2013年3月上旬、ESの結果も徐々に出そろい、次はいよいよ筆記試験です。私も例に漏れず、予想問題集を解いたり新聞を読んだりしながら勉強に励んでいました。…大阪で。

筆記試験とコンサートを回す

東京在住なのに何故大阪で筆記試験の勉強をしているのかというと、実はA社の筆記試験と関西ジャニーズJr.のコンサートの日程が被っていたからでした。関西ジャニーズJr.はその名のとおり関西を拠点に活動していて、コンサートもほとんど関西でしか行われません。コンサートDVDも発売されないので、公演を観たい! と思ったら、どうしても大阪に行くしかなかったのです。しかし、運の悪いことにコンサートと筆記試験の日程が丸かぶり。日程が発表されたとき、私は絶望しました。A社は数ある出版社の中でも特に志望度が高いところで、前年度は筆記試験で落ちていたためリベンジしたいという気持ちが強くありました。でも、関西ジャニーズJr.のコンサートにも行きたい。

しかも更に突っ込んだ話をすると、このコンサートは関西ジャニーズJr.の若手のみで初めて行われるコンサートだったのです。更に更に、私がSexy Zoneで一番好きなメンバーがゲスト出演することも決まっていました。アイドルヲタとしてここは押さえておかねばならないところでした。筆記試験を取るか、コンサートを取るか…いや、さすがに「筆記試験を取らない」という選択肢はなかったので、コンサートを諦めるかどうか、かなり悩みました。でも、悩んでいる途中でとあることに気付きました。A社の筆記試験は、現住所に関係なく、事前に東京会場と大阪会場どちらで受けるか選べたのです。私は東京在住なので当たり前に東京で試験を受けるものとばかり思っていたのですが、大阪会場を希望すれば試験もコンサートも両立できる! そして、大阪でコンサートと筆記試験を回そうと決めました。(※「回す」とは、アイドルヲタ用語で1日に複数のコンサートや握手会に行くことです)。 「二兎追うものは一兎も得ず」ということわざがあるけれど、私は二兎どころかこれを皮切りに三兎も四兎も取ってやると。そして3月某日。うちわとペンライトと双眼鏡(アイドルの応援グッズです)、それから予想問題集と新聞のスクラップでパンパンになったかばんを抱え、私は夜行バスで大阪まで向かいました。予定は一泊二日。1日目の夜にコンサートを観て、2日目の昼に筆記試験、そして夜にまたコンサートを観るというスケジュールでした。

迷子になりつつもなんとか筆記試験を受ける

早朝、大阪に到着して軽く顔を洗って朝食を済ませてから、コンサートの開演時間ギリギリまで勉強ができそうなカフェにこもりました。思えば大阪行きを決めてから、前年度の比にならないくらいがむしゃらに筆記試験の勉強をしました。「コンサートに行ったから筆記試験に落ちた」なんて恥ずかしいことには絶対になりたくなかったからです。結果的に、コンサートが良い感じのプレッシャーになっていたのかも知れません。1日目はコンサート終演後も早めにホテルに帰って、また勉強をしてから眠りにつきました。

そして翌日、私は梅田駅で迷子になりました。大阪に行ったことのある人は分かると思うのですが、梅田駅はかなり大きく複雑な作りになっていて「○番出口から出たい」と思ってもまずその出口がどこにあるのかすら分かりません。時間に余裕を持ってホテルを出たつもりが、駅の中でかなりのタイムロスです。更に最悪なことに、私は受験票に証明写真を貼り忘れていました。それに気付いたときはもう泣きそうでした。ただでさえ道に迷って時間に追われているのに、その上証明写真機を探して写真を撮らないと試験を受けることすらできない! 昨日まであんなに頑張った勉強も全て水の泡です。東京という慣れた土地だったら迷わずに会場まで行けたし、証明写真も家に取りに戻れたかもしれないのに…。「コンサートに行ったから試験を受けることすらできなかった」はあまりにも情けなさすぎる。私は梅田駅の中を駆けずり回り、お土産屋さんのおじさんやキオスクのおばさんに道を聞き、何とか集合時間10分前くらいに試験会場にたどり着くことができました。駅の中で頭が真っ白になったのが逆に良かったのか、席についてからは冷静になって試験を解くことができました。これが終わればまたコンサートです。昨日はプレッシャーになっていたコンサートが、馬の前にぶら下げられたニンジンのようなご褒美に意味を変えていました。

そういえば、筆記試験の案内に「私服でも可」と書いてあったため、私の他にも私服の受験者はチラホラと見かけましたが、さすがにかばんにうちわとペンライトを忍ばせたまま試験を受けている受験者は私だけだったかも知れません。逆にコンサート会場では、私の斜め前の席の高校生らしき女の子が、開演前に英語か何かの参考書を必死で読んでいました。彼女もまた、このコンサートと何か大事な試験を天びんにかけて、二兎取ってやるという決断に至ったのでしょうか。「同士よ…」と、私は心の中で彼女の後頭部に向かってエールを送り、コンサート2日目を心から楽しみました。

アイドル=プレッシャー(ご褒美)作戦

試験を受けてから数日後、大阪で受けた会社から無事に一次面接の案内が届きました。アイドル=プレッシャー(もしくはご褒美)作戦は、いろいろありましたが無事成功したのです。そして調子に乗った私は、次のB社の筆記試験の後にもV6のコンサートに行くことを決めました。その翌日はA社の一次面接だったので、順番的には試験→コンサート→面接ということになります。つまり、B社の筆記試験の段階ではV6が「ご褒美」に、A社の一次面接では「プレッシャー」になっていたわけです。就活していた当時は気が付きませんでしたが、こう考えてみると、2年目の就活は常にこの「アイドル=プレッシャー(ご褒美)作戦」で乗り切っていたような気がします。


<著者プロフィール>
ぽんず
都内の私立大学文学部に通い始めて5年目。一浪・一留・ジャニヲタという女として崖っぷちスペックの女子大生。中学生の時にデビューしたてのNEWSに一目惚れして以来、アイドルヲタ歴は約10年。現在は、ジャニーズ全般、また女子アイドルや若手俳優の現場にも年平均50~60回足を運ぶ。熱しやすく冷めやすく思い込みの激しい牡羊座のO型。

(イラスト:womi)