「家事も育児も家計も全部ワリカン! 」バツイチ同士の事実再婚を選んだマンガ家・水谷さるころが、共働き家庭で家事・育児・仕事を円満にまわすためのさまざまな独自ルールを紹介します。第22回のテーマは「夫が話を聞いてくれる理由のひとつ? 」です。

  • 「男らしさ」よりも大事なこと

夫が妻の話を聞いてくれないケース、よく聞きます。そこには「女の話を聞きたくない」「偉そうにされたくない」みたいな心理も含まれるんじゃないかな……と思ったりします。「男は女よりも強くあらねばならない」「女を従わせてこそ、男」みたいな価値観です。

子育てをしながらバリバリ仕事をしている女友達の悩みを聞いていたことがあります。その時に、「夫がよく『本当はオレの稼ぎが足りないと思ってるんだろう』って言うのだけど、そんなこと全然気にしてないのに」と言っていました。そして、彼女自身は「男のプライドを傷つけないようにいつも配慮しているのに」と言うのです。

それって、相手には「男のプライドがある」という前提で、子どもの世話を頼むことが「本当は私がやるべきことを任せてごめんなさい」というアプローチになっているのでは……? だからこそ、彼は育児を任されることをポジティブに受けとめられないのでは、と疑ってしまったことがあります。

男性側が「男のプライド」という自意識をこじらせてしまうのは、男性社会の中での競争の結果というものもあるのだと思います。しかし、実は女性側にも「男のプライドを傷つけてはいけない(そういうことをする女性は女性として失格)」という価値観や、パートナーの男性に対して「男らしくあってほしい」という願望があるのかもしれない。そしてそれが、より男性を「かくあらねば」という思考にさせてしまうこともあるのかもしれない……などとも考えました。

ちなみにその夫婦は、夫がよりハードワークで稼ぎのよい職場に転職したことで、コミュニケーションがうまく行くようになったそうです。育児はなるべくアウトソーシングして、お互い仕事をバリバリすることで円満になる家庭もあるのだな、と思いました。稼ぎが自尊感情に直結しているのは、本当は男も女も同じなんですよね。なので、世間で言われる正解よりも、夫婦にとってベストなバランスをみつける方が大事なんだと思います。

で。我が家の話なんですが……。

うちの夫にはそういう「男かくあるべし」みたいな価値観がないんです……! しかも、世間ではより男尊女卑傾向が強いと言われている九州出身なのに。ちなみに彼のお父さんは家事など一切しない、典型的な昭和の「お父さん」です。どうして昔ながらの「男かくあるべし」がすり込まれなかったのかは……謎です。

よく夫は、「女の方が稼ぎがよいと知ると、動揺する男」とか「自分より稼ぎのいい女とは付き合えない男」の話を聞いては「なんで? むしろ嬉しいじゃん! 」と言っています。私も、自分と気が合って一緒に生活しようと思う相手の稼ぎがよかったら安心だし、嬉しいです(相手の財布に勝手に手を突っ込みたいと思うかどうかは別として)。

夫は「男らしさの強要とかされたくな~い」「男だからって、一家の主としての責任とか1人で負わされたくない~」という人です。だからといって、結婚することから逃避したり、女性に依存したりするわけでもなく、「頼れる女性と一緒にやっていきたい」というタイプ。私も家庭の責任を1人で任されたらイヤだし、かといって依存もしたくないし、気が合うな~と思います。

結婚に消極的な男性の話をよくよく聞くと、根底に「自分の父親のように、一家を養うなんてできない」「自分には無理」みたいなことを思っている人がいるのですが、そういう時「うちの! 夫を! 見て!!! 」って思ってしまいます。「男らしさ」とか「一家の大黒柱」なんか目指さなくても大丈夫だよ~と。

むしろ相手が女性だろうが男性だろうが、「信用できる」と思う相手の話をちゃんと聞ける「人間力」の方が大事じゃん! と思います。

私が紹介した空手の支部に夫が後から入ってきて、仕事相手から空手の後輩になったのですが、とてもマジメに素直に指導を聞くので、評価がダダ上がりしました(そしてお付き合いして再婚することに)。そもそも、うちの空手の支部は師範が女性なんです(とってもカッコイイです)。そして夫は今では立派な黒帯になり、この前はシニアの大会で型で準優勝もしました。

「男らしさ」や「男を立てる女らしさ」とかよりも、「この人は信頼できる! 」というのが判断できる、そして先入観なく話を聞ける人間力を、男も女も磨いていけたらいいなあと思います。

著者プロフィール:水谷さるころ

女子美術短期大学卒業。イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。
1999年「コミック・キュー」にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末が『30日間世界一周! (イースト・プレス)』としてマンガ化(全3巻)される。2006年初婚・2009年離婚・2012年再婚(事実婚)。アラサーの10年を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。その後2014年に出産し、現在は一児の母。産前産後の夫婦関係を描いた『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)が近著にある。趣味の空手は弐段の腕前。