いつまで続く? AKB48の「独り勝ち状態」

ライブやイベントでの動員を増やし続けているAKB48。今年も勢いは止まらない?

昨年10月、ついに初のオリコンウィークリー1位を獲得したAKB48。コンビニエンスストアも彼女たちが表紙を飾る雑誌で溢れかえっている。アイドル界の頂点に君臨し、いまや全盛期のおニャン子クラブやモーニング娘。を彷彿させるほどの「独り勝ち状態」といっていい。

おニャン子やモー娘とAKB48の最大の違いは、その人数の異常な多さに起因する「選抜制度」の存在だ。グループ内の序列が「見える化」してしまうこの過酷な制度の徹底によって、AKB48という場はアイドルのサバイバル環境が濃密に縮図化された「アイドル・エコシステム」となっている。そのエコシステムの中に歌、ダンス、バラエティー、ドラマ、グラビアというアイドルの活動領域の全てが詰まっているので、AKB48を見ているだけでアイドル・ウォッチングが完結してしまうのだ。

おニャン子クラブを創造することで既存のアイドルシステムを解体した秋元康が、自らの手で再びシステムを自己完結的に再構築した結果、AKB48以外のアイドルの存在感は一気に霞み始めている。特に小嶋陽菜や大島優子、小野恵令奈といったAKB48のグラビア順応メンバーの活躍は、グラビアアイドルにとっては大きな脅威だろう。

昨年の学園祭ではほとんど全ての学校でAKB48を真似たパフォーマンスが見られたという。10代への人気の浸透度は予想以上に高い。大きなアクシデントでも起こらない限り、2010年代もしばらくはAKB48の独り勝ち状態が続き、他のアイドルは撤退戦を余儀なくさせられるのではないだろうか。

アイドルという存在を脅かす「美人デフレーション」

元祖・"美人過ぎる"女性、青森県八戸市議会の藤川ゆり議員

既存のアイドルを脅かす存在はAKB48だけではない。近年は素人美人たちの躍進にも目を見張るものがある。2009年はさまざまな領域で等身大の匿名的な「美人」が注目された年でもあった。

1分ごとに異なる美人が手書きボードで時刻を知らせる時計サイト「美人時計」。同様のコンセプトで日付を知らせるカレンダーサイト「美女暦」。地方都市にいる普通の女の子をモデルにしたファッション誌仕立てのフリーペーパー「美少女図鑑」。こういった匿名美人を集団でパックしたコンテンツが次々と登場し、人気を集めている。

一方で、"美人過ぎる市議"、"美人過ぎる海女"に代表される「美人過ぎるXX」シリーズの充実ぶりも見逃せない。いまや"美人過ぎる養豚業者"や"美人過ぎる肛門科医師"までいるというのだから、その射程距離の長さに驚かされる。

集団であれ個人であれ、アイドル未満の等身大な素人美人の大量発生は、「美人のデフレーション」、「美人のユニクロ化」以外のなにものでもない。奇しくも美人時計のルーツは、ユニクロが公開して世界中の広告賞を総なめにした「UNIQLOCK」にある。ユニクロを消費するような感覚で、広告媒体と化した美人のビジュアルを気軽に消費する時代。不況がもたらした美人のデフレ・スパイラルは、選ばれし特別な存在であったはずの美人=アイドルの価値、有難みを相対的に低下させている。アイドルのDVDや写真集、グラビア雑誌が売れなくなるのも道理だ。

オンラインが変えるアイドルのパブリシティ戦略

アマゾンのDVDセールスランキング1位を獲得したうしじまのDVD『WHAT IF IT'S A HUMAN?』

こうした中で、最近アイドルDVDの世界でちょっとした「事件」が起こった。パワードスーツ、プラグスーツ、褌といった一風変わった衣装をまとったセクシー画像がネットで話題のコスプレイヤー"うしじま"がイメージDVDをリリースしたところ、アマゾンのアイドルDVDチャートで1位を獲得してしまったのだ。これは素人のDVDとしては快挙といえる。

彼女は特別なパブリシティやマスメディアでの活動を行ってきたわけではない。ただひたすら画像がネットに流通し、話題が話題を呼ぶことで、並みのアイドル以上の知名度と人気を獲得してしまったということだ。うしじま自身にアイドル願望は無いようだけれど、彼女にDVDチャートで負けたアイドルたちは心中穏やかではないだろう。

これで思い出されるのが、あの「グラビア界の黒船」リア・ディゾンだ。彼女もネットで流通していたコスプレ画像で人気に火が付き、日本デビュー時には既に口コミで期待感が高まっていた。このようにオンラインの時代では、大手芸能事務所が大金を投資して育てたアイドルよりも、無料で画像が流通した謎の美人のほうが売れてしまう、というケースが珍しくなくなってきている。実際にタレントスカウトキャラバンや美少女コンテストからスターが生まれる機会は従来よりも低くなっているため、アイドルを送り出す側はパブリシティ戦略の再考を迫られるようになるはずだ。

2010年代は「フリーミアム化するアイドル」が台頭する

インターネット上での人気からブレイクしたリア・ディゾン

「美人デフレーション」と「うしじま人気」から占う2010年代のアイドルの可能性。それは「アイドルの無料化」だ。

昨年話題を呼んだクリス・アンダーセンのベストセラー『FREE <無料>からお金を生み出す新戦略』は、「フリー=無料化」こそが最大の市場にリーチして大量の顧客をつかまえる、21世紀の経済モデルであると断言し、「フリーミアム(Freemium)」という新しいビジネスモデルを提唱している。フリーミアムとは、基本的なサービスを無料で提供し、さらに高度な機能や特別なバージョンでは料金を課金してマネタイズするビジネスモデルのことだ。

うしじまやリア・ディゾンのケースは、まさにアイドルのフリーミアム化の先行事例といっていいだろう。ネットで画像や映像を積極的に無料公開することでリーチを広げ、後に利益を回収することに成功している。逆にこれからは、有料商品や有料サイトで限定的に情報を発信していても、デフレ化する美人情報の波に埋没してしまってスターは生まれにくくなる。その傾向は、特にオンラインとの相性が良いグラビアアイドルの世界で顕著になっていくはずだ。

ポテンシャルは高いのに雑誌の休刊ラッシュなどによって活躍の場を与えられていない新人グラビアアイドルは、これからはフリーミアム化の道を選べばいい。名前と公式URLを記入した魅力的な画像をバンバン無料で放出したり、動画サイトでビデオブログを公開したり、無料のライブや撮影会を開催したり、独自のセクシーなiPhoneアプリを無料で配布したりして、まずはリーチを広げるべきだ。利益の回収はその後でいい。

帝国のように膨張を続けるAKB48というアイドル・エコシステムと、それに抗う形で蜂起する新しいフリーミアム・アイドル、その中間で悪戦苦闘する守旧派アイドル。こうした構造で2010年代のアイドル界は当面進むだろう。

真実一郎(しんじつ いちろう)

サラリーマン、ブロガー。ケータイサイト『モバイルブロス』、雑誌『Invitation』などで世相を分析するコラムを連載。アイドルに関しても造詣が深く、リア・ディゾンに「グラビア界の黒船」というキャッチコピーを与えたことでも知られる。ブログ「インサイター