独立・開業には勇気がいります。そして人それぞれの理由があります。もちろん稼ぐことを目的に開業する人もいるでしょう。しかし、それ以上に「思い」を持ってビジネスに取り組まれている人が大勢おられます。ここではそんな人々にスポットを当てて、独立・開業への思いや、新しい人生の価値観などを伺っていきます。

第22回は、岐阜県各務原市でレザーグッズの制作・販売を行う工房、COBACRAFTを運営されている、レザーバッグデザイナーの小林正直さんにお話を伺いました。。

  • 小林正直さん

料理の世界での失敗から再起する中、テニスを始めたところ……

――最近、完全独立を果たされたと伺いました。革製品の制作販売を本業にされるまでの経緯を教えていただけますでしょうか。

小林さん:大阪の婦人服アパレル問屋で働いていたことがあるのですが、それ以降はファッションとはまったく違う世界で生きてきました。

まず、スペイン料理店に転職し、その後フレンチのシェフとして修行、そこから岐阜に移って新規オープンのイタリアンレストランの店長を務めました。38歳のときに自分でイタリアンレストランを開業したのですが、3年で廃業の憂き目にあい、所持金50円という状態を経験したこともあります(笑)。

そういったことから、心理カウンセリングやお寺修行などで人間関係を学び直しまして、周りの方々のおかげで人間らしさを取り戻しました。49歳で始めたテニスで出会った仲間が、手作りのレザーバッグを持っていたのですが、それを自分で作ったというのが衝撃で。それがレザークラフトとの出会いです。そこからバッグ製作に魅了されまして、技法を学ぶなか徐々にお客様にも出会い、それまで長く続けてきた料理人の仕事を、ついに昨年辞めることにしたのです。今はレザークラフトの作家、バッグデザイナーとして活動しています。

大量オーダー受注の失敗から学んだこと

――ずっとお料理のお仕事をされていたのですね。それが今ではレザークラフトという全然違う世界で独立、活動しておられるわけですが、大変だったことや、失敗したなと思われたことはありますか?

小林さん:開業してすぐ、とある会社様より「財布を30個製作して欲しい」と依頼を受けたことがあります。それが嬉しすぎてちょっと浮き足だってしまった状態でした。ある程度デザインが決まり、お見積り金額をお知らせもし、製作が始まったのですが、その後、何度も何度も変更依頼が来て予算オーバーとなり、最終的に原価割れになってしまいました。原因は、もちろん製作前にしっかりとお客様のご要望を聞き取れていなかった僕のミスです。それからは、事前打ち合わせの段階で、何度も何度も、そして細く、ちょっとしつこいと思われるかなぁというくらい、お客様のご要望をお伺いするようになりました(笑)。

――確かに、のっけからそんなオーダーが入ると浮足立ちますよね。でもそのご経験を学びに変えられるのはさすがです。では、開業されてここまで来られた思いや、やりがいなどお聞かせください。

小林さん:実はこの仕事に対して何か強い思いとかやりがいがあると言うのは僕にはあまりなくて(笑)、あるとすれば「製作するのが好き、楽しい」という感覚です。その想いが作品に乗って、お客様にも伝わって、「楽しい」の連鎖が広がってくれると嬉しいなぁと思っています。

まずは“興味のあること”に手を出してみる

――楽しんで作られる作品には、楽しさが宿るのですね。きっとそれが小林さんの作品の人気の根源なのかもしれませんね。ちなみに、今後の展望はいかがでしょう。

小林さん:そうですね、単なる制作工房だけじゃなく、将来的にはレザークラフトショップを併設したカフェをオープンするのが夢ですね。

――さまざまなジャンルとコラボしているカフェが増えていますが、なるほどレザークラフトとも相性は良さそうですね。ありがとうございます、最後に読者の皆様にメッセージをお願い致します。

小林さん:僕の場合、50歳手前という年齢になってからレザークラフトと出会いました。しかもテニスを始めたおかげで、です。人生ってどこで何が起こるがわかりません。なので自分には何もないと言う方がいらっしゃったら、まずは副業になるとかお金になりそうとかは、ひとまず横に置いておいて、興味のある事や好きな事をやってみてください。そうすると何かが広がるかもしれません。何もしなければ今のままですが、行動を起こせば必ず変化は起こると思っています。