私がイギリスから帰国した90年代後半、「欧米ではビジネスの成功に、人の見た目も重要な要素とされている」と話しても、なかなか理解されませんでした。
いまだにお年を召した方の中には「男は見た目じゃない、中身で勝負だ」とおっしゃる方も多いです。一方で服装のだらしなさや、清潔か否かということには皆さんとても厳しい目をお持ちなのです。
人は見た目でお互いを見極め、コミュニケーションを図っていることは揺るぎない事実です。
「第一印象は7秒で決まる」。私が20年前に通ったイメージコンサルタントのスクールではそのように教わりました。
1970〜80年代はアメリカで社会学が花開いた時代です。UCLAのアルバート・メラビアン博士の「メラビアンの法則」では、人の印象の55%が視覚による「見た目」、次に38%が声のトーンや言葉の選び方等の聴覚に因るもの、そして話の内容は7%に過ぎない。人の見た目、話し方、伝えたいことの印象を一致させることが重要だと提唱されました。
私は「見た目の印象が、人を判断する材料の大半を占めている」ということを礎として、人のイメージを管理する印象戦略コンサルタントとして従事して参りました。
しかし、この社会学の研究が進めば進むほど、人の印象が決まるのは7秒から、2〜3秒とどんどん短くなり、ついに最新の研究では「0.15秒以内に分類することができる」と立証されたそうです。
0.15秒となると、人は外見のみで判断すると言っているようなものですね。もちろんそこから商談や面接が始まり、話し方や行動で印象は変わってくるはずですが、第一印象でつまずくと、後の交渉などにも支障をきたしかねません。
また、人は主観的な判断基準で相手を見極めるものです。したがって、あなたが好印象であるか否かは、相手次第。相手が何に対して好感を持つかということを考えてみる必要があります。そのためには、相手の職業や立場、文化背景などを尊重し、戦略を立てるのが効果的です。
オンラインは「密」そのもの
このコロナ禍で、リモートワークやオンライン会議にももう慣れたところかもしれません。ここで、リアルな会議と、オンライン会議の違いについて考えてみたいと思います。
人間の視野は、健康な大人が両目で見た場合、上下に120〜130°、左右に150〜200°と言われています。しかも、首や上半身を動かしたり、振り向いたりすることで、視界は360°まで広がります。
リアルな会議では、その広い視界の一部であるあなたが、オンラインでは、パソコンのディスプレイの中心、つまり相手の視覚の中心に常時映り込むことになります。
この逃げ場の無い密なシチュエーションで、あなたは相手に何らかの印象を与え続けています。オンラインはある意味、自宅に招き入れたような親密感も増し、実は密そのものなのです。
印象管理は「危機管理」の一環
たとえば、あなたが朝のオンライン会議に、寝起きでボサボサのヘアスタイルで参加したとしましょう。相手は会議中、その乱れた髪型に気を取られたり、違和感を感じたりすることになります。
それだけではありません。そのボサボサのヘアスタイルから、
身だしなみが整えられない=営業には向いていない。
早起きが出来ない=このコロナ禍、前夜に飲み歩いていたのではないか=仕事も雑=危機管理が出来ない=仕事を任せられない。
というような悪印象まで与えてしまうことも考えられます。たった1日、朝、髪型を整えなかっただけで、甚大な損益につながる可能性があるのです。
自身が発する印象を管理する
ここまで危機感を伴う話をしてきましたが、「印象を管理する」ということは、難しいことではありません。相手が嫌がることをしない、前もって相手が求めていることを考えてみるだけでいいのです。
相手の職業や立場、取引先なのか、上司、部下なのかによって、あなたが求められる像も違って来ます。会議の最中、相手にとって安心できる存在となり、信頼を得るにはどうすればよいか、という視点で考えればいいのです。
オンライン会議で気をつけるべきこと
まず、見た目の前に気をつけなければいけないことは、オンライン会議参加の場所とパソコン接続設定です。
自宅の場合、接続に戸惑い、会議開始時刻に設定が間に合わない、Wi-Fiの接続が悪い、家庭騒音などのトラブルが想定されますが、トラブル回避ができない=仕事を任せられないという悪印象を与えかねません。自分の60分は相手の60分でもあります。迷惑をかけないよう細心の注意を払いましょう。
次に、あなたの印象の大半を占める、相手の視覚に入る要素について考えてみましょう。
顔
まずは顔です。顔かたちのことを言っているのではなく目線や表情、リアクションも顔の一部です。
相手が話している時にはカメラを真剣に見つめて、傾聴していることや同意の意思を伝えるためにも、きちんと頷くことが効果的です。そして、自分が話す番で、相手の賛同を得たいときも、きちんと相手の目を見ることで説得力が増します。カメラを見て話しましょう。
ヘアスタイル
「見た目を意識しない」と言っている方ほど、髪型や髭の手入れには厳しい方が多いです。伸びていると、リモートワークの自堕落な生活をイメージされがちです。きちんとカットして整えましょう。
服装
まずは相手の服装を想定してみましょう。相手がリモートワークベースの方か出社している方かによっても変わって来ます。
相手がスーツにネクタイの装いなのに、こちらはリモートにかこつけて部屋着では、あまりにも相手の存在を軽んじていると受け止められても仕方ありません。服装は相手の服装の格に合わせることが大切です。服装については次回、詳しく説明しますが、せめて襟付きシャツを着ているだけでもきちんと感が増します。
背景
意外と目につくのは背景です。パソコンのディスプレイ上ではこまごまとしたものまで視界に入ります。ただ、テーブルやデスクがある部屋は限られますので、リビングなのか、キッチンの食卓なのかはさほど気にならないものです。
それよりも、背景に何が映り込むかが問題です。家族や彼女の写真、冷蔵庫にマグネットで貼り付けたメモ、本棚の漫画のタイトルまで詳細に読み取ることができますので、趣味嗜好まで、個人情報が筒抜けになる可能性があります。
また、ハンガーに洋服が雑に掛けられていると、手入れがされていないだらし無さ=仕事ができない、というイメージを持たれ、部屋干しの洗濯物からは生乾き臭を連想されてしまいます。相手にニオイまで可視化されないように注意しましょう。
いかがでしたでしょうか。相手のことを考えて、自身の発する印象を戦略的に操作することは、伝えたいことを、より効果的に相手に伝えることができる説得術にもつながります。
リモートワークの機会には是非チャレンジしてみてください。次回はオンラインでの服装選びについてお話しします。
タイトルイラスト/ネッシーあやこ