新連載『窪田真之の「時事深層」』は、日本株ファンドマネージャー歴25年、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジストの窪田真之氏が、話題になっている時事テーマについて、深く、鋭く、その真相に迫ります。
経営者たちの「中国の成長鈍化」への懸念の根底にある中国の問題点とは?
日本経済新聞社が中国、韓国の有力紙と共同で実施した日中韓経営者アンケートで2015年の世界経済の不安要因を3つまで聞いたところ、日中韓ともに中国の成長鈍化との回答が最も多かった。
中国が過去に行った「過剰投資」の後始末がついていないことが不安の根底にある。この問題は、中国がまだ完全な資本主義国になっていないことに根ざしていると筆者は考えている。中国は、もともと社会主義国であった。1980年代に資本主義革命を進め、社会主義の国家体制を残したまま、実質的に経済のしくみを資本主義に近づけていった。その結果、現在、社会主義と資本主義が混在している国になっている。
社会主義では、国家がすべての経済を管理していた。「計画経済」といわれるものだ。中国の公共投資には、今でも計画経済の考え方が残っている。ひとたび投資計画をたてると、経済環境が変わってもやり続けることがある。それが、過剰投資を生み、その後始末で中国経済が悪化する不安を生じている。
資源開発では損失が発生する懸念、不動産価格下落も不安要因
最近、世界的に石炭や原油など資源価格が急落している。世界中の資源を大量消費してきた中国にとって、資源価格の下落は干天の慈雨のはずである。ところが、中国政府が押し進めてきた石炭などの資源開発では損失が発生する懸念が生じている。
高騰が続いてきた中国の不動産価格が下がり始めていることも不安を生じている。地方政府が進めてきた不動産開発に、損失が生じる懸念がある。銀行を通さない「理財商品」などを通じて不動産開発資金が供給されてきたことが問題を深刻にしている。不動産が下がって理財商品のデフォルトが起こると、日本同様の金融危機に発展するとの見方もある。
ただ、こうした中国経済への危惧は、今に始まったことではない。2008年の北京オリンピックが終わった直後から、語り続けられてきたことである。「中国バブルが崩壊する」と言われて久しいが、今でも中国は7%前後の高い成長率を維持している。
なぜ、中国経済は高成長を維持できるのか?
なぜ、中国経済は高成長を維持できるのか。ここにも、元「計画経済」の影が残っている。財政・金融面で景気刺激策をとれば、急激な景気悪化は避けることが可能なのだ。
中国には、まだ財政上のゆとりがある。中国経済が急に悪化して社会不安が起こることを避けるために、中国政府は2015年も公共投資を出し続けるだろう。
また、中国には、金融政策から景気を刺激する余地も残っている。中国では人為的に高い金利体系が維持されているので、それを下げていくことで景気刺激が可能だ。日本のように金利が下限に張り付いている国では金利を下げて経済を刺激することはできないが、中国はまだ単純に金利を下げる政策にも効果がある。
個人消費が成長期に、2015年も中国は6%台後半の成長を維持
中国経済をささえるもう1つの柱は、個人消費である。中国の名目GDPの約半分は消費(政府消費も含むベース)だが、その消費が成長期を迎えている。
2015年も中国の消費は年率10%台の成長を続けることができると予想している。つまり、消費だけで中国GDPは年率5%押し上げられることになる。それに、財政・金融面の景気刺激策を加えると、2015年も中国は6%台後半の成長を維持できるであろう。
(※写真画像は本文とは関係ありません)
執筆者プロフィール : 窪田 真之
楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。