シリア内戦の根底にある米国・ロシアの対立を議論することがタブーに
内戦が続くシリアからヨーロッパへの難民流入が、急増している。EU(ヨーロッパ共同体)は16万人を受け入れることを表明したが、それでは問題の解決にならない。トルコなど周辺国に脱出したシリア難民は400万人に上り、その多くが生活の糧を得るためにヨーロッパを目指しているからだ。さらにシリア国内に避難民が800万人残されており、今後、難民として国外に脱出する可能性がある。
EUは人道主義を標榜しながら、過剰な難民流入の阻止に力を入れざるを得なくなっている。ヨーロッパ各地で、難民や移民の排斥運動が起こり、難民の押し付け合いが起こっているからだ。
この問題を、どう解決すべきか? 増える一方の難民受け入れの分担だけ議論しても、らちが明かない。どうしたら難民増加を抑えられるか考えるのが先なのに、そこの議論が進まない。シリア内戦の根底にある米国・ロシアの対立を議論することがタブーになっているからだ。
内戦が終結すれば、海外に逃れ出たシリア難民が自国へ戻る流れも
シリア内戦には、欧米や中東各国の利害が複雑にからんでいる。2011年、独裁政権であったアサド政権に対し、「アラブの春」に感化された反政府勢力が立ち上がり、武力衝突が起こったことが内戦の始まりとなった。反政府勢力を欧米トルコなどが支援する一方、アサド政権側をロシア・イランが支援したため、内戦は長期化した。シリア国内の民族・宗教の対立もからんだため、反政府勢力は一枚岩とはならず、分裂した戦いが続いている。
事態を複雑にしたのは、反政府勢力の一部が、イラクで活動する武装勢力IS(イスラム国)と結びついたことだ。ISの勢力拡大を抑えるために、米国はシリアへの空爆を開始した。空爆には英仏独など欧州諸国やIS勢力の拡大を恐れるサウジアラビアなど中東5カ国も参加した。
こうしてシリア内戦はアサド政権・反政府勢力・ISと三つ巴の争いとなった。アサド政権から米国に対し、ISの勢力拡大を抑える戦いに集中するために連携する提案がなされているが、米国はこれを拒否している。シリア内戦は終結のメドがなくなり、シリア国民は日々生命や生活を奪われる危機から逃れるために、国外に出ざるを得なくなっている。
シリア難民が皆、経済的に豊かなヨーロッパに行きたがっているわけではない。言葉も宗教も文化も異なる国に行くより、自分の生まれ育ったシリアで平和に暮らすことを一番望んでいることは間違いない。内戦が終結すれば、海外に逃れ出たシリア難民が自国へ戻る流れも出るだろう。米国・ロシアは、シリア国民の悲劇を収束に向かわせる鍵を握っている。シリアでのIS勢力拡大を抑えつつ、停戦を実現させるための交渉をすぐにも開始すべきである。
執筆者プロフィール : 窪田 真之
楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。