四次面接通過! 想い出が走馬灯のようによみがえる

四次面接から数日後の夜、私は自室の中央で正座してスマートフォンと向き合っていました。息を大きく吐いて画面をタッチすると、しばらく後に画面には「最終面接のお知らせ」の文字が出てきました。四次面接に合格したのです。

四次面接は、手応えがあまり感じられなかった上に例年倍率も高いと聞いていたので、てっきり落ちたかと思っていました。画面に浮かんでいる文字が何かのバグなのではないか、もしくは私の見間違いかと、何度かページをリロードしてみたり、目をこすったりもしてみました。それでも、やはり間違いではなさそうです。いよいよ最終面接に行けるのです。2度目の就活を始めてからの様々な想い出が、映画のエンドロールのように次々と頭に浮かんできました。OB訪問で出会った社会人の方々、筆記試験を受けた大阪、自分をさらけ出した面接の数々…。そしてそれらの想い出には、必ずアイドルが付随していました。OB訪問で「アイドルヲタクをアピールしろ」と言われたこと、筆記試験とコンサートを両立したこと、週一で行われる面接とほぼ同じペースで通った色んなアイドルの現場。就活と趣味を同じペースで続けた数カ月は、自業自得ですがとてもハードで、しかしすばらしく充実していました。でも、こんな日々もそろそろ終わらせたい。ここまで来たら内々定、必ず取りにいくぞ! と意気込んで、数日後の最終面接を待ちました。

最後まで気は抜けない! いざ最終面接会場へ

最終面接当日、面接会場に行くと既に数名の就活生が待合室にいました。中には前回の面接で顔見知りになった人もいました。挨拶をして空(あ)いているイスに座ると、急に落ち着かなくなってきました。この会社の過去のデータを見てみると、ここ数年最終面接は受けた全員がほぼ受かる、いわゆる「全通」の面接でした。今年も同じであるならば、ここに座っている全員が未来の同期ということになります。ですが、最後まで気は抜けません。今年から選考の方法が変わったかもしれないし、そうじゃなくても何かがきっかけで落とされてしまうかもしれない。そう考えると何だか変にそわそわした気持ちになってきたのです。

面接は、さすが最終というだけあって社長を含めた重役の方々と複数対複数で行われました。この会社の選考過程の中で初めての集団面接です。聞かれたことに対して端から順に答えていく、オーソドックスなものでしたが、面接官の方々から放たれるオーラと、隣に座っている就活生たちの「デキるやつ」オーラに圧倒され、あまりうまく話すことができませんでした。自分がどんな話をしていたのかもよく覚えていません。

私が「アイドルヲタク」を隠さない理由

ただ、ひとつ印象に残っているのが社長の話でした。社長は映画を見ることが趣味のようで、面接中私が聞いたこともないような映画のタイトルをいくつも挙げてお話されていました。面接を受けている企業の社長に対してこのような感想を抱くのはいささか失礼かとも思うのですが、私はその社長の姿を見て「楽しそうだな」と思いました。

少し話がそれますが、以前、大学の女友達と夕飯を食べていたときのことです。その友達とは前に一度一緒に合コンに行ったことがあって、しかし私はその合コンを次につなげることができず、その日も私は彼女に「何で私はモテないんだろう」と愚痴っていました。すると彼女は、「あなたはアイドルの話してるときが一番イキイキしてて楽しそうでかわいいから、合コンでもアイドルの話すれば?」と冗談交じりに言ったのです。いやいや、初対面の男の人にアイドルの話はさすがに無理でしょ! と、笑い話で終わったのですが、映画の話をする社長さんを見てこの友達の言葉を思い出しました。

「アイドルヲタクであること」は、必ずしも良い風には捉えられません。というか、悪い風に捉えられることの方が多いです。「へ~そうなんだ、アイドルねぇ…」とちょっと引いた目で見られることもあれば、「私アイドル嫌いなんだよね」とはっきり言われることもあるし、異性の場合は「あ、この人今私のこと恋愛対象から外したな」と感じることもあります。それでもどうして私がアイドルファンであることを公言し続けるかというと、「好きなものについて話している人の表情を見るのが好きだから」なのです。食べ物が好き、ショッピングが好き、彼氏のことが好き、読書が好き、物理が好き、哲学が好き。私が全く知らない分野の話でも構いません。自分が一番好きなものについて話をしているときの人の顔は、イキイキしてて、楽しそうで、かわいいしかっこいい。そんな顔を見てしまったらその人のことを好きにならざるを得ない。だから私は自己紹介で「アイドルが好きなんです」と言うんです。私はアイドルが好き、じゃああなたは何が好きですか? 好きなものの話を聞かせて、と。

イキイキと楽しそうに話す人に対して、悪い印象を持つ人はそういないでしょう。私が映画の話をする社長さんの顔を見て「楽しそうだな、いいな」と思ったのと同じように、今まで出会った面接官の方々も私にそのような印象を抱いてくださったのかも知れません。アイドルヲタクであることを隠さずに就活をする当初の目的は「素の自分を見せるため」でしたが、もしかしたらアイドルについて語ることで、毎回自分の一番良い表情で勝負できていたのかな、と少し思いました。

そして最終面接を受けた日の夕方、結果は電話で届きました。


<著者プロフィール>
ぽんず
都内の私立大学文学部に通い始めて5年目。一浪・一留・ジャニヲタという女として崖っぷちスペックの女子大生。中学生の時にデビューしたてのNEWSに一目惚れして以来、アイドルヲタ歴は約10年。現在は、ジャニーズ全般、また女子アイドルや若手俳優の現場にも年平均50~60回足を運ぶ。熱しやすく冷めやすく思い込みの激しい牡羊座のO型。

(イラスト:womi)