このコラムでは、極私的に気になる新進気鋭のアイドルを現代消費社会と強引に結びつけながら隔週で紹介していきます。来るべき2010年代のアイドル界を見通す際のベンチマークにしてもらえれば幸いです。
石井香織 |
「Tumblr」というWebサービスをご存知だろうか。これはWeb上で自分が気に入ったテキストや画像などを手軽に投稿(ポスト)できるスクラップブックのようなツールで、日本でも利用者数が急速に増えている。他人のTumblrを覗いてみると、大抵の日本男子はグラビア画像やセクシー画像ばかり集めたりしていて、「性欲の無い草食男子」ってどこの国の話? と思ったり思わなかったり。
そんなTumblr界隈で熱狂的に支持されている一人のグラビアアイドルがいる。それが石井香織だ。
彼女は2008年週刊ヤングジャンプ「制コレ☆ジャパン」ファイナリストに選ばれてはいたものの、雑誌のグラビアでは特に目立つ活躍はしてこなかった。2年ほど前には「日本初のSecond Lifeアイドル」という、大人の事情にも程があるニッチなメディア戦略で売り出され、全く話題にならなかったという過去まであったりする。
それがいまや「日本初のTumblrアイドル」とでもいうべき追い風を受けて、漫画雑誌の表紙や巻頭グラビアを飾るまでに急浮上しているのだ。
これまで、彼女の写真にはどこか独特の翳(かげ)があった。あひる口の可憐な美少女顔には不釣合いな、大胆過ぎる水着とセクシーポーズ。内村光良よりも白く透明感のある肌。細く長い華奢な手足。トロンとした眠そうな目つき。そうした要素が掛け合わされて、まるでしっとりと生い茂る陰性植物のような妖しいオーラを放っていた。それはこれまで雑誌のグラビアを飾ってきた明るく健康的なグラビアアイドルたちの魅力とは明らかに異質なものだ(実際は明るく活発なキャラクターなのかもしれないけれど)。
なぜいま石井香織なのか?
グラビアアイドルのハートランドである青年漫画雑誌というメディアは、電車内や駅、オフィス、キャンパスといった明るい場所で日中に読まれることが多い。そのため、夏の太陽が似合いそうな陽性のアイドルとの親和性が高かった。そのような空間では、光合成と無縁そうな石井香織は理解されにくかったはずだ。
しかし出版不況で雑誌の休刊が相次ぎ、いまやグラビアのページ数は減少するばかり。青年漫画雑誌のグラビアをビキニで飾り、人気が出たらバラエティ番組やドラマの仕事を獲得し、徐々に水着を着なくなるという、雛形あきこが確立したグラビアアイドルのサクセスモデルは失われつつある。
そして雑誌の代わりに台頭したのがネットだ。いまやグラビア画像を雑誌よりもネットで見る人が増えてきた。その結果、夜の暗い個室の中で光るパソコンモニターの中に、闇に咲くような石井香織の魅力は「発見」されたのだ。彼女はグラビアよりもモニターが似合う、ポスト雑誌時代のグラビアアイドルと言える。
彼女の活躍を契機として、今後はネットを発信源としたグラビアアイドルのキャラクターの多様化が進みそうだ。と思ったり思わなかったり。
真実一郎(しんじつ いちろう)
サラリーマン、ブロガー。ケータイサイト『モバイルブロス』、雑誌『Invitation』などで世相を分析するコラムを連載。アイドルに関しても造詣が深く、リア・ディゾンに「グラビア界の黒船」というキャッチコピーを与えたことでも知られる。ブログ「インサイター」