独立・開業には勇気がいります。そして人それぞれの理由があります。もちろん稼ぐことを目的に開業する人もいるでしょう。しかし、それ以上に「思い」を持ってビジネスに取り組まれている人が大勢おられます。ここではそんな人々にスポットを当てて、独立・開業への思いや、新しい人生の価値観などを伺っていきます。
4回目の今回は、東京都稲城市で地元や近隣地域の野菜をふんだんに使うイタリアンレストラン「オルトラーナ」を旦那さんと共に営む、上野はるなさんにお話を伺いました。
稲城市の野菜との出会いからレストラン開業へ
――お店では稲城市や近隣で採れた野菜をたくさん使っておられるとのこと。こうしたレストランを開業されようと思われたきっかけは?
上野さん:そもそも私が稲城市の出身なのですが、結婚した主人がシェフで料理好きだったことから、地元の稲城市でワインの飲めるおいしいお店を開いて欲しい! と、密かに願っていたのです。
そんな折、多摩地域の「たまらび」という地元誌で「稲城市版」号の発行が始まり、私も市民ライターとして誌面作りに参加することに。そこでの農コーディネーターの方との出会いがきっかけで、稲城市で作られる野菜のおいしさを知りました。
その後、稲城市内の小さなイベントなどで、地元野菜を使った料理を食べてもらう機会もいただいたのですが、とても好評で。周りの方々から「稲城市内でぜひお店を!」と声をかけていただいたのが、開業の大きな後押しとなりました。
夫婦のアイデアとお客さまからの愛情がお店の元気の素
――なるほど、ご主人や農コーディネーターさんなど、人との出会いがレストラン開業へとつながっていったのですね。開業後、お店はどんな様子でしたか? 最近では新型コロナの影響もあったのではないかと思うのですが。
上野さん:そうですね、飲食店での仕事の経験はあっても、開業と経営の知識は無く、ゼロからのスタートでしたので、わからないことだらけでした。お店のコンセプトを考えたり、内装や外装を考えたり、メニューを考えたり。また経営についての本を読んだり、勉強会に参加したり、専門家の方に意見を聞きに行ったりと、いろいろなことを同時進行で進めながら準備をしました。オープンしてからもトライ&エラーの繰り返し、という感じでしたね。
クリスマスには、限定のコースメニューをやりたい! という想いがあって、毎年10月ころから考えています。前菜、パスタ、メイン、デザートと、フルコースを主人ひとりで考えるのは大変だと思いますが、本人はとても楽しそうです!
もちろん新型コロナウイルスの影響は大きかったですね。店内飲食ができなくなったり、席数を減らしたり、時短営業をしなければならなかったり……でもこの期間を使ってメニューの見直しもできましたし、新しい料理も開発できました。
店内飲食ができないときにはテイクアウトのお弁当の提供もしていたのですが、お客さまから「頑張ってね、応援しているよ」と本当にたくさんお声かけをいただき、夫婦で頑張ることができました。
ようやく店内営業が再開し、「やっぱりお店で食べるのはいいね」と言ってもらえたときはとってもうれしかったです。
――大変な状況をいつもご夫婦で乗り越えてこられたのですね。そんな中でもこれまでで特にうれしかったことなどはありますか?
上野さん:毎年お誕生日のお祝いに来てくださるご家族がいたり、お孫さんが遊びに来た際には必ずご来店してくださるご夫婦がいたりと、小さなお子様と一緒にいらしてくださるご家族が多いのですが、お互いの子どもの成長に驚くといった、地域密着でやっているからこそ感じられる喜びがありますね。
お店が頑張れば、農家さんも野菜も喜んでくれる!
――素敵な光景ですね! 多くのご家族から愛されているお店なんだと感じました。そんな素敵なレストランの今後の展望などありましたらお聞かせいただけますでしょうか。
上野さん:コロナ前の、わいわいと賑やかなお店にもどってくれることを願っています。それから、私たちのお店では、稲城市の野菜を使った特許取得済みのピクルス「PICKLES PUNCH(ピクルスポンチ)」という商品を作っているのですが、こちらももっと多くの方に手に取っていただきたいと思っています。商品が売れることで、稲城市の農家の皆さんが「頑張って野菜作らなきゃ!」と思ってくださるとうれしいですね。
地元で野菜や果物を仕入れていると、旬の時期には1種類の食材がどーんと大量に届くこともあるんです(笑)。私自身は、どうやってメニューに生かしていくのだろうと悩んでしまいますが、主人は「この野菜を使って何を作ろうか、いつも農家さんから宿題を出されているね」とこの状況を前向きに捉えています。
例えば過去にはごぼうが一度に3キロ届いたことがあるのですが、そのときは、ホワイトソースで煮込んで作るソースをたくさん仕込み、ランチやディナーで提供しました。お客さまから「ごぼうがきんぴらや筑前煮以外で食べられるなんて思いもしなかった!」という声をいただくと、「よし!」と思いますね(笑)。しかも、「稲城で採れたごぼうですよー!」とお話しすると、「稲城でごぼうが採れるなんて」と驚く方も多くいらっしゃるんですよ。
私たちが頑張ることは、農家さんを応援することにもつながり、畑のある景色を残していきたい、という想いにもつながります。自分が住んでいる地域で採れた野菜を使っているお店、という認識がだんだん広まってきてくれてうれしく思っています。"家の近くにある自慢のお店"になれるように、もっともっと頑張ります!
――地元野菜への思いが伝わりますね。では最後に読者の皆さんへ、メッセージをお願いします。
上野さん:作り手の顔が見える、というのは、ただ食べること以上に、おいしいと喜びを感じることができるのではないかな、と思います。野菜を作っている人、料理を作っている人のことを考えながら食べていただけるとうれしいです。ご近所で採れたお野菜を、ぜひ買って食べてみてください