Appleは3月25日(現地時間)、本社クパチーノのスティーブ・ジョブズシアターにて発表会を行いました。内容は約2時間みっしり、サービスの話。その前の週に突然新型iPad mini・iPad Airなどを発表するというサプライズがあったわけですが、あえて発表会に詰め込まなかったのも納得です。今回はこの発表会を振り返りつつ、日本のユーザーにどんな影響があるのかを整理してみましょう。
Apple News+
Appleの「News」アプリは2015年、iOS9に初めて搭載されたApple独自のニュースアプリです。Apple News Formatという独自形式による見やすいレイアウトと、動画・オーディオなどに対応したリッチなインタフェースが特徴です。しかし利用できるのは米国・オーストラリア・カナダ・英国のみで、これまで拡大の姿勢は見られませんでした。
それがサブスクリプションサービスとして大幅にリニューアルされたのが「Apple News+」です。配信されるのは雑誌が300誌以上、新聞社系ニュースサイトも含まれ、単独で有料配信しているウォール・ストリートジャーナルの記事も一部読むことができます。
「dマガジン」などの雑誌読み放題サービスが近いといえば近いですが、印刷原稿を元にした電子雑誌ではなく、Apple News Formatのデジタルネイティブであるところが大きな特徴で(そうでない媒体もあるようです)、iPhone・iPad・Macそれぞれに最適な表示で読むことができます。価格は米国で月額$9.99。追加料金なしでファミリーシェアが可能です。
日本での提供については特にアナウンスされていません。品質の高いニュースキュレーションを有料で使いたい、というニーズはありそうですが、出版社・新聞社が積極的に参加するかどうか、またApple News Formatが日本語に対応してくれるかどうかが大きな課題になるのではないでしょうか。
Apple Card
「Apple Card」はWalletアプリ上で発行できてApple Pay決済に対応。利用明細や請求額の確認もWallet内で完結し、家計簿的な分析までしてくれるというものです。何に使っても2%、Appleでの買い物なら3%キャッシュバックされるという特典もついています。
クレジットカードをわざわざWalletに登録するより、そもそもカードをWallet内で発行してしまおうということですね。カード社会の米国だからこそ、カードで決済できるのにApple Payを使う必要があるの? という疑問に答える必要があったのかもしれません。基本的に物理カードを持つ必要がなく、安全で、支払いを管理しやすく、ついでにお得感も演出しています。
米国ではこの夏から提供が開始されます。日本での提供予定は発表されていませんが、もし提供が始まれば、物理カード目的で利用したい人が結構いるのではないでしょうか。
Apple Arcade
App Storeでは30万タイトル以上のゲームが配信されています。iPhoneやiPadは、世界最大級のゲームプラットフォームといって差し支えないでしょう。そこへ登場するのがゲームのサブスクリプションサービス「Apple Arcade」です。100タイトルを超える独占公開の新作ゲームが定額制・アイテム課金などの追加料金なしでプレイできるというものです。配信タイトルには業界で名のあるメーカー・クリエイターが多数参加するという、コンテンツのクオリティが強く打ち出されています。
こちらは2019年秋より、日本を含む150カ国以上で提供が開始される予定です。提供金額は未定です。タイトルは全年齢対象、追加料金なしでファミリーシェアに対応ということで、ご家族で利用するには最適なのではないでしょうか。
TVアプリとApple TV+
これはちょっと整理が必要ですね。まず「TVアプリ」は、Apple TVとは別にアプリとしてiPhone・iPad向けに提供されており、さまざまなサービスがバラバラに提供するテレビ番組や映画を横断して検索・視聴できるというものです。現在提供されているのは北米・オーストラリア・ヨーロッパの一部のみ。これが今年5月に日本を含む世界100カ国に広がり、さらに秋にはMac版も提供されるほか、一部のスマートテレビなどでも利用可能になります。
そして「Apple TV+」は、TVアプリの中で提供されるApple独自の映像ストリーミングサービスとして今年秋に提供が開始される予定です。プレスリリースに「世界で最もクリエイティブな才能たちが手がける、ほかでは観られないオリジナルのテレビ番組、映画、ドキュメンタリーをお楽しみいただけます」とあるように、独自コンテンツを最大の魅力として打ち出しています。
発表会ではスティーヴン・スピルバーグ本人が登壇したほか、「ミッション:インポッシブル」シリーズや「スター・ウォーズ」続三部作などのJ・J・エイブラムス、「シックス・センス」「サイン」などのM・ナイト・シャマランといった大御所の名前が挙がっています。
さらに、トリに紹介されたのは米国で非常に大きな影響力を持つ"米メディア界の女王"オプラ・ウィンフリーです。人気はもちろんですが、過去には2008年大統領選挙でのオバマ旋風の立役者と言われたり、最近では「Time'sUP運動」(#MeTooから生まれたセクハラに反対する支援基金)を支援するなど、米国では存在そのものがメッセージとして捉えられたのではないでしょうか。実際、Apple TV+のデモ映像を見ると老若男女・人種・民族を越えたラインナップに配慮していることがうかがえます。
こちらも追加料金なしでファミリーシェアが可能。Apple TV+で日本を狙ったコンテンツが制作されるのかどうか、楽しみです。またTVアプリではテレビとネットの常時同時配信を目指して動いているNHKあたりが関わってくれると面白くなりそうです。2020も目前ですし。
ついでに、ちょっと気にしておくと面白いかもしれないポイントとして、発表会で「プライバシー保護」が強調されていたことを挙げておきましょう。一般的にコンテンツ系のサービスではユーザーの閲覧履歴・視聴履歴を分析して好みそうなタイトルをおススメに表示するわけですが、Appleは履歴情報を直接取得することはせず、この作業を端末上の機械学習で行うというのです。
逆にNetflixなどはここを徹底的に強化し作品のサムネイル画像までカスタマイズ(1タイトル20種くらい用意している)しているわけです。これが現実に成果を上げ、やり方が批判されているわけでもないのに、あえて逆の姿勢を明確にしたApple。マーケティング的な成果に影響があるのか、注目したいところです。