「家事も育児も家計も全部ワリカン! 」バツイチ同士の事実再婚を選んだマンガ家・水谷さるころが、共働き家庭で家事・育児・仕事を円満にまわすためのさまざまな独自ルールを紹介します。第179回のテーマは「子どもに先入観を与えたくない」です。
息子は「読むのが早い」子どもでした。
発語はあまり早くなく、同じ年頃のほかの子が2語文で話し始めたころもあまり多くの言葉を話しませんでした。しかし、お散歩すると文字に興味を示して「これこれ」と文字を指しては、親に読ませる。ということを繰り返していました。
そして、最初に数字を読み始めました。2歳になる前、2語で発語する前に文字を読み始めることとかあるの……? と私は驚いたのですが、そこからひらがなも読めるようになり、3歳になる頃には漢字も英語も読んでいたのです。
これだけ言うと、「天才児なんじゃない? 」と言われてしまうことがあります。でも、パートナーは「俺もそういう子どもだったよ」とのこと。文字を読めるようになるのが早いのには遺伝もあるようです。そしていつも、「俺も文字が早く読めたから末は教授か大臣かとか言われたけど、なんにもなってないよ。文字が早く読めるくらいは、成長の誤差の範疇」と言っています。
私も最初は、「この子……頭がいいんじゃないかしら。ちゃんと育てないと可能性を潰してしまうのでは」と、結構ナーバスになりました。でも、パートナーの言い分を聞いて、そしてよくよく本人を見ているうちに、これは幼児としての興味が「虫」でも「恐竜」でも「電車」でもなく「文字」だっただけなんじゃないかな……? と思うようになりました。
好きこそものの上手なれですよね。文字は学校で使うので、興味があろうとなかろうと必修になるだけで、恐竜も電車もたいして変わらないのでは? というのが私の感想でした。
ですが、周りからは「学校でやることを先にできるようになる」ことに関しては、「いいな」と思われることが多いようです。実際に学習に使うものが嫌いだったり苦手だったりすると学校で困ることになるので、たしかに「文字が好き」というのは親としてはかなり楽をしていると思います。
私自身は「学習で扱うもの」が苦手な子どもでした。とくに算数が苦手で、中学になると英語も壊滅的でした。うちは両親も姉も「苦労しないでそこそこ勉強ができる」タイプで、「勉強ができない」ということがどういうことなのかよくわからなかったようです。なので、「勉強がわからない」というのは「なんでできないの? 」という扱いだったと思います。そんな扱いを受けるうちに、自分で「私はバカなんだ」と思うようになりました。
絵を描くのは得意だったので、高校から美術系の道を選びました。得意なことを活かす方向に学校も仕事も進んできたので、そこまで困難な道のりではなかったのですが、「私は勉強ができない、頭の悪い人間なので」というのが常に自己評価の前提にありました。
しかしいざ社会に出ると、「あれ? なんで頭の悪い私にできることができない人がいるの? 」と思うようになり、「私に理解できることが、他人に理解できない」ことに困惑しました。そして大人になってからやっと気がつくのです。私は別に頭が悪いわけではなくて、ただ「記号の羅列が苦手」なだけだったということに……。
総合的な理解力も記憶力も決して悪いわけではなくて、数字やアルファベットの羅列を記憶したり、書いたりするのが極端に苦手だったのです。なので、数式や英文を理解していても書き間違いで○がもらえないタイプでした。もっと早く気がついていたら、勉強にも違った向かい合い方があったんじゃないか……と、学力があまり関係なくなった社会人になってから気がつきました。
こういった体験から、息子に関してこれと反対に「自分は頭がいいんだ」と思いこむことへの危惧があります。私が周りからの影響で「バカなんだ」と思ったことと、「自分は頭がいいんだ」と思うことは、同じ「自分にレッテルを貼る」ことだと思っています。
「頭がいい」というのは、自己肯定感につながることもあるので、一概にダメだとは思いません。しかし、頭がいいはずなのに……というのが前提になることで、理解できないことや失敗することを極端に嫌がって、行動や経験のチャンスを阻害したりするのではないか……? という心配があります。
実際にそういう傾向はすでにあるので、息子にはなるべく「頭がいい」というような表現や評価をしないように心がけています。「得意なことがある」というのは事実なので、「文字が他の子よりも読める」ということは評価しています。でも、苦手なこともたくさんあるし、うっかりミスも多いタイプなので「人には得意とか不得意とかがあるよね」「失敗したって、嫌だったら練習してうまくなればいいんだよ」と本人に言うようにしています。
学力については、「先伸び」タイプと「後伸び」タイプの子がいて、成長に準じて徐々に差がなくなることもあるとも聞きます。ちなみに我が家は運動のほうはあまり得意ではなく、早い子が補助輪なしで3~4歳くらいから自転車に乗っていても、そもそも自転車に興味がありませんでした。しかし、5歳の終わり頃に突然練習して自転車に乗れるようになりました。この時に「2~3年は得意、不得意とかで成長の誤差があるな」と感じました。なので、よくできることも、全然できないことも過度に褒めたり、過度に心配したりせずに「成長を見守る」という気持ちでやっています。
子どもに対しては、自分の子以外にも「レッテルを貼らない」「簡単にキャラ設定しない」と心がけています。とは言うものの、かなり気をつけていてもうっかりやりかねないのですが……。先々までの影響を考えて、のびのび成長できるように慎重に言葉を選んでいきたいなあと思っています。
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著者プロフィール:水谷さるころ
女子美術短期大学卒業。イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。
1999年「コミック・キュー」にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末が『30日間世界一周! (イースト・プレス)』としてマンガ化(全3巻)される。2006年初婚・2009年離婚・2012年再婚(事実婚)。アラサーの10年を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。その後2014年に出産し、現在は一児の母。産前産後の夫婦関係を描いた『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)、『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』(幻冬舎)が近著にある。趣味の空手は弐段の腕前。