なるべく楽をしてお金を貯めたい――。ズボラを自覚しているような人なら、そんな思いも抱いていることでしょう。そんな、まるで夢のような貯金法はないのでしょうか。無理を承知でファイナンシャルプランナーの飯村久美先生にお話を聞いたところ、なんと答えは「あります」でした。

その貯金法とは、「通帳眺めるだけ貯金」。その名のとおり、「貯金を眺めるだけ」というのですが、どうしてそんな方法でお金が貯まるのでしょうか。

■ダイエットと貯金は似ている?

――先生、世の中には「○○だけダイエット」といった、楽してやせるというダイエット法があります。そんな感じで楽して貯める貯金法はないですか?
飯村先生 とにかく楽をしたいというのはあまり褒められたものではありませんが……なかなかいい視点です。というのも、ダイエットと貯金はとても似ているからです。

――ダイエットと貯金が似ている?
飯村先生 それこそ世の中には数え切れないほどのダイエット法がありますが、すべてのダイエット法に共通することとはなんでしょう?

――体重がわからないことにはダイエットの意味がないですから、体重を測ること……?
飯村先生 正解です。ダイエットをはじめたら、最初にやるのは現状の体重を把握することです。そして、ダイエットにより徐々に体重が減っていくことを数値として確認できれば、「きちんと努力の成果が出ているぞ!」と自信を持つことができ、さらには「よし、もっと頑張ろう!」というモチベーションが生まれることにもなります。それとまったく同じことを貯金でもやるのです。

■快感を求める脳が、貯金のための好循環が生む

――貯金の場合は、体重を確認するように貯蓄額を確認する?
飯村先生 そのとおりです。まずは通帳に記帳して現時点の自分の貯蓄額を知りましょう。そして、週に1回くらいでもいいので、その後も定期的に通帳に記帳しては貯蓄額を確認するのです。すると、いつ給料が振り込まれて貯蓄額がいくらに増えて、いつなににお金が引かれていくらに減るということをつねに意識することができます。そうすることで、自分の貯蓄額の変化に対する関心が高まるのです。

――そうなると、「昨日よりやせたい」ではないですが、「今月の給料日には先月よりも貯蓄額を大きくしたい」なんて気持ちも出てきそうですね。
飯村先生 そうですね。そういったモチベーションが生まれれば、「もう少し無駄遣いを減らそう」といった気持ちを持つことになり、しっかりお金を貯められるお金の使い方をするようにもなっていきます。「○○だけダイエット」ではありませんが、いわば「通帳眺めるだけ貯金」というわけ。これはいわば、「快感」を利用した貯金法です。

――快感ですか。
飯村先生 わたしたち人間の脳は快感が大好きです。先のダイエットの例のように、「きちんと努力の成果が出ているぞ!」といった気持ちを持つことは、脳に快感を与えることになります。ただ、努力の成果は、なんらかの客観的な数値がなければそうそう感じられるものではありません。

でも、体重と同じように、貯蓄額はまさにはっきりとした客観的数値ですよね? 徐々に上がっていく貯蓄額という数値を見ることで努力の成果や自分の成長を感じて快感を得た脳は、さらなる快感を欲しがります。そして、快感を得たいがために「よし、もっと頑張ろう!」というモチベーションを脳が生むという貯金のための好循環をつくれるのです。

■ウェブ通帳のメリットとデメリット

――いまはいわゆるウェブ通帳を利用する人も増えています。「通帳眺めるだけ貯金」は、ウェブ通帳でもできるものですか?
飯村先生 もちろんできますよ。むしろ、紙の通帳よりもウェブ通帳のほうがいい面もありますね。

――どんなことでしょう?
飯村先生 「通帳眺めるだけ貯金」では、週に1回など定期的に貯蓄額を確認することが大きなポイントです。ただ、紙の通帳の場合、「今週は忙しくてどうしても記帳できない」ということもあるでしょう。でも、ウェブ通帳なら、スマホやパソコンからいつでも貯蓄額を確認できるのですから、そんな心配も無用です。

――逆にウェブ通帳のデメリットはありますか?
飯村先生 金融機関にもよりますが、「最大で過去25カ月」といったふうに、入出金明細を見られる期間が限られている場合がほとんどという点でしょうか。もちろん、申請さえすれば、その期間を10年にできるような金融機関もあります。ただ、「初任給の頃から頑張ってきた自分」を確認できるのはやはり紙の通帳です。

――たしかにそうかもしれませんね。
飯村先生 古い通帳を見ると、むかしのキャラクターデザインだったり、合併前の名前だったり、むかし大変だった頃の思い出もよみがえり、「ようやくここまで貯められたな」とお金に対する意識も強くなると個人的には思います。ただ、2021年1月から一部の銀行では新規口座の通帳の発行を有料化するなど、時代はデジタルの流れになっているようです。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/櫻井健司