クルマの将来を考えるうえで「CASE」(C:Connected=コネクテッド、A:Autonomous=自動運転、S:Shared=シェアサービス、E:Electric=電動化)が欠かせない要素となった今、各社の新型車は以前と比べ、デザインも機能も大きく変わっている。また一方では、若者のクルマ離れが叫ばれ始めてすでに久しいという状況でもある。ただ、そんな環境にあっても、デザインや走り、ブランド力、ステータス性などで圧倒的な魅力を持つ「輸入車=外車」に今すぐ乗りたい、乗り換えたいと思っているクルマ好きは、まだまだ多いと思う。
そこで本特集では、外車デビューに最適な5台をピックアップし、乗り比べたうえで各モデルの魅力を探っていきたい。第1弾はプジョー「208」だ。
私の外車デビュー
と、本題に入るその前に、外車デビューから約30年が経過した筆者の話を少しだけさせてもらいたい。私の場合、1978年に初めてのマイカーとなる三菱自動車「セレステ」(2ドアハッチバッククーペ)を手に入れて以来、日産自動車やホンダなど国産車6台を乗り継いだのだが、1993年に当時発売されたばかりのフォルクスワーゲン(VW)「ゴルフ3GLi」(本当はゴルフ2が欲しかったのだが、直前にモデルチェンジ)の新車を275万円という大枚を支払って手に入れることで、外車デビューを果たしたのだった。
5ドアハッチバックのゴルフ3は、全長4,020mm、全幅1,695mm、全高1,420mmとコンパクトなボディに115PSを発生する2.0リッターエンジンを搭載していた。実用性と走りはどちらも抜群で、長く我が家の足として活躍してくれたものだ。そのサイズやパワーは、これから紹介していく5台にとても近い数値であり、最初の外車として選ぶのにはそのあたりが最適であることを、筆者は身をもって体験している。
ちなみに、なぜゴルフだったのかというと、①ゴルフ=高性能なドイツ車という評価がすでに確立していた、②知り合いが乗っていた白のゴルフ2がとてもカッコよかった、③VWディーラーが近くにあってメンテの心配がなかった、などの理由がある。なかでも③は、故障が多いとされる(当時の話です)外車を購入するうえでは特に重要だと思っていた。VWでは、それまで販売を担っていたヤナセを離れ、新たに国内ディーラー網を整備しつつある段階で、東京郊外に住んでいた筆者の自宅近くにも新店舗(VWあざみ野)ができたばかりという時期だった。
それから30年が経った今では、ドイツ勢だけでなく、フランスやイタリアのメーカーであっても日本国内の津々浦々にディーラー網を整備している。つまり、欲しいクルマがあったら気軽に実車を見に行けるし、試乗もできるし、購入後にトラブルがあっても安心という、外車に乗るには本当にいい時代が到来しているのである。
まずはプジョー「208」に試乗!
外車デビューに最適な1台を選ぶという今回の特集。第1弾にプジョー「208」を選んだ理由は簡単だ。2020年に欧州COTY(カー・オブ・ザ・イヤー)、2020-2021には日本の輸入車COTYのWタイトルを獲得し、日欧のジャーナリストたちからお墨付きをもらっているからである。コンパクトカーがCOTYに選出されるということは、走りやルックスだけでなく、価格や燃費などの経済性も優れているということであり、外車デビューにはぴったりのクルマであるということも容易に想像できる。
「Power of Choice」を掲げる新型208は、ピュアEV(電気自動車)とガソリンエンジン搭載車の2本立てだ。グレードはEVの「e-208」が「GT」(426万円)と「アリュール」(389.9万円)の2種類、ガソリン車の「208」が「GT」(299万円)、「アリュール」(262.9万円)、「スタイル」(249.9万円)の3種類。そのうち、今回の企画にぴったりのエントリグレードといえばガソリンのアリュールとスタイルだが、廉価版の「スタイル」が安全装備や内外装をかなり省いた受注生産モデルであることを考えると、自然にアリュールに目が向くはずだ。その208アリュールを都内の一般道と高速道路で試乗し、輸入車デビューにふさわしいクルマとしての魅力を確かめてみた。
カッコいいクルマに乗っているという満足感
208アリュールのボディサイズは全長4,095mm、全幅1,745mm、全高1,445mm。ホイールベースは2,540mmで、車重は1,160キロだ。プラットフォームはPSAグループの小型車向け「CMP」を採用。EVモデルへの対応を前提とした軽量・高剛性な車台である。長さ4mちょいの5ドアハッチバックスタイルは程よい大きさ(小ささ?)で使い勝手がよく、ヨーロッパの街中や日本の狭い道にはジャストサイズだ。
