「家事も育児も家計も全部ワリカン! 」バツイチ同士の事実再婚を選んだマンガ家・水谷さるころが、共働き家庭で家事・育児・仕事を円満にまわすためのさまざまな独自ルールを紹介します。第183回のテーマは「夫婦の共同作業ができると嬉しい」です。

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先日、“小学生あるある”と言われる「細かいもの全てに名前をつける」を体験しました。

入学時に、もらった全てのお道具に名前をつけなければならず、「こ、これが噂の……」と思っていたのですが、今回は前触れもなく配られた「算数カード」たるものに、全て名前を書くという突発的に発生したミッションでした。

算数カードは4冊あり、それぞれ100ページほどあります。これをもらってきたのが金曜日で、持っていくのは月曜日でした。金曜日にちゃんとプリントを読まなかった私は、それぞれの表紙だけに名前を書いて終わりにしていたのです。日曜日の夜に、ママ友に「あれ大変だったよね」と言われて「え……? 」と思ったのに、帰宅したらすっかり忘れて月曜日の朝を迎えてしまいました。

月曜日の朝に改めてプリントを見たら、やはり「全てのカードに名前を書く」とあり、「どうしよう!? 頑張れば、間に合うか……? 」と思いつつ名前を書き始めたところ、パートナーが「俺もやるよ」と言ってくれました。

ここで「ありがたいな」と同時に、「めんどくさいな」とも思ってしまったのです。普段から夫婦で「タスクをいかにシェアするか」をテーマにしている我が家ですが、タスクをちゃんとシェアするのって……労力がかかることなんですよね。

以心伝心で、見ただけで相手が求めていることがわかる。なんてことはありえない。この「今すぐやらないといけない」という差し迫った状況で、「きちんと説明して、的確に同じようにタスクを実行する」のと「説明する労力を省いて自分で全部やる」の、どっちが早いか……?! と悩みました。

でも「ちゃんと説明する」というコストを払えば、「早く済む」というリターンがあるなと判断して、パートナーにきっちり説明することを選びました。「このペンで」「ここの位置に」「フルネームで」書く。……とまあ、そんな難しい説明ではないのですが、こういう「的確な指示出し」って、実は練習してないとうまくできないんじゃないかなと思ったのでした。

我が家には「察してちゃん禁止」というルールがあり、「察してくれ」とか「見たらわかるでしょ」という態度は禁止されているのですが、それは「伝えるコストを省かない」ということなんですよね。

実際には「見たらわかる」こともあるとは思うのですが、かなりちゃんと観察してないとわからないことも多いし、タスクを実行するうえでの「優先されること」や「こだわり」とかは、他者からは見てもわからないことが多いです。なぜなら、そこはタスクを実行する人の「価値観」が大きく影響するから。伝えるコストの大部分は、その価値観のすり合わせなんですよね。

例えば「算数カードの名前つけ」というタスクも、私の中では「表の計算側に名前という余計な情報があったら答えにくいかも」という配慮があり、「裏の答えのほうに名前を書こう」という判断があります。この私の「判断」をパートナーが同じ様に考えるとは限らないわけです。それを「見てわかれ」という態度だと、相手がもし「表の計算側に名前を書く」という選択をしたときに「なんでそんなことをするんだ! 」とネガティブに思ってしまう可能性があるんですよね。

こういったことは日常の全てのタスクに共通していて、日々の家事の全てに「自分がした判断」が存在しています。それらの判断について説明することなく、「同じように考えて同じようにやれ」というのは、「私と同じ人間になれ」という願望だと思っていて……つまりかなりの無理難題だと考えています。

だからどんなに面倒でも、自分と同じ判断でタスクを実行してほしいなら「全て相手に伝わるように説明する」しかないと思っているのです。なので、「めんどくさい」と思いながらも毎日「伝える練習」を積み重ねています。

ちなみに、私の知り合いにこの「伝えるコスト」を一切省くために、「家事や子育てのタスクを一切シェアしない」という主義の人がいます。子育てと家事について、パートナーに一切関与させないという選択です。私は自分が抱え込みやすいタイプで、一人で抱えすぎてタスクが積み上がり、「やっぱり無理! 」となった経験があります。

それを反省して「タスクを一人で抱え込まないために一緒にやる」ことにしているので、「伝える労力」を厭わないようにしています。でも「伝えるのはコストがかかりすぎるし、一緒にやることで揉めるくらいなら、お互いのタスクには関与しないほうがベター」という選択もあるんですよね……。それを「パートナーが家事育児を放棄している」と捉えるか「パートナーは家事育児に関して全ての判断を私に任せてくれている」と思うかで、同じ行為でも全然別のものになるのだなと思いました。

わが家は「伝えることが面倒でも、価値観を共有する」という夫婦の目標を続けて10年近く。今回、短い時間で「タスクをシェアする」ということができて、日々の積み重ねを感じることができました。以前は些細なことでいちいちケンカをしていましたが、こうやって徐々にスムーズになるのかなと思えた出来事でした。

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バツイチ同士の事実婚夫婦にめでたく子ども誕生! ここから「家事と育児をどうフェアにシェアしていくか」を描いたコミックエッセイです。家事分担の具体的な方法から、揉めごとあるある、男の高下駄問題、育児はどうしても母親に負担がいってしまうのか、夫のキレにどう対処する? などなど、夫婦関係をぶつかりつつもアップデートしてきた様子を赤裸々に描きます。くわしくはコチラ

著者プロフィール:水谷さるころ

女子美術短期大学卒業。イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。
1999年「コミック・キュー」にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末が『30日間世界一周! (イースト・プレス)』としてマンガ化(全3巻)される。2006年初婚・2009年離婚・2012年再婚(事実婚)。アラサーの10年を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。その後2014年に出産し、現在は一児の母。産前産後の夫婦関係を描いた『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)、『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』(幻冬舎)が近著にある。趣味の空手は弐段の腕前。