独立・開業には勇気がいります。そして人それぞれの理由があります。もちろん稼ぐことを目的に開業する人もいるでしょう。しかし、それ以上に「思い」を持ってビジネスに取り組まれている人が大勢おられます。ここではそんな人々にスポットを当てて、独立・開業への思いや、新しい人生の価値観などを伺っていきます。
今回は、東京都世田谷区でインターナショナル保育園、学童HAPPY HORIZONS(ハッピーホライズンズ)を経営する町啓介さんにお話を伺いました。
とにかく‟子どもたちが中心にいる教育環境”を作りたかった
――もともと保育とは別の業界にいらしたと聞きました。インターナショナル保育園を開園されたきっかけは、どのようなことだったのでしょうか。
町さん:当時3歳だった次男を入れる保育園を、自ら作りました。長男が幼稚園に通い出して、「右へならえ」の教育環境に疑問を抱いたことがきっかけです。子どもたちが育つ環境は、個性や思いをしっかり表現できる環境や、国籍、年齢、発達の早い遅い、などの違いを認め合える環境であってほしい。しかし、そのような幼稚園や保育園がありませんでした。私自身も、会社での「右へならえ」の働き方に疑問を持ったことが重なり、11年勤務したIT系企業を脱サラ。一から保育業界に人脈を作り始めました。
とにかく子どもたちが中心にいる教育環境を作りたかったのです。右にならわなくてもいい。自分らしくやりたいことに全力でチャレンジすれば、道は開ける。そういう姿を我が子達に見せたかったのもあります。私の最大のモチベーションになりました。
――開園のために、海外まで学びに行かれたとか。
町さん:イタリアに「レッジョ・エミリア教育」という理想の教育環境があることを知り、現地へ学びに行きました。レッジョ・エミリアという、北イタリアのエミリア=ロマーニャ州にある都市です。そして退社から10か月後に、インターナショナル保育園HAPPY HORIZONSをオープンしました。レッジョ・エミリア教育アプローチで提供する、英語と日本語のバイリンガル環境や、伝統和食を中心に提供する給食は、インターでは他にやっているところがない、当園の特長です。
説明会参加者が全員喪服、投げつけられる生卵…それでも諦めなかった
――開園に至るまで、とてもご苦労なさったとうかがっています。
町さん:開園反対運動を起こされてしまったのです。近隣住民の皆様へ挨拶周りをした2日後、50人以上の署名捺印入り「開園反対願い」を渡されました。すぐに住民説明会を開いたところ、50名の方が来られました。全員、喪服でした。「保育園を作らないでほしい」「なぜここなのだ」と厳しい声が相次ぎました。「どんな人生を送ったら、こんなひどいことができるのですか?」とも言われましたし、生卵も投げつけられましたね。さすがにもう無理かと諦めそうになりましたが、3か月で6回の住民説明会、開園にあたっての条件交渉会をさせていただき、なんとか開園することができました。
――近隣にお住まいの方にご理解いただけたのですね。
町さん:開園はできたのですが、苦情の電話がきたり、話し合いをする日々は、何年も続きました。それでも、今では仲良くさせていただいている方もいます。本当にありがたいです。開園を反対されたときに「なぜここで保育園を?」と問われました。その問いが、なぜこの地に開園するのか、今一度深く考えるきっかけにもなりました。大変でしたが、学びも多く、今はとても感謝しています。5か月前、区議選に立候補しました。選挙では開園反対運動をされていた方々にも応援いただけたのです。とても嬉しい出来事でした。
感謝していただけることが何よりも嬉しい
――そうした中で、今にたどり着かれるまでの思いや、やり甲斐はどのようなものでしょうか。
町さん:最大のやり甲斐は、卒園式で「本当に素晴らしい時間、環境で過ごすことができました。ありがとうございました」と言っていただけることです。保育は成果の見えにくい仕事で、一朝一夕に成果が出るものでもありません。だからこそ、卒園するときに涙とともに感謝していただけることが、何よりも嬉しいです。
また、保育士や従業員のみんなが、自分らしく仕事ができる環境だ、働き甲斐を感じる、と話してくれることが本当に嬉しいです。9年間働き続けてくれている方もいます。途中で辞める社員は、ほぼいません。本当のファミリーのような職場を作ってくれた従業員のみんなに、心からありがとうと伝えたいです。
子どもがど真ん中にいる社会をつくりたい、やりたいことが「てんこ盛り」
――現在では、インターナショナル保育園のほか、学童保育や食育事業なども展開しておられます。今後の展望などあればお聞かせください。
町さん:これまでの10年間で培ってきたことをベースに、もっと地域の子どもたちと関わり、子どもの笑顔を増やしたいです。日本一楽しい算数塾、不登校児クラス、発酵給食を習う子ども料理教室などを考えています。教育講演会や、保育士が辞めない仕組み作りのコンサルも行っていきたいです。
オルタナティブ教育の考え方を公立小学校に導入したい。地域の皆様の子育て・教育の悩みを解決したい。そうした思いから、生まれ育ったこの町の区議会議員へ再挑戦したいです。やりたいことがてんこ盛りです。
――ありがとうございます、最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。
町さん:子どもの育ちや学びを、常に最初に考えられる社会を作っていきたいです。社会を良くするのは、子どもや孫、未来に、少しでもよい環境や文化を残していくためでもあります。自分でしっかり考え、議論し合える。自分が進む道を自分で作ることができる。そんな子どもたちを育む教育を、子どもを中心に据えて、町全体、いや国を挙げて行っていきたい。それには、ほうぼうで子どもたちの育ちについて考えたり、話し合ったりすることが大事なのではないでしょうか。世代を超えて一緒に、子どもを見守る環境を作りたいです。