むかしから「家賃は収入の3割までに抑えるのがよい」といったことがいわれます。でも、かつては固定電話の料金くらいのものだった通信費は、いまではネットやスマホの料金などによって大きく上がっているはずです。いまの若い社会人は、いったいなににどれくらい使うのが好ましいのでしょうか?
現代日本における「賢い給料の使い方」を、飯村久美先生に教えてもらいます。
まず見直すべきは、毎月変わらず出ていく「固定費」
――単刀直入に申し上げます。先生、「賢い給料の使い方」を教えてください!
飯村先生 なるほど……(笑)。では、いきなり答えからお見せしましょう。これは、わたしが作成した、首都圏など都市部における新社会人をモデルにした理想の支出割合です。いわば、「賢い給料の使い方」ですね。
(注)ひとり暮らしの場合を想定。住居費の適正割合は地域により異なり、それによって貯蓄割合も変わる
――これを見ると、むかしからいわれるように、「家賃は収入の3割まで」なんですね。
飯村先生 ええ、そうですね。時代は変わっても、もっとも大きな支出である住居費は30%が限度でしょう。
――こまかな「費目」の他に、「固定費」「変動費」「貯蓄など」という項目がありますが、これは?
飯村先生 いいところに気がつきましたねえ。給料を賢く使うには、まず、支出をそれらの3つにわけて考えることが重要です。基本的には毎月変わらず出ていく「固定費」、自由に使える「変動費」、使わずに貯める「貯蓄など」の3つです。では、ここで問題です。限られた給料からなるべくお金を手元に残すためには、どうすればいいでしょうか?
――もちろんそれは、なるべくお金を使わないようにすること?
飯村先生 はい、そうですね。でも、どんなに節約しても毎月変わらず出ていくお金があります。それは固定費ですね。だからこそ、固定費は、支出を抑えてなるべく多くのお金を手元に残すために見直すべき重要なポイントになります。
――具体的にはどのように見直すべきでしょう。
飯村先生 まずは、通信費。若い人の場合、やはりブランド志向が強いのか、スマホも3大キャリアに多額の利用料金を払い続けているケースが目立ちます。でも、いまなら格安スマホの業者がどんどん増えているのですから、それらを選択して通信費を抑えることを考えてみてほしい。また、保険もネットダイレクト保険を選べば安く抑えられます。もちろん、収入に対して家賃が高過ぎる場合は引っ越すことも考えましょう。
――電気やガスの業者も自由化により選択肢が増えましたね。わたしは「某R社」ユーザーなのですが、そもそも料金が安くポイントにも期待できる「某Rでんき」に電力会社を変えました。
飯村先生 素晴らしい! しっかりお金を残すには、そういうふうに、毎月あたりまえのように出ていくお金を少しでも減らしていくという意識は欠かせません。
固定費と貯蓄を先に確保して、「変動費」にまわす
――固定費と併せて、やはり貯蓄も先に確保するということでいいですか? 飯村先生 そうですね。できれば、積立定期預金のように「天引き」で貯蓄できる仕組みをつくることをおすすめします。給料が入ってきたら、入ってきた分だけ使ってしまうという人もいますからね。
――少なくとも収入の10%を貯蓄にまわすべきとのこと。 飯村先生 もちろん、それ以上にできる人はそうすべきです。でも、まだ収入が少ないひとり暮らしの若い人が収入の20%や30%を貯蓄するのはやっぱりなかなか難しい。でも、そういう人でも、きちんとやり繰りさえすれば、収入の10%を貯蓄することは可能です。
――貯蓄とは別にある「特別支出の積み立て」とはなんですか?
飯村先生 これは、たとえば家電が故障して買い換えなくてはいけなくなったとか、友人の結婚式に出席することになったといったときに対する備えです。あるいは、年末年始の帰省費用など、年間のスケジュールのなかで計算が立つ特別な費用も含まれます。もちろん、ボーナスがある人はそこから出してもいいのですが、ボーナスがない人の場合にはきちんと積み立てておかないと、いざというときにお金がない……ということになりかねませんからね。
――そのように固定費と貯蓄を先に確保して、残ったお金を変動費にまわすわけですね。 飯村先生 そうです。変動費の内訳については、自分の価値観によって配分していきましょう。食事が大好きなグルメの人なら、おこづかいの分を食費にまわしてもいいですよ。逆に、のめり込んでいる趣味があるなら、食費を削って趣味につぎ込んでもOKです!
