今回は、医療業界に向けてDXを実現するAOS MedDXを紹介したい。
AOS MedDXの背景
医療現場でDXを実現するための課題であるが、AOSデータでは医療現場から数多くの聴取を行った。結果は、以下の通りである。
- データが病院にしかない
- 院内でデータを共有したい
- 個々のPCにしか入っていないデータがある
- 最新のデータはどれ
- データが消えてしまった
- 外部取引先と完全にデータを共有したい
- 紙の資料を電子化したい
- 職員を効率よく管理したい
- 外部監査に対応したい
以上をふまえ、AOS MedDXの開発にあたり、以下の4つのコンセプトを設定した。
- 医療データをバックアップしてどこからでもアクセスできるようにする
- 内部や外部のファイル共有とチームコラボレーションを効果的に行う
- セキュリティとコンプライアンスを最大化した、PHIを保つ
- 大規模なコスト削減を可能にする
そして、これらを医療従事者、医療機関システム管理者、外部の行政・医療提携機関などに向けて提供することを目標としている。なかでも3つめの外部の行政・医療提携機関との連携は重要となる。医療データを共有していくことで、さらなる価値を創出する。他にも、医療プロセスのデジタル化、患者とのデータ共有の迅速化、コスト削減といったことが考えられ、働き方にも大きな変革を起こす可能性がある。
なお、基本的な機能や使い方については、テレワークDataShare(こちらの記事)を参照してほしい。
MedDXのオリジナル機能
では、AOS MedDXのオリジナルの機能を見ていこう。まずは、医療判例検索機能である。近年、治療や診察をめぐり、その瑕疵を別にして訴訟にいたることも決して少なくない。当然のことながら、病院運営に与えるリスクは大きい。そこで、事前にそのリスクを知っておくことで、リスクを軽減させることもできるだろう。逆にメリットとして、病院運営の改善に役立てることもできる。
検索を行うには、メイン画面から[法律検索]をクリックする。検索用語を入力すると、図2のようになる。
個々の判例をクリックすると、その内容が表示される。
同様に関連する法令も検索可能である(図4)。
日本の医療においては、すべての治療は診療報酬に結び付いている。診療報酬点数表は、病院経営には不可欠な資料となる。しかし、膨大で熟練した人でないと扱うのが難しいという面もある。その診療報酬点数を簡単に調べることができるのが、保険診療報酬検索機能である。
メイン画面から[診療報酬点数表検索]をクリックする。大きく、医科、歯科、調剤、施設基準に別れる。医科診療報酬では点数表の目次に従い、各項目が表示される。
実際に、初診料を表示すると、図6のようになる。
点数、さらに付随する情報(判断基準など)が表示される。もちろん、紙ベースで提供されるものもある。しかし、膨大なため非常に調べにくい。その点、このようにデジタル化されていれば、検索なども簡単に行うことができる。
また、この診療報酬であるが、日々、進歩する医療技術に合わせ、非常に更新が多い。つねに変化する情報を把握することで、経営的によりよい治療が可能となるメリットもある。AOS MedDXでは、1か月に1回のペースで、変更箇所を更新しているとのことだ。紙ベースでは難しい更新作業も、デジタルならではのメリットといえるだろう。
また、診療などの過程で、画像や動画データが大量に保存される。特に動画データは、データサイズも大きく、その保存も大変とのことだ。共有となるとさらに敷居が高い。診療だけでなく、教育やカンファレンスなどで、手術動画を教材や資料として使うといったこともある。
これらのニーズに対して応えることもAOS MedDXの役割の1つである。大容量になりがちな、収集した動画をクラウド上に安全にかつ低コストで保存できる。腹腔鏡、ロボット、内視鏡、超音波、ヘッドカムなどから生成されたどのような医療動画、医療画像なども自動的にアップロードし、保存することができる。X-ray、MRI、CTなどの数千、数万枚の画像ファイルが入っているフォルダをそのままの構造で保存することができるので、膨大なデータの管理が容易に行える。
