独立・開業には勇気がいります。そして人それぞれの理由があります。もちろん稼ぐことを目的に開業する人もいるでしょう。しかし、それ以上に「思い」を持ってビジネスに取り組まれている人が大勢おられます。ここではそんな人々にスポットを当てて、独立・開業への思いや、新しい人生の価値観などを伺っていきます。

第13回となる今回は、奈良県桜井市に工房を構え、木製遊具の製作販売を行っておられる金沢粋屋の佐田俊弘さんにお話を伺いました。

  • 佐田俊弘さん

始まりは、丸太の平均台。きっかけは、地元新聞の見出しだった

――もともとは大工さんだったそうですね。木製遊具の製作販売に仕事を変えられたきっかけを教えていただけますか?

佐田さん:金沢粋屋は2010年にスタートしたのですが、きっかけになったのは「子ども達の身体が危ない」という、地元新聞の見出しです。未就学児の足変形について、そしてそれが足だけでなく身体全体に影響を及ぼす、という主旨の記事でしたね。

もともと建築大工で専門は和室の造作だったので、床柱などに使う奈良の杉丸太をよく取り扱っていたのです。で、数年前に、保育園長をしている友人からの依頼で丸太の平均台を作ったのを思い出しまして。これしかない! と一念発起しました

――相当なご決断だったのではとお察しします。丸太の平均台で開業されてからの受注具合などはいかがでしたか?

佐田さん:いや、今思えば「開業」という意識はほとんどなく、ほぼ使命感しかないヤバいパターンでしたね(笑)。商品は丸太平均台という1アイテムのみですから。

大和郡山市に小さな工房を構え、私とあと2人、志を同じくした3人で幼稚園や保育園、役所などに、平均台を抱えて営業に周る日々でした。夜は手製のチラシを作るために集まって、日付が変わることもしばしばです。それでも思ったように受注は伸びず、私はリフォーム会社等でバイトを重ねました。

転機になったのは東日本大震災です。当時、リフォーム会社でメインとしていた業務関連の工場が津波で流されてしまい、仕事がストップしてしまって。それがきっかけで「俺、建築やるために奈良に来たわけじゃなかったはず!」と思い出したんですよ

お客様の声から生まれた最高の「うんてい」

――子どもたちの足を思って、丸太平均台を普及させるための熱い思いと行動が再燃されたのですね。その後はどのようにアイテムを増やされたのでしょう。

佐田さん:もう一度イチからチャレンジし直そうと、自分で手製のチラシを作って他県の幼稚園や保育園にDMしていたのですが、その時に埼玉県にお住まいの丸太平均台のお客さまから「ブレキエーション(うんてい)は作られてないんですか?」という問い合わせが入ったのです。それがブレキッズの始まりとなりました。

粋屋のお品は全てお客さまのお声や思いが形になった、と言っても過言ではありません。ブレキッズは試作品の第一号から、現在の4種類のぶら下がり棒が使える原形になるまで半年足らず。デザインを重視したことは全くなくて、お客様からのご要望と安全性をかけ合わせた結果、今の形になりました。

健康器具の木枕や腰木枕などもそうです。形は何度となく変わってきましたが、全て使う人の声や思いを形にした結果です。私たちが「誰のために、何のために」にこだわるのは、そこが最も大切だからです。

木製遊具で全世代を健やかに

――なるほど、常にお客様の声に耳を傾けてこられたからこそ、アイテム数も増え、アイテムの形もより良いものになっていったのですね。遊具で遊ぶ子どもたちの笑顔が印象的です。もしよければ今後の展望などもお聞かせいただけますか?

佐田さん:金沢粋屋は「木製遊具を通して子どもたちの健全な心とからだを育む」を理念としています。今後は子どもも大人も関係なく、全ての世代の人達が日々、心とからだの両輪を健やかに過ごすことができるよう、そしてただ長生きするだけでなく「健康寿命」をいかに伸ばすか、それによって人生そのものの価値を高めるお手伝いをしていきたいと考えています。

大切なのは、「自分のご機嫌は自分でとる」

**――人生100年時代と言われ、寿命そのものは確かに伸びましたが、健康寿命を伸ばすことは更に大切なことなのかもしれませんね。最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。

佐田さん:いまの日本は少子化・孤独化が、目を背けられない重要な課題となっています。大切なのは人と人が繋がること。でも重要なのは「どんな状態でつながるのか」ということです。

お互いが心もからだも健康な状態で繋がれたなら、楽しいこと、嬉しいこと、時には辛いこと……きっといろんな事を共有しあい、お互いの人生の価値を高め合えるのではないでしょうか。そのためにはまず自分自身が「心もからだもご機嫌であること」が大切です。他の誰かや、何かといった外的な要因に左右されるのではなく、「自分のご機嫌は自分でとる」、それができたなら、自分自身が変わり、周囲が変わり、やがては日本全体が変わると思うのです。まずは自分から。今日もご機嫌にまいりましょう。