――安心しました。スナックで飲むことが大好きなわたしなら、食費をスナック代にまわしてもいいということですね?
飯村先生 そうですね(笑)。ただし! 変動費の合計が、収入から固定費と貯蓄を抜いた予算を上回らないことが絶対条件となりますから、そこは注意してくださいね。
――はい……気をつけます。そういえば、「家賃は収入の3割まで」とのことですが、「結婚するまでのあいだだけ」と、若いときに高級デザイナーズマンションに住んでいた友人がいました。
飯村先生 それも考え方次第ですね。その人にとって、いい部屋に住むことが趣味やこだわりで、他の変動費を抑えて家賃にまわしていたのだったら、まったく問題ありませんよ。
いまという時代をチャンスだととらえる
―たくさんのお金事情を知っているファイナンシャルプランナーの立場から、若い世代のお金の使い方を見ていて、気になっていることはありますか?
飯村先生 ん〜……やっぱりギャンブルにのめり込んでいる人は心配になりますね。わたしが趣味でやっているとあるスポーツに集まる22〜26歳くらいの若い男性。彼らのなかにパチスロにハマっている人多いんです(苦笑)。しかも、ギャンブルだけではなくて、なかにはスマホのゲームに何十万円も課金しているような人もいて……。
――そんなに……! 先生から彼らにアドバイスをすることはないんですか?
飯村先生 もちろんしていますよ! 彼女をつくるなどしてもっと楽しいことや身になることにお金を使ったほうがいいとかね(笑)。
――とはいえ、若い彼らにとっては、気晴らしのギャンブルやスマホのゲームが大事な趣味なのかもしれません。
飯村先生 たしかにね……。でも、やっぱりギャンブルは趣味とはちょっといえない気がするな。たとえば、旅行が趣味の人なら、旅先で触れた文化や人とのつながりなど、お金を払った代わりになにかしら手に入れられるものがありますよね。でも、ギャンブルで使うお金はただ消えていくお金でしょう? 実際にギャンブルが趣味でお金をたくさん貯められた人は、ほとんど見たことがありません。もちろん、博才のあるごく一部には増やせる人もいるのかもしれませんが……それはもう、持って生まれた才能ですから(苦笑)。いずれにせよ、お金を使うときには、「その支出は自分にとって生きてくる投資になっているのか?」という意識を持ってほしいと思いますね。
――新型コロナウイルスの影響などもあって、遊びたい盛りの若い人たちは、好きなことを思い切り楽しめずにかわいそうな部分もあります。
飯村先生 それはたしかにかわいそう。これはお金の使い方に限った話ではありませんが、いま、新型コロナウイルスの影響で、プライベートのことはもちろん、働き方や生き方についてもこれまで以上に考えたという人も多いでしょうね。リモートワークが広まり、必ずしもわざわざ都会に住んで毎日通勤しなければならないということでもなくなりました。もちろん職種にもよりますが、パソコン1台あれば、空気が美味しくて物価が安い地方に引っ越して働くこともできます。充実した人生を送るためには、そういった発想も大事になってくると思います。
――本当に、ガラリと状況は変わりました。わたしもいまは、ほとんど在宅で仕事をしています。
飯村先生 ライターさんはそうできますよね。他の職業でも、たとえばユーチューバーとして生計を立てている若い人もたくさんいます。かつてのバブル期などと比べると、国全体の経済状況としてはとても厳しい時代なのかもしれません。でも、逆にさまざまなツールの発達によって働き方や生き方の選択肢が広がっている時代でもある。そのことを、「恵まれていること」であり「チャンスだ!」ととらえて、希望を持って未来に向かって歩んでいってほしいとわたしは思っています。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/櫻井健司