プジョーといえばブランドロゴのライオンが目印。208もライオンをモチーフとするエクステリアが特徴的だ。フロントグリルのサイドには、牙のようなデザインの縦型デイタイムランニングライトを装着。テールライトは三本のカギ爪をモチーフにしている。一目でプジョーであることがわかるシャープなデザインである。ちょっと“のほほん”としたイメージだった先代に比べると、とてもカッコよくなった。
ボディカラーはレッドやブルーなど6色を展開。試乗車がまとっていた明るい辛子色のような「ファロ・イエロー」は208によく似合っていて、眺めているだけでウキウキしてくる。
ドアを開けると、さらにスペシャルな世界が広がる。それがプジョー独自の「i-コックピット」だ。上下が平らな超小径のステアリングホイールがあり、リムの上側にメータークラスターが設置してあるレイアウトで、先代208から採用が始まった独特なコックピットである。
新型では、ナセルの天井からスピード計や回転計を投影して映し出す前景部分と、水温計や燃料計が映る遠景部分という風に、表示が立体的に見える「3D i-コックピット」に進化している。エントリーモデルらしからぬ未来感があってアピール度は高い。ナセル側面には三角形の切り欠きがあって、角度によってはそこから光が差し込んで画面が見えにくくなるのが少し気になるけれど、先進的なデザインを採用したことによる魅力の方が優る、という判断だったのだろう。
フロントシートは、ファブリックとテップレザー(合皮)を組み合わせた張りのある表皮を採用。座面が大きく、長く乗っても疲れにくそうだ。一方のリアシート周りは上下左右に不満が出ないぎりぎりのサイズで、ラゲッジ容量は265L。このあたりを重視するならSUVの「2008」をどうぞ、という割り切りがある。
走れば小気味いいコンパクトハッチ
1.2リッター3気筒エンジンの走りはどうか。最高出力が100PSなので多くを望むわけにはいかないけれど、最大トルクは205Nmと厚く、それが1,750rpmという低回転域から発生する。アイシン・エィ・ダブリュ製の8速ATは細かいステップで変速することでトルクのおいしいところを絶えず引き出してくれるし、ボディは1,160キロと軽いので、街中での加減速は自在だ。
SUVの2008に乗ったときに感じたi-コックピットによる違和感は、208では払拭されていた。小径ステアリングの切れ味と、鼻先が向きを変えるタイミングがマッチしていて、ちょっとした交差点を曲がるだけでも爽快な感覚が味わえる。
アリュールが装着しているミシュラン製の195/55R16(プライマシー4)タイヤは、適度なエアボリューム感と丸いショルダー部分による路面コンタクトの柔らかさがあって、絶妙な乗り味を提供くれる。ハイトの薄い17インチのスポーツタイヤを履く上位のGTと比べると、絶対的なコーナリングスピードでは敵わないけれども、フランス車らしいしなやかな足回りを愉しみたいならこっちだ。
高速では、6速が直結(ギア変速比1.00)で、7速(同0.808)、8速(同0.672)がオーバードライブとなるATのおかげで好燃費(WLTCモード17.0km/L)が期待できる。時速100キロあたりでは8速にはなかなか入らないけれど、制限速度が120キロとなる新東名などでは使えるギアになるはずだ。
ドライブモードは、「エコ」「ノーマル」「スポーツ」の3つをセンターコンソールのボタンから選択できる。スポーツモードにすると「モォォォー」という疑似排気音がスピーカーから発生するのは、前モデルから引き継ぐ面白いアイデアだが、それが気になったときに簡単に消音するためのキルスイッチは付けて欲しい。できれば音色まで選べると、もっと楽しいと思う。
ADAS(先進運転支援システム)については、アダプティブクルーズコントロール(ACC)やレーンポジショニングアシストなどの基本的な機能が標準装備となっている。超小径のためかステアリングスポーク上にACCのボタン類を取り付けることができなかったようで、同機能はポスト奥のちょっと見えにくい位置から生えたレバーで操作する。最初は戸惑うけれども、慣れると見なくても操作できるようになるという。
ライバルはトヨタ「ヤリス」か?
日本車でライバルとなるのは、208と入れ替わるように2021年の欧州COTYを獲得したトヨタ「ヤリス」だろう。「黒豆」を意識したというコンパクトでエッジの効いたボディ、1.5Lハイブリッドとガソリンエンジンというマルチなパワートレイン、硬めの足回りをいかしたシャープな走りなどが評価されての受賞と聞くと、208と重なる部分がまことに多いことに気がつく。
国内での販売価格をみると、208アリュールはヤリスの最上級HVモデル(4WD)より13.6万円ほど高い。逆に、その程度の差であれば、街中でよく見かけるヤリスよりも、プレミアムでよく目立つプジョー208を選ぶというやり方は大いにアリだと思う。