まだシングルの若い人にはピンとこない話かもしれませんが、「そろそろ結婚したい」とか「子どもができた」という人なら、今後の住まいをどうするかということは大きな問題です。長い人生を考えた場合には、「持ち家と賃貸はどっちがお得なの?」という疑問に対する答えを知りたい人も多いでしょう。
この永遠のテーマについて、ファイナンシャルプランナーの飯村久美先生のお考えをお聞きしました。
■「持ち家vs賃貸」それぞれのメリット、デメリット
――今回は、住居をめぐる永遠のテーマについて先生のお考えを教えてください。持ち家と賃貸は、結局どっちがお得なのでしょうか。
飯村先生 これはまさに、永遠のテーマですね。では、まずはそれぞれのメリットとデメリットを見ていきましょう。
【持ち家】
●メリット
・ローンを完済すれば土地や建物が自分の資産になる
・万が一のとき、遺族に家を残せる(団体信用生命保険に加入している場合)
・ローン完済後は毎月の住居費が大幅に減る
・自由に内装などを変えられる
・住む地域とのつながりが生まれやすい
●デメリット
・大きな借金を背負う
・修繕費などの維持費や固定資産税がかかる
・建物の保険、家財の保険が必要
・住み替えにくくなる
【賃貸】
●メリット
・気軽に住み替えができる
・住宅ローンの破綻リスクがない
・固定資産税、修繕費がかからない
・火災や地震などによる建物の保障は大家の負担
●デメリット
・自分の資産にならない
・ずっと家賃を払い続ける必要がある
・一般的に敷金・礼金、更新料などが必要になる
・自分好みの部屋に変えられない
・老後は住居を借りにくくなることもある
■持ち家にするか賃貸にするかは、自分のライフプラン次第
――なんとういうか……どっちもどっちという感じですね。ちなみに、それぞれに必要なお金はどのくらいになるのですか?
飯村先生 では、最新の住宅ローン金利を反映させて、住宅を購入した場合と賃貸に住み続ける場合それぞれのトータルコストの一例を出してみましょう。これは、「都心で、子どもが独立するまで4人で住む場合」を想定しています。
【持ち家補足】
年間維持費→管理費、修繕積立金、固定資産税、火災保険、地震保険等
【賃貸補足】
住み替え→当初の家賃を12万円とし、子どもの成長に合わせて10年目に家賃14万円の家に引っ越す。20年目に家賃13万円、30年目に家賃9万円の家に引っ越すことを想定
飯村先生 注目してほしいのは、持ち家、賃貸それぞれに住み続けた場合にかかるトータルコストを示したグラフです。
――最初は持ち家のほうがたくさんのお金が必要ですが、最終的に逆転していますね。でも、ほとんど変わらないというか……。
飯村先生 そうです。持ち家の場合、購入時にはまとまったお金が必要ですが、ローンを完済すればその後に必要なお金は一気に減ります。もちろん、ここで示したのはあくまで一例であり、購入したり借りたりする住居やその立地などさまざまな条件により変化するものですが、それらが同じような条件であれば持ち家と賃貸それぞれに必要なコストに大きなちがいはありません。
まさにどっちもどっちなのです。とはいえ、やはり持ち家のほうは資産として残るという大きなメリットもありますし、賃貸の場合は、高齢になったときに借りにくくなるといったお金以外の部分もポイントになります。
――すると、やはり持ち家のほうがいいということでしょうか?
飯村先生 いえ、そうではありません。「資産としての家なんて欲しくない。気軽に住み替えたい」という人なら、賃貸を選択すべきですよね。結局のところ、みなさんそれぞれのライフプラン次第ということになるのです。住まいに対してどんなこだわりを持っているのか、どんな場所を拠点にするのか、家族は何人でどんな人生を送りたいのか、それらは人によってまったくちがうものでしょう?
――たしかに。田舎の古民家を買って畑いじりを楽しむような人もいれば、たとえ狭くて家賃は高くても都心に部屋を借りてばりばり仕事に打ち込んでいる人もいます。
飯村先生 「どっちがお得か」といったお金のことではなく、自分がどう生きたいのかというライフプランをしっかり考えることこそがもっとも大事なことです。
■家族、とくに子どもがいる人には持ち家がおすすめ
――それぞれのライフプラン次第ということですが、それでもやはり多くの人がこの永遠のテーマをめぐって悩むものだと思います。「こういう人は持ち家にしたほうがいい」、あるいは「賃貸にしたほうがいい」といった判断基準はないでしょうか。
飯村先生 結婚して家族がいる人なら、やはり持ち家にしたほうがいいかもしれませんね。ひとりの大黒柱の収入に家計を頼っている家族が賃貸に住んでいるケースでは、もしその大黒柱に万が一のことがあれば、パートナーは家賃と生活費を稼ぐために働きはじめなければなりません。子どもがいるような場合なら、それは相当の負担でしょう。
――なるほど。一方、持ち家の場合なら?
飯村先生 「団体信用生命保険」というものに加入していれば、その後のローンの支払いが免除されます。もちろん、その場合にも生活費を稼ぐ必要はありますが、
ローンの支払いがなくなることは、遺族にとっては大きな安心感につながるはずです。それから、子どもがいる人なら、子どもにとっての「実家」をつくる意味でも持ち家がいいかもしれませんね。
――実家ですか。
飯村先生 もし、子どもがいる家族が住む場所を転々と変えたとすれば、その子どもには「ここが実家だ!」「ふるさとだ!」と感じられる家や場所はできませんし、思い出の柱の傷もなければ、地域愛も育ちにくい。もっといえば、「自分はここで育ったんだ!」という意識から形成されるアイデンティティーも生まれにくいでしょう。それはやっぱり寂しいことではないかと思うのです。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/櫻井健司