人気の国産ミドルサイズSUV5車種を乗り比べると、走りの味はまさに十人十色。全てのクルマが大なり小なり電動化技術を活用しているが、例えば日産「エクストレイル」とホンダ「ZR-V」では評価したくなるポイントが全く異なる。各モデルの個性を味わいながら順位を付けてみた。
乗り比べたのはトヨタ自動車「RAV4」(シリーズパラレルハイブリッド)、三菱自動車工業「アウトランダーPHEV」(プライグインハイブリッド車=PHEV)、日産自動車「エクストレイル」(シリーズハイブリッド=e-POWER)、マツダ「CX-60」(ディーゼルマイルドハイブリッド)、ホンダ「ZR-V」(2モーターハイブリッド=e:HEV)の5車種。今回は走行性能を比べてみる。
1位は日産「エクストレイル」
走行性能編の第1位に挙げたいのは日産「エクストレイル」だ。パワートレインは最新世代になったシリーズ方式ハイブリッドの「e-POWER」のみなのだが、電気で走るSUVの気持ちよさにやられた。
e-POWERの何が新しくなったのかというと、モーターを駆動するための発電用エンジンに日産が世界で初めて量産化した可変圧縮式「VCターボエンジン」を使用しているところだ。この「KR15DDT」型1.5L直列直噴3気筒ターボエンジンは、アクチュエーターモーターとコンロッドのリンク機構によってピストンの位置を変えることで、シリンダー内の圧縮比を8.0~14.0の範囲で変更できる代物。低負荷時には圧縮比を高めたリーンバーン、高負荷時には圧縮比を低くしてターボを使うなどの制御により、あらゆる状況で最適な効率で燃焼させられるのが特徴だ。
駆動方式はFFと4WD「e-4ORCE」があり、フロントアクスル用の「BM46型」交流同期モーターは最高出力150kW(204PS)/最大トルク330Nm、4WDのリアアクスル用「MM48型」交流同期モーターは最高出力100kW(136PS)/最大トルク195Nmを発生する。
e-4ORCEの前後駆動配分は30:70~100:0までの可変式(理論的には0:100が可能なはずではあるが)。駆動用のバッテリーとして96セル、容量1.8kWhのリチウムイオン電池を前席床下に搭載している。燃費はFFが19.7km/L、4WDが18.3~18.4km/Lだ。
走ってみると、モーターだけで駆動しているので当然ではあるのだが、まるでEVのごとく高トルクと静粛さをキープしていて、加減速がまことに気持ちよく行える。停車まではいけないけれども、ワンペダルに近い走りを実現できていて、慣れると病みつきになってしまうほどだ。「プロパイロット」の追従能力も実用性十分だった。
2位はホンダ「ZR-V」
ホンダ「ZR-V」のe:HEV(ハイブリッド車)は最高出力104kW/141PS、最大トルク182Nmの2.0L直列4気筒ガソリンエンジンと135kW/184PS、310Nmのモーターを組み合わせる。駆動方式は4WDとFFがある。
試乗したのは最上位グレードの「e:HEV Z」(4WDモデル)だ。スイッチ式ギアセレクターで「D」レンジに入れて発進すると、走り出しは「EVモード」なので静かなまま。車速が乗ってくると、エンジンで発電した電力だけでなく、バッテリーからの電力も合わせて走行用モーターを駆動するので、シャープで伸びのよい加速が行える。
アクセルを強く踏み込んだ時のレスポンスは最高で、「リニアシフトコントロール」制御によってステップ変速を行うようなエンジンサウンド=ホンダミュージックをわざわざ聞かせてくれるセッティングが泣かせる。もちろんこれ、最近流行りのギミック音(人工的なエンジン音)ではない。
パワートレイン開発を担当した開発戦略統括部 アシスタントチーフエンジニアの斉藤武史氏によると、「エンジン剛性や燃焼速度、吸排気系などさまざまなファクターはありますが、ホンダが作り上げると自然にあの音になるんです」とのこと。アイルトン・セナがドライブしたF1のエンジン開発にも携わっていたベテランで、2万回転が当たり前という時代を体験してきた人だけに、その言葉には説得力がある。
1時間半ほど走った時のメーター上での燃費は約18km/L。4WDシステムはプロペラシャフトで後輪と直結する機械式で、その作動割合はリア強めでセットしてある。コーナリング中は、リアがすぐに向きを変えてぴたりと姿勢が決まるというFRスポーツカーのような感覚まで味わうことができる。つまりZR-Vは、スポーツ度満点なSUVなのだ。
3位は三菱自動車「アウトランダーPHEV」
三菱自動車「アウトランダーPHEV」のパワートレインはツインモーター4WDの「S-AWD」システムを搭載するPHEV一択。98kW(133PS)/195Nmを発生する「4B12 MIVEC」型2.4L4気筒ガソリンエンジンに前85kW(116PS)/255Nm、後100kW(136PS)/195Nmの2モーターを組み合わせるシステムは先代からの改良型だが、大幅にパワーアップしている。
