4日、日本郵政・ゆうちょ銀行・かんぽ生命保険の3社が東証1部に新規上場した。初値はいずれも公募価格を大きく上回り、好調なスタートとなった。配当利回りが2~3%と高いことが評価された。ただし、株価の大幅上昇によって、5日午前10時時点の株価で投資した場合の予想配当利回りで見ると、かんぽ生命は1.4%まで低下している。
日本郵政グループ3社の予想配当利回り
(注:日本郵政とゆうちょ銀行は上場後2018年3月期まで配当性向50%以上を目安とする方針を表明。2016年3月末に半期分(純利益の25%相当)の配当金を支払う予定だが、それを1年分の配当に換算して配当利回りを計算) |
日本郵政グループ3社の将来には、期待もあるが不安もある。ゆうちょ銀行・かんぽ生命には、政府系金融機関としてさまざまな制約がかかっている。手足を縛られたままでは、成長は難しい。利益を成長させるためには、業務範囲の拡大が必要だが、政府が実質的に株をほとんど持った状態で業務範囲をどんどん拡大したら、「政府保証を利用した民業圧迫」と言われる。たとえば、ゆうちょ銀行には1人当たり預金が上限1千万円までと規制がかかっている。上限を2千万円まで引き上げることが検討されたが、今のままでは認められる公算は低い。今回の上場で、約10%の株が民間に移ったが、まだ90%を政府(日本郵政)が保有したままであるからだ。
業務範囲の本格的な拡大は、完全民営化の後になる。政府との資本関係が完全になくなれば、政府系金融機関としての制約から解放される。ただし、そうなるまでに何十年もかかる可能性がある。政府はとりあえず、ゆうちょ銀行・かんぽ生命の保有株の半分まで売却する計画をたてている。半分まで売却が進めば、業務の自由度もそれなりに拡大する可能性がある。ただし、半分売却するにも長い年月がかかる可能性がある。経営の自由度を高めて、成長戦略をとれるようになるには、時間を要する。
親会社の日本郵政には、さらに複雑な問題がからむ。2016年3月期に日本郵政は連結で8600億円の経常利益をあげる予想をたてているが、そのほとんどを、ゆうちょ銀行とかんぽ生命に依存している。
(表)日本郵政グループの2016年3月期経常利益(会社予想)
ゆうちょ銀行・かんぽ生命の利益のほとんどが日本郵政の連結利益に取り込まれるうちはいいが、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の保有が半分になった時が心配だ。ゆうちょ銀行とかんぽ生命の貢献利益も、半分に減少する。
それまでに、日本郵便とこれから始める新規事業の利益を合わせて、現在の連結利益を上回る利益をあげるのは、かなりむずかしいと言わざるを得ない。日本郵便は、優良不動産の保有が多く、再開発を進めることで不動産業の利益拡大が期待される。経営効率化を進めれば、郵便やゆうパックなど国内物流事業の収益性も高められるだろう。全国に広がる郵便局を活用してさまざまな新規事業を立ち上げる期待もある。ただ、それでもゆうちょ銀行・かんぽ生命からの貢献利益が抜けていく穴を埋めるのは、難しいだろう。
執筆者プロフィール : 窪田 真之
楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。