供給過剰となる。特に、中国が参入して、採算度外視で競争する分野では、価格破壊が止まらなくなった。欧米では、供給過剰で赤字になると生産が減るのが普通だ。ところが、中国などアジア企業が入ってくると、全社が赤字になっても増産競争を止めない。それは「アジア的競争」と呼ばれた。中国企業の参入によって、価格破壊に歯止めがかからなくなった分野が増えた。こうした背景もあって、産業ロボットはもうあまり伸びないと言われた時期もあった。
代わって不足するものが、良質なサービスだった。人手をかけないと供給できない良質なサービスは、恒常的に不足するようになった。21世紀は、良質なサービスの大量供給に道を開くITサービスや、サービス・ロボットの開発に注目が集まった。
今、改めて、産業用ロボットにも脚光が当たってきた。中国が産業用ロボットを爆買いするようになってきたからだ。中国でも人件費が上昇し、省力化投資が待ったなしになってきたことが影響している。
長い目で見れば、中国が産業用ロボットを爆買いすることで、将来、一段と製造業の過剰能力が拡大する可能性もある。ただ、それは、先の話である。しばらくは、産業用ロボットの成長が再び注目される局面に入ると考えられる。
執筆者プロフィール : 窪田 真之
楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。
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