これらの保存先であるが、大容量のファイルでもコールドドライブを使えば、低コストで保存が可能となる。目新しい新機能ではないが、新たな活用法として期待されている。開発担当者によれば、コールドドライブという名前を変更したいくらいだとのことだ。そして、共有であるが、AOS MedDXのチームドライブを使えば可能となる。ここで注意すべきは、こういったデータは、きわめてプライバシーの高いものである。
そこで、AOS MedDXでは、2段階認証が可能になっている。チームドライブのセキュリティデータルームは、特に安全性が求められるデータを共有するフォルダとなる。
ここをクリックすると、図10の2段階認証のウィンドウが表示される。
[認証メールを送信]をクリックすると、図11のようなメールが届く。
中央下の「684318」が認証コードとなる。これを入力する。
これで、セキュリティデータルームが閲覧可能になる。
試しに、文書データを表示してみよう。図14のように透かしが入る。
メールアドレス、閲覧日時が透かしとして表示される。したがって、画面キャプチャーやスマホのカメラで撮影しても、誰が閲覧しているかがわかり、漏洩などを未然に防ぐことができる。
もう1つ注目したいのが、AI-OCR連携である。図15のように、AOS MedDXとAIパピルスの連携により、紙文書のデジタル化である。
図15にあるインフォームドコンセントなどの文書は、手書きが多いため紙データで残ってしまう。それらをOCR機能でデジタル化し、AOS MedDXで保存・共有するというものだ。この機能も医療現場で関心が高いとのことだ。
また、このような文書は、医師と患者との話し合いで作成される。つまり、変更も多い。そこで、AOS MedDXでは、文書のバージョン管理も可能である。
最終版のみを保存するのではなく、どういった経緯で合意が形成されたか。履歴を残すことで、把握することができる。こういった機能も、医療関係ではニーズが高いとのことだ。
医療現場の声を活かして
冒頭でも紹介したように、AOS MedDXの開発にあたっては、医療従事者や医療機関に関わる数多くの方々から、意見や要望などの聴取を行った。その中から、興味深い話を紹介したい。
たとえば、グループ化された病院などを想定してほしい。傘下にいくつかの病院があり、介護施設や検査施設なども併設している。ところが、グループ内でデータや情報が共有されていない。つまり、病院のみで閉じたシステムになっていた。その環境で、移動や別の科の診療を受けようとすると、たとえばレントゲン写真ならば印刷して渡す、USBメモリにコピーして渡すといったことをしていた。まったくネットワーク連携をしていなかった。また、元の病院でも提供したデータがどう結び付いているかわからなかったので、再度、電話で確認をしていた。非常に時間と手間のかかる作業が必要となった。そこで、このグループにAOS MedDXを導入することで、安全にデータを守り、共有することがまさに実感できたとのことだ。
さらに、介護施設も併設している。ここでは、サービス受給者に関し、さまざまな情報を介護士などが保有している。こういった症状があった、注意すべき体調変化などが、膨大なデータとして記録されている。これら情報も、紙やUSBメモリで渡すことが多かった。しかし、介護施設から病院に行くと、渡すのを忘れてしまったりとか、認知症などで適切に症状を説明できないといったこともあった。情報が正確に伝わらない状態で、診断や調剤が行われてしまうと、非常に重篤な状態になりかねない。受給者や患者自身の問題ではあるのだが、そこを防ぐ仕組みがほしかった。そのためにAOS MedDXが役立ったとの声をいただいたとのことだ。
AOS MedDXの開発担当者として、少しでもそれらの要望を達成したいと考えたとのことだ。担当者によれば、これはもしかしたら、新機能とはいえないかもしれない。一方で、こういった使い方やニーズは医療業界ならではと感じたと。実際にこういった使い方によって便利になる、良い環境となることもきちんと提案していく必要があるとのことだ。
DXの定義の中には「国境超えた新たなビジネススタイルの構築」がある。上述の事例でいえば、DXといえるレベルではないのかもしれない。しかし、これまで厳格な制度やルールに支配されてきた医療業界おいて、まず一歩といえるのではないか。医療機関は規模格差も大きく、地域性なども違いがある。それぞれでできることから始めてみる、今後に期待をしたい。