社会に出て間もない若いビジネスパーソンなら、まだ給料が安いということもあって「なかなかお金を貯められない」と悩んでいることでしょう。でも、お金を貯められない理由は、給料が安いことなどではなく、お金の使い方にあるのかもしれません。
そして、ファイナンシャルプランナーの飯村久美先生は、「時間の使い方を見直すことでお金の使い方を見直せる」といいます。時間とお金――両者にどんな関係があるのでしょうか。
■時間とお金が持つ「有限」という共通点
――お金を貯められるようになるにはいろいろな方法があると思いますが、いますぐ簡単に実行できるものがあれば教えてください。
飯村先生 それならば、「時間簿」をつけることをおすすめしましょう。
――時間簿? それはいったいどういうものでしょう?
飯村先生 時間簿は、自分の時間の使い方を振り返り、理想の時間の使い方を考えるためのものです。
――なるほど。それはわかりましたが、そうすることでなぜお金を貯められるようになるのですか?
飯村先生 時間の使い方とお金の使い方に対する考え方はとてもよく似ているからです。時間は誰にとっても1日24時間という「有限」のものですよね。時間の使い方が上手な人は、その制約のなかでどうすれば自分にとって有益なことに時間を使えるかと考え、実行することができます。そして、お金も時間と同じように?
――有限のもの。
飯村先生 そうですね。どんなにたくさん欲しいと思っても、企業に勤めるビジネスパーソンなら、自分がもらえる給料は基本的に決まっています。その制約のなかで、「最低でもこれだけは貯金にまわさないといけない」「これは将来のための自己投資になる」「これは自分にとって無駄遣いだ」というふうに、自分にとって有益なお金の使い方を考えられる人こそがお金を貯められます。
つまり、時間簿によって自分自身の時間の使い方を見直すことで、お金の使い方に対する考え方や使い道も変化していくということです。
■普段の時間の使い方を振り返り、理想の時間簿をつける
――では、具体的な時間簿のつけ方を教えてください。
飯村先生 記入例を見てください。
飯村先生 こんなかたちで、まずは現時点での自分の時間の使い方を記入してみましょう。本当の現状を知るためには「時間簿をつけるから」という意識が働いて時間の使い方が変わってしまうことは避けたいので、思い出せるなら、前日の時間の使い方を振り返るのがいいかもしれませんね。
――そこから、どんな点に注目していけばいいでしょうか。
飯村先生 実際に振り返ってみると、「SNSを見ることだけに1時間も使っていた」「2時間もゲームをしていた」といった“無駄遣い”に気がつくはずです。さらに、「本当は読みたいと思っていた本があった」「部屋の片づけをしようと思っていたのに」というふうに、やりたかったことに時間を使えなかったことにも気がつくでしょう。
そうしたら、それらを踏まえて、今度は自分の理想の時間の使い方を時間簿にしてみるのです。小学生の頃、夏休みの前に「規則正しい生活をしましょう」なんていわれて書かされたスケジュール表と同じです。
――夏休みの最後の日に書くやつですね……。
飯村先生 ちがいます(笑)。とにかく、自分が幸せを感じられる時間の使い方を時間簿にしてみましょう。すると、それは自分にとっての理想なのですから、「こんな過ごし方をしたい!」という気持ちが強く働き、時間の使い方は確実に変わっていきます。そして、時間の使い方が上手になれれば、有限という同じ特性を持つお金の使い方も上手になれるのです。
■コロナ禍のいまは時間とお金の使い方が乱れがち
飯村先生 この時間簿は、それこそいまの若い人たちにこそ使ってほしいものです。
――というのは? 飯村先生 多くの人は忙しく、体力づくりや自分磨きに費やす時間なんてないといいます。しかも、スマホにパソコン、各種の動画配信サービスにSNSなど、いまは時間を奪うたくさんのツールに囲まれていますよね。忙しいなかのちょっとした息抜きにと、スマホを手に取る時間が増え続けて、結局、重要なことに取り組む時間がないなんてことはよくあることではないでしょうか。
中高年層ならともかく、小中学生のときからスマホを手にしていた若い人は、スマホ依存症なんていう言葉もあるように、スマホはたくさんの時間を奪います。いまの時代は、時間の使い方が乱れやすいのです。
――たしかに、以前なら自宅で楽しめる娯楽というとテレビやレンタルビデオなど限られたものでした。
飯村先生 加えて、今回のコロナ禍によって在宅時間が増えたなか、生活リズム――つまり、時間の使い方が乱れてしまったという人が増えているとも聞きます。そして、時間の使い方が乱れるということは、同じ有限のお金の使い方も乱れてしまう可能性も高いといえるでしょう。そうならないために、時間もお金も優先順位を見直して、重要なものに割り当ててほしいのです。
自分が30歳、40歳になったとき、自分が描いた理想像に近づくような時間やお金の使い方になっているのかを――。ぜひ時間簿を使ってよりよい時間とお金の使い方ができるようになってほしいと思います。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/櫻井健司