(1)独フォルクスワーゲンから、とんでもない不祥事が飛び出す

独フォルクスワーゲン(VW)のディーゼルエンジン「EA189」を搭載した車が、米国で行われる廃ガス規制に関する試験を、違法ソフトを使って不正にクリアしていたことが明らかになった。VWは、「EA189」を搭載する対象車が世界各国で1100万台に及ぶ可能性があると発表し、この問題への対処費用65億ユーロ(約8670億円)の引き当てを実施した。

しかし、損失がそれだけで済むとは考えられない。米国だけで、1兆円を超える制裁金を科される可能性がある。さらに、イタリア・韓国もVW車の調査を始めており、今後制裁金を科す国が増えてくることが予想される。

VWは、ドイツを代表する製造業で、この問題の影響はドイツの製造業全般に及ぶ可能性がある。もし欧州が力を入れてきたクリーン・ディーゼル車全般への不信につながれば、欧州の製造業全般にダメージが及ぶ。

(2)ライバルの大失態が、日本の自動車産業に単純にプラスとは限らない

ドイツ車は、日本車にとって、常に強力なライバルで、アジアでも販売を拡大している。日中関係が悪化して中国で日本車の販売が低下した時、代わりにドイツ車や韓国車がシェアを伸ばした。

その強力なライバルが大失態をしでかしたわけだから、表面的には日本の自動車業界にプラスだ。ただし、VWの問題は、他山の石と言い切れない。日本の自動車業界もタカタのエアバック問題など、未解決の品質問題を抱えており、同じように矢面にたたされるリスクを抱えているからだ。

エンジンや部品の共有化が自動車業界全体に広がる中、1つの部品の品質問題が、世界規模のリコールにつながるリスクが高まっている。また、たった1つの品質問題から始まって、世界各国から次々と課徴金を科せられたり、集団訴訟を受けたりするリスクも高まっている。今回はVWの問題だったが、いつ品質問題で日本の自動車業界にも火の粉がふりかからないとは限らない。

(3)次世代自動車の開発競争では日本にメリットも

日本の自動車業界に追い風と言えるのは、環境性能のすぐれた次世代車の開発で、日本のハイブリッド技術が相対的に優位にたつ可能性があることだ。次世代環境車の開発で、ドイツと日本は熾烈な争いを展開してきた。日本はトヨタ自動車を中心に、ハイブリッド車の開発で世界の最先端を走っている。一方、ドイツなど欧州勢は、クリーン・ディーゼル車の開発で先端を走っている。近年、クリーン・ディーゼル車の性能の向上が著しく、ハイブリッド車の普及を目指す日本にとって脅威となっていた。そのクリーン・ディーゼル車の性能が、不正にかさ上げされていたことが明らかになったことは、敵失とはいえ、ハイブリッド車の普及に追い風だ。

ただし、次世代自動車におけるハイブリッド車のライバルは、クリーン・ディーゼル車だけではない。電気自動車との競争も、まだ続いている。電気自動車の性能向上も、ハイブリッド車にとって脅威となっている。近年、1回の充電で200キロメートル以上走る電気自動車が出てきたこと、さらに電気自動車の応用で「自動運転車」の技術開発が進んでいることが、電気自動車の魅力を高めている。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。