仕事終わりの外での一杯は、いつの時代になってもビジネスパーソンの心と体を癒してくれる。その一杯を活力に「明日もまた頑張ろう」と思っている人も少なくないはずだ。そんなサラリーマンたちに旨い酒と肴を提供してくれる名店を本連載では紹介していく。
赤星とくまがい(麻布十番)
今回紹介するのは、東京・麻布十番に店を構える「赤星とくまがい」だ。約450種類もの日本酒を取り揃える同店だが、日本酒と料理の調和を楽しむ、究極のペアリングを味わえることがその最大の醍醐味で、美食の街に集う食通たちを唸らせているお店だ。
同店のカウンターで日本酒をサーブする利き酒師・赤星慶太氏はインポーターとして、15年以上にわたってニューヨークを拠点に、アメリカでの日本酒のPRに従事。飲食店のコンサルティングや日本酒BAR「Sake Bar KIRAKUYA」のプロデュースなどを手掛けてきた。
そんな経歴を持つ赤星氏がこちらのお店をオープンしたのは2015年のこと。
「日本国内で若い飲み手が減っている状況を少しでも変えたかったですし、純粋に日本で自分の力を試したいという気持ちもありました。日本で挑戦するなら年齢的にも今しかないということで、思い切って会社も辞めて日本に帰国しましたね」
赤星氏は、ひとつひとつの日本酒の味わいを独自の項目でパラメーター化し分析。料理との調和によってその魅力を最大限に引き出している。
今では飲食店や蔵元関係者、芸能関係者など、日本酒に興味や関心の高い人が多く来店するようになり、予算も1人1万円前後とそれなりだが、敷居は決して高くないという。
「メインは30~40代ですが、超高級店というわけではないので、若い方でも特別なデートや記念日などでの利用も少なくないです。女性客が7割で、ジャニーズの番組で取り上げられたことを機に通うようになってくれた常連さんもいらっしゃいます。日本酒に興味を持つきっかけに最適なお店だと思いますよ」
店内は日本酒の銘柄をデザインに取り入れたカウンターの装飾が印象的だが、落ち着いた大人の隠れ家的な雰囲気で、カジュアルな接待などにも喜ばれそうだ。
日本酒のペアリングを堪能する麻布十番の夜
料理は全て日本料理やイタリア料理を修業してきたシェフの熊谷道弘氏によるもので、赤星氏がお酒に合う食材などのイメージを伝え、熊谷氏が具現化している。ニューヨーク時代からタッグを組む2人の関係性もお店のコンセプトにマッチしているようだ。
アラカルトも充実しており、各料理に合わせたお酒をおすすめしてくれるが、特におすすめなのは毎月変わる旬の食材を使った9品のおまかせ料理と、それに合わせた8種類の日本酒を堪能できる月替りのコース。
「初めてペアリングのコースを体験されると、『食のディズニーランド』と感想を言ってくださるお客さんが多いですね。手前味噌ですが、それくらい驚きを与えられる内容になっていると思います。月1回、これが楽しみでお店に来てくれる常連さんも多いです」
2月の取材ではコース料理の前菜と、それに合わせた日本酒をいただいた。料理は柑橘類の甘平とオレンジのオイルで酸味をきかせた「天然ぶりと甘平のマリネ」。カラスミで塩味を加えることにより、酸味に合わせたお酒との相性をいっそう高めている。菜の花を散らしたビジュアルも美しい。
「使用する海鮮食材は豊洲や淡路の網元などから、特に良い物を厳選して仕入れています。ペアリングにハマると、地方の料理やお酒、歴史にもどんどん興味が出てきて、食べたり飲んだりすることがより豊かで楽しい体験になるので、若い人にもっと広めて日本酒を身近に感じてもらいたいですね。今後はイベントにも注力したいと考え、ひとつの蔵元さんにフィーチャーし、その蔵元さんのお酒に合わせた料理を提供するイベントを月1回ペースでやっていく予定です」
日本酒の初心者から上級者まで満足させる「赤星とくまがい」。イベントの情報などは主にお店のFacebookで発信しているとのことなので、興味のある人はぜひチェックしてみてほしい。