駆動用リチウムイオンバッテリーの総電力量は先代の12.0kWhから20kWhに増加。EVでの航続距離は同60km前後から87km(Mグレード、G/Pグレードは83km)まで伸びたので、通勤や買い物などの使い方だけだと、ほぼモーター走行だけで賄うことができるはずだ。燃料タンクの容量も45Lから56Lに拡大。満充電でガソリン満タンなら計1,000kmを走れるというのはすごい。
ダイヤル式のドライブモードセレクターは「ノーマル」の左側に「エコ」と「パワー」、右側に「ターマック」「グラベル」「スノー」「マッド」が並んでいる。回生レベルはパドルを使って「B0」から「B5」の幅で調整可能だ。シフトノブの右側にある「イノベーティブペダル」スイッチを押せばアクセルペダルのみで加減速ができる、いわゆる「ワンペダル」走行が可能になる。ただし、停止するにはブレーキペダルを踏まなければならないタイプだ。ワンペダル時の減速Gの立ち上がり方が少し強すぎるのと、路面状態によってはロードノイズの変化が目立ってしまう点は少し気になった。
4位はトヨタ自動車「RAV4」
トヨタ「RAV4」には3種のパワートレイン(プラグインハイブリッド、ハイブリッド、ガソリン)と3種の4WD駆動方式(ダイナミックトルクコントロール4WD、ダイナミックトルクベクタリングAWD、E-Four)が用意されている。試乗したのは「アドベンチャー」グレードのハイブリッドモデル。パワートレインは131kW(178PS)/221Nmの2.5Lガソリンエンジンとフロント88kW(120PS)/202Nm、リア40kW(54PS)/121Nmの2つのモーターの組み合わせだ。システム総合で163kW(222PS)を発生する。
電気式のE-Four(4輪駆動システム)は前後トルク配分を100:0~20:80の範囲で変更可能。ドライブモードはセンターコンソールのダイヤルで「エコ」「ノーマル」「スポーツ」の3つが選べるうえ、上下のボタンでオフロード用の「トライアル」モードと「EV」モードが選べるようになっている。
積極的にオフロードに入って行きたくなる仕様になっている割には、一般道での走りも軽快で活発。しかもサスペンションがよく動いて、路面のショックを上手に吸収してくれる。しばらく走った後の燃費も20.8km/Lをメーター表示していたので、こちらも十分に満足できる性能だ。
5位はマツダ「CX-60」
マツダ「CX-60」を結果的に最下位としてしまったが、これには理由がある。
CX-60がFRベースのプラットフォームに搭載するパワートレインは4種類。新開発の3.3L直列6気筒ディーゼルエンジン、それに48Vマイルドハイブリッドシステムを組み合わせるディーゼルMHEV、2.5L直列4気筒ガソリンエンジン、それにプラグインハイブリッドシステムを組み合わせるPHEVだ。
試乗したのはXDハイブリッドモデル(ディーゼルMHEV)。最高出力187kW(254PS)/3,750rpm、最大トルク550Nm/1,500~2,400rpmの3.3L直6ディーゼルエンジンと12kW(16.3PS)、153Nmを発生するモーターの組み合わせだ。モーターは発電、スターター、走行アシストの3役をこなす。WLTCモード燃費は21.0km/Lを誇っているし、燃料も相対的には安い軽油なので、おサイフ的には高評価だ。
FRベース&直6というだけでプレミアムなイメージがもりもりと湧いてくるし、世のクルマ好きを喜ばせる走りが味わえるものとワクワクしながら走り出してみると、思っていたのとはちょっと違う仕上がりだった。直6の回転フィールが思ったほどスムーズではなく、アイドリングストップからの復帰の振動が今時珍しく大きいのだ。
また、ピッチングを抑えるようなセッティングを施した足回りは、良路ではスムーズなのだけれども、路面が荒れたところでは、特にリアからの突き上げが酷い。サスペンションとダンパーの動きが一致していないような不思議な感覚で、かなり残念なインプレッションになってしまった。試乗後、正直な感想をお伝えしたマツダ開発陣のひとりは、「プレミアム、プレミアムと言い過ぎましたかね……」と少し肩を落としていた。
マツダは2022年11月末、CX-60の「商品の作り込みに今しばらくお時間を頂戴することになりました」と発表。内容は詳らかにされていないけれども、このあたりの改善を行うのかもしれない。伸び代は大きいので、今後の仕上がりに期待したいところだ。
次の記事ではまとめとして、5台を総合力で比べてみたい。