よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。グラビアアイドルも、またかくのごとし。しかし一度消えたはずのグラビアアイドル、太田千晶は、5年ぶりに戻ってきてくれた。
太田千晶 |
集英社の『週刊ヤングジャンプ』誌面で長年にわたって開催され、これまで多くの女優やグラビアアイドルを排出してきた名物オーディション企画「全国女子高生制服コレクション」、略して「制コレ」。太田千晶は、あのダルビッシュ紗栄子(当時は道休サエコ)らと共に2002年の制コレメンバーに選ばれた、グラビアアイドル黄金期を体験したアイドルの1人だ。
彼女がデビューしたゼロ年代前半は、MEGUMIを筆頭としたイエローキャブ勢、岩佐真悠子や若槻千夏を擁したプラチナム勢、熊田曜子や安田美沙子を輩出したアーティストハウス・ピラミッド勢、更には小倉優子や小野真弓、杏さゆりといったメジャーどころから内田さやか、滝沢乃南といったカルト・アイドルまで、個性豊かな逸材たちが群雄割拠して限られたグラビア誌面を奪い合う、まさに「グラビアアイドル戦国時代」だった。
当時まだ10代だった太田千晶は、ワイルドで力強い眼、情の深そうな厚い唇、そしてピチピチに張りつめた真夏の果実のような肉体を誇る超高校生級の逸材として、一部のファンから熱狂的な支持を獲得した。しかし先天的な<身体性>に優れたグラビアアイドルが飽和状態となる中で、後天的・決断主義的な<キャラ>の差別化がより重視されるようになっていたシーンにおいて、彼女のナチュラルボーンな魅力は十分に理解されたとは言い難く、そのポテンシャルに見合う活躍の機会が与えられることはなかった。
女優としていくつかの映画に出演はしたものの、突出した活躍が出来ないままに、彼女は2005年にひっそりと芸能界を引退。その後、2007年にはレースクイーンとして活動している姿がファンによって確認されているものの、もうグラビア復帰は無いだろうと思われていた。それが昨年から突然、グラビアアイドルとしての活動を5年ぶりに再開させたのだ。これだけのブランクを経て復帰したグラビアアイドルは、恐らく太田千晶だけだろう。
彼女は最近のイベントで、復帰の動機を次のように語っている。「雑誌とかを見ていて、やっぱり私グラビア好きだなあと思い、また雑誌の表紙やグラビアをやりたいなという気持ちが出てきたので、もう1回やろうと思って戻ってきました」。しかし、かつて彼女を重用してくれた『週刊ヤングジャンプ』の表紙やグラビアは、いまやAKB48勢の占有スペースだ。世は既に「グループアイドル戦国時代」。彼女がデビューする契機となった「制コレ」も、もう存在していない。
たった5年ですっかり様相が変わり、閑散としてしまったグラビア・シーンに、彼女はいま再び挑もうとしている。以前よりも遥かにフェロモンが増した肉体ひとつを武器にして。最新のグラビアやDVDで見せる、フェロモンがドバドバと放たれまくっている露出度の高い水着姿の数々が、彼女の復帰に賭ける覚悟を物語っている。
かつて関川夏央が絶賛した柳沢きみおのマンガ『男の自画像』は、引退してサラリーマン生活を送っていた元野球選手が6年のブランクを経てプロ球界に復帰する「カムバック・ファンタジィ」の傑作だった。復活に賭ける物語は、いつの時代も人の胸を熱くさせるものがある。復帰した太田千晶も、再び「グラビアアイドルの黄金時代」を創るくらいの意気込みで、吉木りさ等と共に2010年代のグラビア・シーンを盛り上げて欲しいものだ。
真実一郎
サラリーマン、ブロガー。『SPA!』(扶桑社刊)、『モバイルブロス』(東京ニュース通信社)などで世相を分析するコラムを連載。アイドルに関しても造詣が深く、リア・ディゾンに「グラビア界の黒船」というキャッチコピーを与えたことでも知られる。著書に『サラリーマン漫画の戦後史』(洋泉社刊)がある。ブログ「インサイター」