株主は、大塚久美子社長に経営を委ねることを選択

株主の審判がくだった。株主は、家具の低価格化に合わせて、中・低価格帯の商品を充実させようとしている大塚久美子社長に、経営を委ねることを選択した。高価格帯の家具をていねいな接客で売っていくことを主張する久美子社長の実父、大塚勝久氏の戦略では、大塚家具の建て直しはむずかしいと判断したことになる。

これで大塚家具の経営は正常化するか? 先行きは厳しいと言わざるを得ない。大塚勝久氏は今後とも大株主として残り、久美子社長の経営に異議を唱える株主提案を出し続ける可能性がある。また、久美子社長支持と勝久氏支持に二分して争った大塚家具の社内にも、しこりが残る。(総会が終わって結論が出れば)「ノーサイド」と簡単にはならないだろう。

家具業界全体に、ニトリやIKEAが主導する低価格化の逆風が吹いており、大塚家具の商品戦略がそれに合わなくなっている。大塚家具が方向転換するのは簡単ではない。久美子社長が経営しても、勝久氏が経営しても、どちらも上手くいかない可能性もある。経営権争奪に勝った久美子社長は、今後の経営の責任を持つわけだから、茨の道になる。

大塚家具ホームページ画面

勝久氏の考える戦略は、時代に合っていない可能性

機関投資家の多くは、久美子社長支持で投票したと考えられるが、環境変化をとらえて経営スタイルを変えようとしている社長の方が、従来の経営スタイルを貫く勝久氏よりもましと考えただけで、久美子社長に全幅の信頼を寄せているわけではない。

今は、若者が一戸建てを買って家具一式そろえることを目指す時代ではない。そもそもマンション住まいが多い世代では、場所をとる家具そのものを敬遠し、ホームセンターなどで組み立て式家具を買って済ますことも多くなっている。勝久氏の考える戦略は、時代に合っていない可能性がある。

創業者の勝久氏は、1980年代以降、低価格戦略で大塚家具を急成長させた。卸を通さないメーカーからの直接買い付けで低価格を実現し、家具販売に価格破壊を起こした。当時、大塚家具の低価格販売に顧客を奪われた家具流通業界からは、怨嗟の声が上がった。

ところが、かつて価格破壊の盟主だった大塚家具が、今ニトリやIKEAの低価格戦略に食われて業績が悪化しているのは、いかにも皮肉だ。大塚家具は1999年に閉鎖された三越新宿店に出店するなど、いつのまにか、一等地で高級家具を売る戦略に転換していた。

久美子社長の経営戦略にも不安、「中価格帯」に大きな需要はあるのか?

近年、高級ベッドの販売が好調であるなど、高級品の消費が回復している傾向もあり、勝久氏が主張する対面販売による高価格路線にまったく分がないわけではない。「一点豪華」のこだわり家具を求める層は確かにいる。ただし、かつてのように家具をまとめ買いする消費者は少なく、勝久氏の戦略では、先行きに不安が残る。

一方、久美子社長の経営戦略にも不安がある。時代の流れに合わせて中・低価格帯を重視する戦略も、成否は未知数だ。家具の購買重要が、高価格帯と低価格帯に二極化する中で、果たして「中価格帯」に大きな需要はあるのだろうか? 筆者は、かつて大塚家具のアナリスト向け店舗見学会に参加したことがあるが、その時「100万円を超える芸術品のような家具から、中国製の普及価格(低価格)家具まで一通り案内すると、ほとんどのお客様が普及価格帯の家具を買っていく」と説明されたことを覚えている。

大塚家具が、低価格帯でニトリを追撃するのも難しい。ニトリは、生産や物流をトータルで管理して低価格を実現しているが、大塚家具は、そこができていない。さらに言うと、ニトリは家具だけでなく、住居製品全般を扱うホームセンターを併営している。日々の生活に必要な日用品も販売しているので、家具中心に販売している大塚家具より来店客を呼び込みやすくなっている。大塚家具の経営建て直しは、容易でない。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。