いつの時代も、稼ぎがそう多くない若者にとってお金に関する悩みは尽きません。それこそ、かつての右肩上がりの時代とはまったく異なり、先行きが見えないともいわれるいまの日本に生きていたらなおさらでしょう。いったいどうすればお金に関する悩みを少しでも減らせるのでしょうか?

  • 若いうちから意識すべき、お金を「稼ぐ」「貯める」「増やす」の3つの力 /ファイナンシャルプランナー・飯村久美

「お金のプロ」であるファイナンシャルプランナーの飯村久美先生は「『稼ぐ』『貯める』『増やす』の3つの力を身につけるべき」というのですが……。それぞれいったいどういう力で、なぜ必要なのか——詳しく教えてもらいました!

お金を貯めて増やすためのベースとなる「稼ぐ力」

――社会に出て間もない若い人は、いつも「お金がない」と悩んでいることも多いと思います。そんな人が、きちんとお金を貯められるようになるために意識すべきことは?
飯村先生 まず知っておいてほしいのは、きちんとお金を貯めて増やしたいのなら、身につけておくべき3つの力があるということです。その3つの力とは、ズバリ「稼 ぐ力」「貯める力」「増やす力」です。

――3つの力ですか。では、順に解説していただけますか?
飯村先生 まかせてください! これはとても大事なことですからよく聞いてくださいね。まずは、稼ぐ力について。あたりまえですが、稼ぐことができなければ元手が得られないのですから貯めることも増やすこともできません。つまり、稼ぐ力は、お金を貯めて増やすためのベースとなる力といえます。

――となると、まず稼ぐ力を伸ばすことが重要ということですね。
飯村先生 そのとおりです。本当にたくさん稼ごうと思えば経営者になるのがいちばんですが……若い世代のみなさんにはまだピンとこないかもしれません。ですから、いまはさまざまな勉強をしたり経験を積んだりするなかで、自分の武器となり得るスキルをとことん磨いていくことを考えてみましょう。そのことが、キャリアアップにつながり、稼ぐ力を上げることにもつながりますからね。

――キャリアアップということでいえば、いまは副業を推奨している企業も増えています。
飯村先生 わたしも副業には大賛成! 会社勤めの人たちのなかで、自分が本当に好きなことや得意なことを仕事にできているケースはそう多くないでしょう。そうであるなら、副業で自分が好きなことや得意なことを追求してみるべきです。そうやって学びのなかでスキルを磨いていくことで、ゆくゆくは自分の好きなことや得意なことを本業にして、しかもがっちり稼ぐこともできるようになるかもしれませんよ。

――好きなことや得意なことで稼ぐ。これは、若い人たちにとっては魅力的な響きですね。
飯村先生 だって、好きでも得意でもないことを仕事にするより、絶対楽しいじゃないですか。日本では、子どもの頃から「不得意教科は克服しなければならない」といったふうに、不得意なことも頑張ってやらなければならないといった考え方を押しつけられがちです。でも、不得意なことは、それが得意な人にまかせればいいと思うのです。でも、その一方で「これだけは負けない!」といったものをとがらせていくことを忘れてはダメ! その姿勢こそが、稼ぐ力を伸ばしていくはずです。

支出をコントロールして将来の備えを「貯める力」

――では、次の「貯める力」の重要性について教えてください。
飯村先生 あたりまえのことですが、いくら稼いでも稼いだ分だけ使ってしまえばお金は残りませんよね。ものすごく稼いでいたはずの有名人が、じつは破産していた……なんて話を聞くこともあるでしょう? 将来のための備えは、現役で働けるうちにしか貯められませんから、支出をコントロールしてお金を貯める力が大切になります。

――そのようにお金を貯めるためにできることは?
飯村先生 日々、節約を心がけ、毎月の目標貯蓄額を余らせるように努力をするのもいいのですが、わたしからおすすめしたいのは、積立定期預金のような「天引き」です。給料が入ったら、自動的に貯蓄できる仕組みをつくることが大切です。残ったお金でやり繰りするという発想です。

