独立・開業には勇気がいります。そして人それぞれの理由があります。もちろん稼ぐことを目的に開業する人もいるでしょう。しかし、それ以上に「思い」を持ってビジネスに取り組まれている人が大勢おられます。ここではそんな人々にスポットを当てて、独立・開業への思いや、新しい人生の価値観などを伺っていきます。
第35回は、愛媛県松山市でウォーキングスクールORO(オーロ)を経営する犬飼奈穂さんにお話を伺いました。
日常の姿勢と歩き方から、体を整える
――犬飼さんがウォーキングスクールを始めたきっかけは、どのようなことだったのでしょうか。
犬飼さん:もともと私自身、体と心に多くの悩みを抱えていました。ところが、姿勢と歩き方を変えることで、問題が一気に解決したのです。自分の経験をもとに、歩く楽しさを伝えたい。良い姿勢を身につけた、体も心もブレない人を増やしたい。そう思い、ウォーキングスタジオを開設しました。
私は子供の頃から体型のコンプレックスと、腰痛をはじめ、慢性的なストレスや肩こりなどの不調に悩まされてきました。29歳のとき、ハードな運動と食事制限に取り組み、半年で10kgの減量に成功しましたが、見た目が多少細くなっただけで、肩こりも腰痛もO脚も悪化したのです。体重だけ減らせば良いのではないのだな、と思い知りました。
腰痛も、病院やマッサージに行けば、その時は良くなります。でも、すぐに痛みがぶり返します。痛みや不調は一時的に取り除けても、根本を改善しない限りずっと続くかもしれません。では、根本から改善するにはどうすればよいのか。痛みの根本は何かを考えました。そして、あらゆる動作の基本は「日常の姿勢と歩き方」なのではないかと思い至りました。
――そのご経験が、ウォーキングにつながったのですね。
犬飼さん:そうなのです。情報を集めた末にたどり着いたのは「ゆるめて、余計な力を込めずに、歩く」というメソッドでした。鍛えることが当たり前だった私には、「ゆるめる」「力を込めない」がどうすることか、分かりません。それでもとりあえずやってみたら、動けば動くほど体が軽くなっていくのです。1カ月もすると腰痛はなくなり、首や肩のコリも激減。筋トレも食事制限もしないのに、パンツのサイズはLLからMになりました。
あれほど辛かったのに、歩くのが楽しい。姿勢と歩き方って大事です。そして、体がより良く変わることが楽しくなりすぎて、人に話さずにいられなくなりました。そのメソッドの公認インストラクターとして7年間活動した後、2021年に独立して、今に至ります。もっともっと軽やかに歩く人を増やしたい、という思いで開業しました。
受講生に分かりやすい、伝わるレッスンのために
――ご自身が、まず効果を実感されたのですね。独立して開業されたとのことですが、苦労されたことなどありましたか?
犬飼さん:苦労とか大変だったことは、あまりないのです。あえて挙げるなら、オンラインレッスンの見せ方を探求したことでしょうか。コロナでリアルレッスンができなくなって、オンラインレッスンに切り替えました。幸い、オンラインでも大きな支障はありませんでした。ただ、分かりやすいレッスンをお届けするために、試行錯誤はしました。カメラを2台に増やして、どの角度が見やすいか、伝わりやすいかを試したり、仲間の講師とお互いにセミナーをしてフィードバックし合ったり。言葉だけでも伝えられるよう、言葉の引き出しを増やす努力も続けています。
立つことも歩くことも日常動作です。私にとっては、生活の中で座る、立つ、歩く、動作すべてが検証になっています。常に心地良いポジションを探したり、楽な動きはないか探ったり、自分の体で実験することが楽しくて仕方ないです。……これって、大変だったことではないですね。
体が元気になると、心も元気になって、生き方も変わる
――開業されて、今にたどり着かれるまでの思いや、やり甲斐はどのようなものでしょうか。
犬飼さん:レッスンに来てくださる生徒さんに、体も心も軽やかに歩いていただきたい。ご自身のなりたい姿や夢を叶えていただきたい。私は、誰しも自分で変わる力があると信じています。たとえ生徒さん自身が自分を信じられなくなっていても、私は絶対に諦めないし、ご自身で変わっていけると信じています。
体が元気になると、心も元気になって、皆さん、笑顔になられます。やりたいことがあるのに、体がしんどくてブレーキをかけてしまった方、自信がなくて一歩を踏み出せなかった方が、本当にやりたいことにチャレンジし始めるのです。そういう姿を見ると、自分のことのように嬉しくなります。体も心も変わる喜びを共にできることに、やりがいや幸せを感じます。
「どれだけ歩くか」より「どう歩くか」、人生も同じ
――今後の展望はいかがでしょうか。
犬飼さん:日常の歩き方改善を通して、心身とも軽やかに、ご機嫌に歩く人を増やしたい。体も心も自立した人で溢れる世の中にしたいです。心の自立とは、自分で自分を認められること。自分で自分を認められると、他人のことも認められるようになり、お互いに認め合える明るい社会になると思うのです。そのために、今年1月に出版した著書『背中をゆるめると健康になる』(プレジデント社)を片手に、ウォーキングセミナーを全国で開催中です。2024年までに47都道府県を回りたいと思っています。
――ありがとうございます、最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。
犬飼さん:たくさんの方の歩き方を見てきて、歩き方には生き方が出ると感じています。よく「1日にどれだけ歩いたらいいですか?」とご質問をいただきますが、どれだけ歩くかも大事ですが、もっと大事なのは、どう歩くかです。
量より質が大事なのは、生き方も同じです。どれだけ生きるかよりも、どう生きるか。自分の脚で歩くことと、人生を歩むことは、繋がっています。歩くことって、とても楽しいことです。歩くことは一生続きます。どうせ歩くなら、楽しく心地良く歩きませんか?