いくら「お金を貯めたい!」と思っても、給料が高くない若い世代の人にとっては、限られた収入のなかで毎月きちんと貯金をすることはなかなか難しいもの。しかし、なかなかお金が貯まらないことの原因は、給料が高くないことではなく、「ひとつの口座だけを使っている」ことにあるかもしれない――。
ファイナンシャルプランナーの飯村久美先生はそう指摘します。「お金を貯めるための基本中の基本」と先生がいう、口座の使いわけ術を解説してもらいました。
ひとつの口座を使うだけではお金は貯まらない!
――先生、お金が貯まらない人にはどんな原因があると思いますか?
飯村先生 もちろん人によってさまざまな原因がありますが、とくに若い人に多いケースとしては、給料が振り込まれるひとつの口座しか使っていないということが挙げられますね。
――へっ? そこが問題??
飯村先生 大問題ですよ(笑)! 本人としては「毎月いくら残して貯金しよう」と頭のなかで収入や支出を計算しているつもりなのでしょうけれど、ひとつの口座しか使わない場合にはついお金を使い過ぎてしまって、目標の貯金額を残せないということが多々あるからです。
――では、どうすればいいのでしょう?
飯村先生 これはもう基本中の基本! まずは口座を「使う口座」と「貯める口座」のふたつにわけることからはじめてくださいね。
――「使う口座」と「貯める口座」……。それぞれ、どのように使いわけるのですか?
飯村先生 「使う口座」にするのは、給料が振り込まれる口座がベストです。家賃や水道光熱費、通信費といった固定費の引き落とし、クレジットカードの支払いなどもこの「使う口座」からされるようにしておきます。そして、給料が振り込まれたら、まずは自分で決めた貯金額を「貯める口座」に入金する。そして、貯金を確保したうえで、「使う口座」に残ったお金を、日々の生活費やおこづかいなどにあてるのです。
――そうすることでなにがどう変わるのでしょう?
飯村先生 まずは、先にお伝えしたような「お金を使い過ぎてしまって目標の貯金額を残せない」という問題が解消されます。だって、これはあたりまえのことですが、先に「貯める口座」にもう入金してしまっていますからね。すると、毎月必ず決まったお金を貯めることができます。それこそ、なにか買いたいものがあるといったはっきりした目標がある人なら、残高が着々と増えてその夢に近づいていることが目に見えてわかります。そして同時に、貯金に対するモチベーションをさらに高めてくれるでしょう。
お金を「使う口座」「貯める口座」のふたつにわける
――「使う口座」のほうにもメリットがあるんですよね?
飯村先生 もちろん! なにより、お金の管理がとても楽になります。給料の振込口座から固定費の引き落としやクレジットカードの支払い、生活費やおこづかいの引き出しなどをすべて行うのですから、通帳を見れば収入・支出が一目瞭然になる。すると、もし本来の予算よりお金を使い過ぎてしまってもすぐにわかるのです。たとえば、手取り25万円の人が、月に35万円使ってしまったとしたら?
――10万円の赤字です。
飯村先生 そうですね。でも、ひとつの口座だけを使っていて、収入・支出に加えて貯金も一緒にしていたとしたら、せっかくの貯金からその10万円を補填することになります。そうして、1カ月の収入・支出がはっきりわかりづらいために、10万円の赤字に気づきにくくなるのです。これは至極当然のことに思えますが、実際にそれをやるやらないでは、大違いです。
――なるほど。赤字が出るなんてことがあれば対処しなければなりませんよね。
飯村先生 早急な対処が必要ですよね。1カ月なら10万円の赤字で済んでいたのに、そのことに気づかないまま半年もたてば、気づいたときには60万円の赤字ということにもなりかねないですから。赤字が出るということは、収入に見合った生活ができていないということ。ですから、なるべく早く家計を見直す必要があります。そのためにも、口座を使いわけて月々の収入・支出を把握するようにしましょう。
――そういえば、「使う口座」は給料の振込口座がベストのことでしたが、「貯める口座」はどんな口座にするのがいいのでしょう?
飯村先生 もちろん、「使う口座」ときちんとわけていれば普通口座でもOKです。その場合には、ついつい街中で銀行のATMを見つけてお金を引き出してしまわないよう、「貯める口座」はメガバンク以外の金融機関のものにするとか、そのキャッシュカードは持ち歩かないようにするといった工夫も必要です。
――意図的に引き出しづらくするわけですね?
飯村先生 そう。でも、普通口座の場合にはやはり入金を忘れる可能性もありますから、自動積立定期預金や会社の財形貯蓄制度など自動的に「天引き」されるものがベストですね。自分では特別なことはなにもしていないのに、天引きで「いつの間にかお金が貯まっている」というのは、なかなか快感なものですよ(笑)。そういう快感をたくさん得た人が、お金を貯めていくことができると思います。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/櫻井健司