テレビのスイッチを入れれば、頻繁に目に飛び込んでくる「保険」のCM。ただ、既婚者ならともかく、若くて独身の人なら、「まだ若いから必要ない」だとか「選び方がわからない」とうふうに考え、民間保険について深く意識したことがないという人も多いかもしれません。
若い世代の人たちにとって民間保険は必要なのでしょうか? ファイナンシャルプランナーの飯村久美先生に話を聞いてみました。
必要以上に不安になる必要はまったくない
――先生、単刀直入にお聞きします。民間保険には入ったほうがいいのでしょうか?
飯村先生 どちらともいえますし、人それぞれに考えがあると思いますが、あまり心配し過ぎる必要はないということを最初にお伝えしたいですね。
――というのは?
飯村先生 会社員なら、厚生年金保険や健康保険など社会保険にはしっかり入っていますから、まったくの無保険ということはありません。例えば、高額の医療費が必要な病気になったような場合にも一カ月の自己負担額の限度は決まっています。ですから、必要以上に不安にならなくても大丈夫なのです。
――つまり、民間保険には入らなくてもいいということですか?
飯村先生 いや、そういうわけではないんですよね。心配し過ぎる必要はありませんが、保険に入るべきかどうかは人それぞれといえます。たとえば、たとえ若くてもお金に余裕があって、仮に入院してもある程度長期間の生活費が確保できているという人ならどうでしょう?
――保険は必要ない?
飯村先生 そう。ただ、わたしからは、若い人には安いものでいいので医療保険に入っておくことをおすすめします。
――その理由とは?
飯村先生 若い方はこの先の人生が長いですよね。自分がいつどんな病気になるか、病気になったときにどのくらいの費用がかかるのか読めません。それから、理由はもうひとつあります。若いほうが医療保険に入りやすいのです。健康診断でなにか大きな問題が見つかったりすれば、途端に医療保険には入りづらくなります。若くて健康なうちに医療保険に入っておけば、その心配もありません。
若いうちに終身医療保険に入ることが基本
――でも、お金に余裕がないからこそ、保険料を払うだけ払って「損をしたくない」とも考えてしまいそうです。
飯村先生 保険って、「損得」ではないんです。たとえば、海外旅行に行くときには誰もが海外旅行傷害保険に入りますよね。でも、なにもトラブルがなくて保険を使わなかったからといって、「損した!」なんていう人はいないでしょう?
――たしかに、いわれてみればそうかもしれない。
飯村先生 保険とは損得ではなく、安心のための「お守り」であり、保険料はいわば「安心料」なのです。
――では、具体的にどんな保険に入ればいいでしょうか。
飯村先生 若い人なら月額2000円くらいで終身医療保険に入れます。保険料は一生涯変わりませんから、安心のために入っておくのがいいですね。それから、結婚したとか、親御さんを扶養しなければならなくなったようなケースなら、自分に生命保険をかけておきましょう。自分の身にもしものときがあった場合に、家族にお金を残しておくためです。
――つまり、結婚もしていなくて親を養ってもいないわたしのような人間は、生命保険は不要ということですか?
飯村先生 そうですね……(苦笑)。未婚で親を養っていない人も、仮に親より先に死んでしまったという場合にも、自分の貯蓄の他、会社からの死亡退職金を親に残すことはできますから、わざわざ生命保険に入っておく必要はありません。まずは終身医療保険、それから結婚していたり親御さんを養っていたりする人なら生命保険にも必要な分だけ入る。これが基本中の基本です。
「万が一」より「1万分の9999」を充実させる
――実際に保険に加入するときの注意点を教えてください。
飯村先生 「心配だから」と保障をフルスペックにするようなことは避けたほうがいいでしょう。保障が大きくなれば、それだけ保険料も高くなります。とくにまだ給料がそれほど高くない若い人は注意すべきポイントです。
――なるほど。保険に入ろうといろいろと調べているうちに、「あれもこれも」と保障を増やしたくなる人もいそうですね。
飯村先生 心配性の人ならそうでしょうね。でも、保険は「万が一」のときのためのもの。一方、「1万分の9999」が日常生活です。「1万分の1」のときのために「1万分の9999」に必要な生活費や貯金額を下げなければならないというのは、やはりちょっとおかしなことでしょう? 「1万分の1」を最低限にして、「1万分の9999」を充実させられるように考えることが大切ではないでしょうか。
――たしかに、万が一のための保険料でふだんの生活が圧迫されては、元も子もありません。
飯村先生 そう! 民間保険はあくまでも社会保険の補完のためのもの。そう考えて、最低限必要なものをチョイスするようにしてほしいですね。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/櫻井健司