今週の日経平均は、11月13日(金)の夜にパリで起こった同時多発テロを嫌気して、調整が予想される。13日夜(日本時間14日早朝)、パリ市内と近郊の6か所でほぼ同時刻にテロが起こり、129人が死亡した。250人以上の負傷者には重傷者も含まれており、死亡者数は今後増える可能性もある。過激派組織IS(イスラム国)が犯行声明を出しており、オランド仏大統領は、フランス全土に非常事態宣言を発令した。

13日夜(日本時間14日早朝)、パリ市内と近郊の6か所でほぼ同時刻にテロが起こり、129人が死亡した

この事件の影響を、世界で最初に織り込むのが、今日の東京市場になる。欧州市場のしまった後に起こった事件なので、欧州市場は織り込んでいない。

欧米諸国とISの対立は根が深く、短期的な解決は見込まれない。今後テロの影響が世界中に拡散していく間、世界の金融市場は、警戒モードに入る可能性がある。フランスを含め欧州各国では、テロへの警戒が厳重になり、経済活動に短期的に悪影響を及ぼす可能性もある。欧米で移民排斥運動が活発になれば、それが新たな負の連鎖を生む、リスクもある。

ところで、10月31日にエジプトを出発したロシア旅客機がシナイ半島に墜落し、乗客乗員224人が犠牲になった件も、ISによるテロとの見方がある。ISが犯行声明を出したことに対し、当初は、単なる宣伝のためとの見方もあった。ただ、ロシアがシリア領内のISへの空爆を始めた直後であり、さらに、ボイスレコーダーに爆発音とみられる音が入っていることから、テロとの見方が強まっている。

南沙諸島の米中緊迫にも警戒が必要

中国が南沙諸島の岩礁を埋め立てて基地を作り、領有を宣言していること対し、米国がついにこれを阻止する行動に出ている。南沙諸島の領有問題は、ベトナム・フィリピンなど南沙諸島を囲む国々と、中国の対立としてとらえられていたが、米中の対立に発展しつつある。

米軍は、イージス艦を基地建設中の岩礁の12海里内を航行させ、B52爆撃機を近隣に飛行させ、中国の領有を認めない態度を明らかにしている。中国軍との間に、不測の事態が起こりかねない状態と言える。米中間で、たとえ小規模でも軍事的衝突があれば、世界の株式市場に悪影響を及ぼす。

ただし、中国は急ピッチに軍事力を拡大したとはいえ、現時点で、米軍に対抗する力がないことは明らかだ。中国もそれは理解しているはずなので、中国側が行動を自制すれば問題が拡散しない可能性もある。

ただ、事態を複雑にしているのは、中国国内の政治情勢だ。中国共産党の一党支配に、国内では不満が高まっている。中国政府が対外政策で弱腰を見せると、中国国内で反共産党運動に火がつきかねない危うさがある。中国政府は、米国との衝突を避けつつ、南沙諸島問題で致命的な弱みをさらすわけにいかない状態だ。

中国は、アジアで孤立することを恐れ、アジアに「平和攻勢」をかけ、それを主導することで、メンツを保とうとしているように見える。長年にわたって実現しなかった日中韓首脳会談や、中台(中国と台湾)首脳会談がいきなり実現したのは、中国の「平和攻勢」の一環ととれる。

どんな背景があるにしろ、課題であった首脳会談が実現したことは、東アジアの安定に寄与する。ただし、これで東アジアの安定が続くことが保証されたわけではなく、南沙諸島問題の落としどころも見えていないことから、しばらく、東アジアの地政学リスクからも目が離せない。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。