「家事も育児も家計も全部ワリカン! 」バツイチ同士の事実再婚を選んだマンガ家・水谷さるころが、共働き家庭で家事・育児・仕事を円満にまわすためのさまざまな独自ルールを紹介します。第184回のテーマは「いたわりロボット的お母さん」です。
息子は「ドラえもん」が好きです。漫画を読んでいて、自分で思うことがあると「お母さんも読んで」と持ってきます。
ちょっと前に、『いたわりロボット』という話を持ってきました(『ドラえもん+』第5巻収録)。のび太が失敗して「どうせ僕なんか……」と落ち込んでいると、いたわりロボットがなんでもポジティブに解釈して肯定し、励ましてくれます。
最終的にそのロボットに依存しまくるようになったのび太ですが、ドラえもんに「タイムテレビ」でホームレスになっても励まされている未来の姿を見せられ、「こんなしあわせはいやだよう」と厳しくしてくれるロボットを出してもらう。というオチです。
そしてこの漫画を見て、「これはお母さんだよ! もっと厳しくして! 」と言ってきた息子……。ちなみに、いたわりロボットが「男らしさ」を否定するシーンがあり、そこで「男らしいってそんなにいいことかしら。やたらに勇ましがって強がって、そんな人達が戦争なんかおこすのよ」というセリフがあります。
確かに、普段から「男らしいとか、そういうのはなくていいよ」とか言ってるな……と思いました。ドラえもんの「人間がだめになっちゃうぞ」というセリフが、息子には響いたらしく「もっと厳しくして」と思ったようです。
この「人間がだめになる」は使い勝手がよくて、息子が怠けているときは「人間がだめになるよ」と言うと、息子が「はっ! 」と動くようになったので、頻繁に使うようになってしまいました……。藤子・F・不二雄先生の物語の力は絶大です。絶大ですが、あんまり多用すると危険なワードっぽいので、深刻にならない程度に収めようと思っています。
さて、息子と親との関係はわりとそんな感じでほのぼのしたエピソードなのですが、パートナーに「どうして俺にはいたわりロボットがいないのか」と言われました。息子や友人、周囲の人に対しては基本「いたわりロボット」的なのに、「さるころは俺にだけ厳しい」というのです。
私も「どうしてだっけな? 」と思ったのですが、私にとって「いたわる」というのは「強者から弱者」にむけて行われるものだからかな……と思いました。親子関係だとどうやっても「親」が強くて「子」が弱くなります。
年齢差のある関係なら、やっぱり「年上」のほうが強くて、「年下」のほうが弱くなります。友人が「困っている」ときは弱っている友人に対して、何も困ってない自分のほうが強くなります。なので、年をとって経験値があがると「いたわる」ほうの立場になりやすいのだと思うのです。
そういう構造において、私はパートナーにも「いたわる側」につねにいてほしい……というか、「いるべき」だと思っているのだと気が付きました。実際、パートナーは現在体力的、年齢的、経済的にも弱い立場ではありません。
社会的な役割として、「人を慰めたり、いたわったりする」ことは女性に多く求められてがちというのもあると思いますが、パートナーは他者に対して寄り添ったりするような、「いたわる」ことにあまり意識が高くないほうでした。
私は「男だからしょうがない」とは思ってはいます。しかし、それは男だから今まであまり意識がなくて、うまくできてなくてもしょうがない……と思っているだけで、この先もずっとできなくていいということではないんですね。なので、日々パートナーに対して「自分よりも弱い立場にある人、とくに子どもは親に依存して生きている存在なので、配慮してほしい」ということを伝えています。
つまり、「俺のこともいたわってほしい」じゃなくて、「おまえもいたわりロボット側になるんだよ! 」という厳しめの態度を取ってしまうのでした。もちろん、日常生活においてパートナーがしてくれることに対して感謝もしているし、それを表現もしています。パートナーが落ち込んでいるときは励ましているし、十分「いたわって」はいるはずなのですが……パートナーは「励ましも厳しい」と思っているようです。
しかしそれは、パートナーのことを私が「自分と同等、もしくはより強い存在」と思っているからだと思うのです。そんなパートナーを子どもと同等に扱うことはできないし、それは失礼だとも思っています。なので、パートナーにはちょっと厳しくなってしまうんですよね。
そして子どもも成長して、徐々にただ弱いだけの存在ではなくなっていきます。成長に合わせて傾聴、共感、寄り添いだけじゃなく、厳しくもしていかないとなと思っているので、最近は「いたわりロボット」モードから脱しつつあります。
しかし厳しくするバランスがまた難しく……! 今は子どもともその辺は共有して、いたわるときはいたわりつつ、厳しくするときは厳しくするの試行錯誤をしています。そしていつしか子どものほうが強くなったときは、いい感じにいたわってもらえるといいな……と思ってます。
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著者プロフィール:水谷さるころ
女子美術短期大学卒業。イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。
1999年「コミック・キュー」にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末が『30日間世界一周! (イースト・プレス)』としてマンガ化(全3巻)される。2006年初婚・2009年離婚・2012年再婚(事実婚)。アラサーの10年を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。その後2014年に出産し、現在は一児の母。産前産後の夫婦関係を描いた『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)、『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』(幻冬舎)が近著にある。趣味の空手は弐段の腕前。