――結婚もしていなくてお金の使い方に無頓着な若い世代だからこそ天引きが有効である、ということですか?
飯村先生 そうですね。天引きはとにかく楽なんです。一度、設定するだけでその後は必ず貯蓄口座に振り替えられているのですから。また、そもそも若い人の給料はそれほど多くありません。給料では足りずに普通預金に貯蓄用として貯めていたはずのお金に手をつけてしまう可能性もあるからです。定期預金にしておけば、普通預金ほど安易にお金を引き出せませんので、そうした工夫も有効です。ちなみに、わたしが社会人になったばかりの頃は、毎月10万円を天引きして貯蓄していました。

――えー! それはすごい!
飯村先生 そうでしょう(笑)。

――その方法もやはり天引きですか?
飯村先生 もちろんそうです。わたしは実家暮らしだったということもあるのですが、当時勤めていた保険会社の福利厚生がしっかりしていて、すごく利率のいい財形貯蓄制度を利用できたんですよ。だから、自分はなんの工夫もしていません。毎月10万円が貯蓄される仕組みをつくっただけのことです。もちろん、若くてひとり暮らしの人なら毎月10万円を貯蓄することは難しい。でも、自動的にお金が貯まる仕組みをつくって、毎月2万円でも3万円でも貯めることはできるはずです。その積み重ねをするとしないとでは、将来残るお金がまったく変わってきます。

これからの時代にもっとも重要となる「増やす力」

――では、最後の「増やす力」について教えてください。とくに、マネー教育が不足している日本ではお金を増やす意識が薄いともいわれますが……。
飯村先生 それはもう、残念ながら本当にそのとおりなのです。ただ、増やす力の重要性が増してきたことには、時代の変化によるところもある。では、その時代の変化とはどういうものでしょうか? わかりますか?

――いまはお金を増やしづらくなった……とか?
飯村先生 正解です! かつてなら、郵便局の定額貯金に100万円を預けたら10年で倍の200万円になるという、なにも考えなくともお金が増えたという時代がありました。でも、いまの利率では100万円が200万円になるには3万6000年くらいかかってしまいます……(苦笑)。

――人生100年時代と考えても、360回の人生が必要ですね(苦笑)。 飯村先生 つまり、いまはこつこつ貯金するだけでは、いつまでたってもお金は増えないのです。しかも、超低金利時代であることに加えて、今後は老後の生活を全面的に年金に頼ることも難しくなります。

――年金制度が破綻するのではないかといった報道も見聞きします。
飯村先生 2019年に、金融庁が「年金では満足な生活水準に届かない可能性があり、老後に2000万円の備えが必要」という報告書を出したことが物議を醸したことを覚えていますか? 2000万円という金額の妥当性はともかく、間違いないのは、今後は自分自身でお金を増やす力が必要になるということ。そして、国民が自分でお金を増やすことを国も支援しています。メディアなどで見聞きしたことがあるみなさんも多いと思いますが、「iDeCo」や「つみたてNISA」といった制度は、国が推奨しているものです。

――聞いたことはありますが……それぞれどんなものなのでしょうか?
飯村先生 詳しくはまた別の機会に説明しますが、簡単にいうと、「iDeCo」は自分専用の年金口座に毎月一定額を積み立て、自分の選んだ方法で運用することで得られる運用益を将来の年金の受取額に上乗せできるという制度。一方の「つみたてNISA」は、少額からの長期・積み立て・分散投資を後押しするための制度です。毎年40万円を上限として一定額ずつ投資信託を購入することができます。そして、iDeCoもつみたてNISAも国が推奨しているものですから、運用益に税金はかからないというメリットがあります。国は税制面で優遇することで、「自分たちでお金を増やしてほしい」といっているわけですね。

――いま、お話を聞いたわたし自身もそうですが、「やっぱり難しそう」と思う読者も多そうです。
飯村先生 だからこそ、しっかり情報をキャッチして自分で学んでいくことが大切! 「難しそうだな」と思って敬遠し続けていては、いつまでたっても増やす力を伸ばせませんよ。

――なるほど。ただ、なにからどう学べばいいのでしょうか。
飯村先生 やはり大切なのは、なにより正しい情報をキャッチすることです。ネット上には誤ったの情報もたくさんあります。そういったものに踊らされちゃ絶対にダメ。金融庁や金融中央広報委員会のウェブサイトなど、出どころがしっかりしたところの正しい情報でマネーリテラシーを高めていくことを心がけてくださいね。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/櫻井健司