今回は、上手な怒り方とダメな怒り方についてお話をしたいと思います。そもそも、私たちはなぜ怒りを伝える必要があるのでしょうか? 怒りの正体はこれまでお伝えしてきているように、自分の理想や欲求である「こうあるべき」です。つまり、「~してほしい」と思う自分のリクエストが相手に正確に伝わり、相手の行動変容につながることが怒りを伝えることの目的です。

  • 上手な怒り方とダメな怒り方

上手な怒り方

自分の具体的なリクエストを穏やかな表現で伝えます。

【例】
OK:提出期限を守ってください。もし締切日に間に合わない時は、前日の終業時間までに報告してもらいたいです。(具体的な自分のリクエストを伝える)

NG:なんで提出するのがこんなに遅いんだ! (感情的に相手を責める)

また、いつでも、どこでも、誰に対しても同じ基準で怒るようにしましょう。自分の機嫌や人によって「怒る・怒らないの基準」がブレると、リクエストが伝わりません。周囲の人は「あの人は気分屋だ」「贔屓している」と受け取り、不信感を募らせてしまいます。

怒るときに守りたい3つのルール

上手に怒るポイントは、具体的に自分のリクエストをシンプルに伝えることですが、「ダメな怒り方」をすれば、相手にリクエストが伝わらない、相手がリクエストを受け取ってくれないということが起こり得ます。怒るときに守ってほしい3つのルールをご紹介します。

1.人を傷つけない
2.自分を傷つけない
3.物に当たらない

ダメな怒り方「人を傷つける」

人を傷つけるというのは、暴力だけでなく言葉によって傷つけることも含まれます。例えば、「お前はバカか!」「根暗だ」「無能だ」「あなたの存在が迷惑」など、人格を否定するような発言などです。また、「血液型が●の人はわがまま」「●●世代の人は使えない」など、怒っても変えられないことを自分の思い込みや決めつけによって怒るのもやめましょう。相手は不信感や失望感でいっぱいになり、あなたのリクエストを受け入れてはくれないでしょう。怒っていいのは、事実や相手の言動や態度だけです。

また、特に暴言を使わなくても、相手が傷つき、恐怖や屈辱を与えるような怒り方というのがあります。例えば、感情的に「なぜ、そんなこともできないのか?」「なんで失敗したんだ?」と相手を責める言い方です。人は責められると、防衛本能が働き、逃げたくなったり言い訳したくなったりするものです。「どうしたら改善できますか?」「同じ失敗を繰り返さないためには、何ができますか?」など、変えられない過去を追求するより、変えられる未来に目を向けて改善策を考えられるように穏当な表現で伝えましょう。怒ることは感情のはけ口にするのではなく、相手を攻撃することでもありません。自分のリクエストを相手に確実に受け取ってもらえるような伝え方を心がけましょう。

ダメな怒り方「自分を傷つける」

以前、私どもの協会で行った怒りに関するアンケート調査では、「怒りを感じることはありますか?」という質問に対し、約80%の人が「日頃から怒りを感じている」と回答しました。また、「怒りをどんな行動で表しますか?」という質問には、「行動で表さない39.4%」「黙る35.8%」という結果になり、日頃から怒りを感じてはいるものの、約75%の人が怒りの感情を上手に表現できずに溜め込んでしまっているということがわかったのです。

「自分が我慢すれば何とかなる」「怒って嫌われるぐらいなら自分が合わせればいい」など自分や組織にとって「本当は怒る必要のあること」を我慢したり、「自分のせいだ」と思い詰めたりして一人抱え込むのは建設的ではありません。気がつけば、自分のメンタルが崩壊し、うつ病になるまで追い込まれてしまうこともあるのです。また、ストレスが溜まってやけ酒やけ食いに走るのも自分を傷つける行為です。アンガーマネジメントは怒らないことではありません。

自分や組織にとって、怒る必要のあることであれば上手に怒ることで、自分を傷つけないで済みます。怒るときは、いつでも、どこでも、誰にでも「ブレない基準」を決めて伝えるようにします。怒る基準が明確で納得性が高いものであれば、自分も傷つかずに周囲の人も納得します。

ダメな怒り方「物に当たる」

イライラしたときに、物に八つ当たりするタイプの人もいます。デスクの上に音を立てて書類を投げつけたり、パソコンのキーボードを強く叩いたり、電話の受話器を荒々しく置いたりするタイプの人です。このように、怒りを上手に表現できないと物に当たることで解消しようとします。物に当たっても問題は解決しないどころか、怒る度に物に当たるようになり徐々にエスカレートしていきます。

また、周囲の人にも「大人げない幼稚な人」といった印象を与えます。相手にリクエストが伝わらないのはもちろんのこと、あの人には相談しにくいと思わせる「恐怖」「不安」「過度な緊張」などを感じさせてしまうでしょう。