東京圏を取り巻くように走る武蔵野線は、1973年に一部の区間が先行開業した。同時に南流山駅も開設。武蔵野線は貨物輸送の役割が強く、現在でも沿線で貨物列車を目にすることができる。それでも貨物列車の運行本数が減り、貨物用として使われていた広大な敷地は商業・住宅用地に転換された。近年は急速にベッドタウン化が進んでいる。
武蔵野線そのものは都心部へ向かう路線ではないが、京葉線・総武線・新京成線・常磐線・つくばエクスプレス・東武伊勢崎線・埼玉高速鉄道線、京浜東北線・埼京線・東武東上線・西武池袋線・中央線など多数の路線と交差している。
20代~30代の世帯を引き寄せる政策
それらの路線に乗り換えることで、都心へ容易にアクセスできる。特に、2005年につくばエクスプレス開業後は南流山駅から秋葉原駅まで一本で行けるようになった。その利便性から、東京へ通勤するサラリーマン世帯が南流山駅周辺へと一気に流入した。
ニュータウン開発の波は落ち着きつつあるものの、沿線の自治体では引き続き若い世帯を取り込む政策を打ち出している。20代~30代の世帯を引き寄せる政策として、もっとも有効とされるのが子育て支援策の充実だろう。
千葉県流山市は手厚い子育て支援策を打ち出したことで、20代~30代を呼び込むことに成功した。流山市の子育て支援策は多岐にわたるが、何と言っても認可保育所を増設したことが訴求力になっている。
流山市にはいくつか鉄道駅がある。一本で都心にアクセスできることもさることながら、南流山駅が注目されている理由は流山市の子育て支援策と大きな関係がある。南流山駅には駅前送迎保育ステーションが開設されており、ステーションに子供を預ければ、そこからバスで保育所へ送迎をしてもらえる。もちろん、帰りも同様。そのため、わざわざ通勤前・退勤後に保育所に寄る手間・時間が生じない。
こうした保育支援策の充実に加えて、鉄道・バスの交通アクセスの充実が子育て世帯を引きつける。南流山駅の南北両側には、小さなバスロータリーと駅前広場が整備されている。バスロータリーからは京成・東武のほか、流山市のコミュニティバスが発着。そのため、駅から各地域へのアクセスには不便しない。
また、駅前広場は広々としているのでベビーカーを押して歩いても苦にならない。街・駅そのものが子育て世帯に優しい工夫が凝らされている。居住者目線でも、南流山駅周辺は子育て世帯に配慮が行き届いた街になっている。南流山駅付近には広大な公園はないが、小さな公園がエリアごとに点在している。それらの小さな公園は、未就学児童や小学校低学年の児童が遊ぶ分には申し分ない。目が離せないちびっ子を持つ若いパパ・ママにとって、目の届く範囲で子供を遊ばせられる場所があることは安心感につながる。
これらの小さな公園は市の管理下にあるが、清掃や緑化など日々のメンテナンスは自治会や町内会といった地域住民の手に委ねられている。これらが、地域コミュニティがしっかりしていることを物語る。地域コミュニティの強さは、通学路などの安全・防犯意識の向上にもつながる。そうした点も、子育て世帯から信頼を得る点だろう。
子育て以外の暮らしぶりは?
ニュータウンというと、どうしてもロードサイドで目にするような全国チェーン店が並び、高層マンションが立つといった殺風景な街並みをイメージする。南流山駅周辺も、そうした面がないとは言い切れない。実際、県道280号線と県道5号線(流山街道)が駅を取り巻くように走っているが、その沿道にはファミリーレストランやコンビニといった店が多い。
駅の周辺はロードサイド型店舗が多く、便利ではあるものの味気なさを感じる。そうしたありふれた店が並ぶ中、南流山で異彩を放っているのが一般客は入場さえ叶わないプロ専用卸売店「METRO(メトロ)」だ。METROは地下鉄を意味する英語だが、同店は鉄道と無関係。
「COSTOCO(コストコ)」のような一般客が会員登録することで利用できる店もあるが、「METRO」は完全に利用者を飲食店経営者などに限定。そうした事情もあり、その前は広く知られていない。
駅から徒歩3~5分も歩けば豊かな緑を目にできる。川べりには遊歩道も整備されている。ここでは、近隣住民が犬の散歩やジョキングで汗を流す。また、災害用に整備された新東谷調整池は、平常時に近隣住民が余暇を楽しむためのテニスコートとして使用される。隣接する運動場には非常時に使用する井戸水のポンプ、カマドとして活用できるベンチが備えられている。防災に強いまちづくりへの意識も窺える。
南流山駅周辺の住宅街は造成開始から歳月を経ていないこともあり、区画整理が終わっていない一帯もある。また、駅と住宅街とを結ぶ道路「新川南流山線」の工事も急ピッチで進められている。南流山駅は、これからも発展がつづく街であることを実感させる光景が広がっている。