「家事も育児も家計も全部ワリカン! 」バツイチ同士の事実再婚を選んだマンガ家・水谷さるころが、共働き家庭で家事・育児・仕事を円満にまわすためのさまざまな独自ルールを紹介します。第42回のテーマは「事実婚は相手が病気になったらどうするの?」です。
最近「事実婚」について、いろいろ聞かれることが増えてきました。そこでわりとよくある質問が「事実婚の場合、相手が病気になったらどうするんですか?」というようなもの。「どうするの?」にはいくつか要素があると思うのですが、別々に答えていきたいと思います。
まず「事実婚で心配」と言われるのが「相手が病気になったときに、事実婚でも問題は起こらないのか」ということです。
我々は事実婚で、子どもについて、戸籍は父親と同じ、親権者は私で母子別姓です。事実婚では子どもの共同親権がないので、親権と戸籍を分けています。子どもが入院したときに「親の同意書」に別々の姓で好き勝手にサインしていましたが、看護師さんに「お母さんと息子さんの名前が違うのはなぜでしょうか?」と聞かれて「我が家は事実婚で、母子別姓ですが、息子の父親は夫で、親権者は私です」と説明したら、それでOKでした。
さらに、私とパートナーは事実婚してから、2人ともそろって骨髄ドナーに適合して入院したことがあります。骨髄ドナーはドナーと確定するときに「家族の最終同意」をするのですが、そこに家族代表としてお互い説明を受けてサインしましたが「事実婚」であることは全く問題になりませんでした。
ドナーの手術をするための入院書類も、事実婚のパートナーで全く問題なし……。あれ? 世間一般で「入院や、手術のときに事実婚だと大変だ!」と言われていた我々は拍子抜け。なーんにも問題がありませんでした。
私は「法律婚は安心お任せパック」「事実婚はカスタマイズプラン」とよく言ってるのですが、なにが「お任せ」になっているかというと、「法律と行政システムと慣習とローカルルール」です。全部が「法律」で決まっているわけではないんですね。私は初婚で法律婚をしたときにその辺の知識がなかったし、意識さえしてませんでした。
それによって「あれ??」と思うこともたくさんあったし、「自分の人生のことなのに何も知らないなんて」と、とても反省しました。それで、今は事実婚をして、一つ一つのことを確認しながら生活しています。
それで「事実婚の場合は、相手が病気になったら大丈夫なんですか?」という質問に答えるなら「私の体験上はだいたい大丈夫」です。
実際に家族全員が入院しても何も困らなかったので、「どういうことなのか」と調べると、そもそも、手術の同意というのは、法律では患者本人にしかできないものだということがわかりました。
問題が起こるのは「本人の意識がない場合」です。このときに「本人の意志を一番知っている人」として、家族がサインを代行することがあるのですが、これは実は法律的にはグレーということです。しかし、これも医療現場では「サインできないから手術できない」というようなことはなく、命を優先して手術は行われます。
ここで「事実婚なんですけど、大丈夫なんですか?」と躊躇したり、サインを渋ったりすると、「病院のローカルルール」でサインを断られたり、実家の母親に電話されたり……というケースはあるようです。あと、病院の事務や看護師が「血縁じゃないとサインできない」と思い込んでいたりすると揉めごとがあるようですが、実際の医療の現場の方から話を聞いたところ、緊急時に戸籍謄本を確認することはないし、患者に付き添ってくれる人、家に出入りできて荷物を管理できる人がいてくれるほうが大事だと言われました。
これは自分が事実婚だから調べた結果わかったことで、法律婚だと、手術の同意書の法的な根拠のことなど気にもしなかったと思うんですよね。なので、今のところの体験としては「大丈夫です!」という感じです。
あと、もう一つは「相手がちゃんと世話してくれるか心配じゃないですか?」という質問があります。
これについては「法律で約束された相手だから、相手に対して看護の『義務』があるから安心。なければ不安」という考えなのだと思います。世の中には「義務」がないと「困難なこと」ができない人がいるのはわかります。これに関していうと事実婚にも「夫婦の協力扶助義務」はあります。
確かに法律婚と比べると、事実婚は「同居を解消」して婚姻生活の実態をなくしてしまえば離婚できるので、関係の解消は簡単です。……でも、世の中、法律婚してても相手がひどい人なら世話してもらえない、なんてことはありますよね。そこで、世話をしてもらえなかったほうが「義務の放棄だ!」と主張しても、慰謝料をもらうにしろ、離婚するにしろ、最終的に相手が話し合いに応じなければ裁判しないといけません。つまり、事実婚でも法律婚でも「相手が不誠実」だったら、私は同じだと思っています。
私だったら、看護やお世話は「義務」じゃなくて「相手が大事だから」したいし、されたい。困ったときに助け合う相手とは、お互いが信頼できる関係を作らなければ意味がないと思っています。法律で縛られた義務がなくても、相手を失いたくないし、一緒にいたいと思える関係……「婚姻の事実」をちゃんと作っていれば、不安になることはないのではないかと思うのです。「法律」が欠けた信頼を補てんしてくれる……という考え方もあるかもしれないですが、私はキレイ事だと思われても「義務」より「信頼」を大事にする生き方がしたいと思って、日々試行錯誤しています。
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著者プロフィール:水谷さるころ
女子美術短期大学卒業。イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。
1999年「コミック・キュー」にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末が『30日間世界一周! (イースト・プレス)』としてマンガ化(全3巻)される。2006年初婚・2009年離婚・2012年再婚(事実婚)。アラサーの10年を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。その後2014年に出産し、現在は一児の母。産前産後の夫婦関係を描いた『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)、『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』(幻冬舎)が近著にある。趣味の空手は弐段の腕前。