「家事も育児も家計も全部ワリカン! 」バツイチ同士の事実再婚を選んだマンガ家・水谷さるころが、共働き家庭で家事・育児・仕事を円満にまわすためのさまざまな独自ルールを紹介します。第178回のテーマは「要望を口にするのは大事だけど……」です。
「キレる」というのは、突然怒りを発露することだと思っています。怒りの発露自体はあまり問題ではなく、必要なときも多くあります。理不尽な目にあったときや、日常的な不満があるときなど、怒りを発露しないと伝わらないまま不利な状況に置かれてしまうことがあります。
そういうわけで「きちんと怒る」こと自体は正しい行ないなんですよね。ただ段階を踏まえず、突然怒りを爆発させるところからコミュニケーションを開始するのは、よい結果が生まれないことが多いです。
もちろん、お互いの立場も関係があります。フィジカル、年齢、経済力の有無などで人は不均衡な力関係のことが多い。そこで「力があるほう」が「力が弱い相手」に対して、突然怒りからのコミュニケーションを開始することは、ハラスメントになることが多いです。
というわけで、我が家では「キレないコミュニケーション」をすることが優先順位の上にあり、自分自身の怒りをコントロールすることは、家族全員が鍛錬を積むべきことだとされています。
しかしキレるというのには、いろいろ原因があるんですよね。過度なストレスとか、無自覚な抑圧とか、過去のトラウマとか……。なので「キレないようにしましょう」といってすぐに改善できるケースばかりではありません。
最近マンガ・イラストを田房永子さんが担当した、岡田法悦さん著作の『キレたくないのにキレてしまうあなたへ』(朝日新聞出版)という本を読みました。この本では、キレてしまう心の動きをわかりやすく説明していて、とても参考になりました。
自分の意思や本当の気持ちとは別に、「こうするべき・こうあらねばならぬ」という規範などに沿って、自分の気持ちを抑圧して行動していると、とあることがトリガーとなって感情が爆発してしまい、キレてしまう、というようなことが書いてありました。
私の場合、初婚での離婚をきっかけに、「こうするべき・こうあらねばならぬ」という規範がかなり崩壊・消滅した経験があります。ほぼ全てのことを、「こうするべき」より「こうしたい」で行動するようになりました。
以前は「結婚するなら、法律婚するべき! 」と固く信じていたのに、「いや、私は事実婚でいいじゃん」と思い直したり、「女性は家族をサポートするべき! 」と思い込んでいたのに、「私だってサポートされなきゃ生きていけないわ」と認識を改めたりしました。
そんなこともあって、私は「本来はこうあるべきでしょ! 」とか「なんでこう考えないの?! 普通はこうでしょ」などと思うことがほとんどなくなったのです。パートナーはなかなかそこから脱するのが大変でキレたりしていましたが、私と話し合ううちに徐々に自分の中の「こうするべき・こうあらねばならぬ」を手放せるようになってきました。
なのですが!!! 先日私はパートナーに対してめちゃ怒ってしまったんですよね……。それがこのマンガのエピソードです。パートナーには日々「イヤなことはキレる前に、言葉に出して伝えてね」と言っていて、だんだんとそれができるようになってきました。でもそれは「注文と小言が多い人」になるってことだったんですよね……。
突然キレるよりは断然いいのですが、実はこちらはじわじわと「パートナーからの要望を受け止めないと、怒られてしまうのだ」と抑圧されていたんです。「パートナーに怒られたくない」というのが、自分の行動パターンの中でかなり優先順位が上になっていたのですが、それに全然気がついていませんでした。
パートナーのテリトリーであるキッチンを使うのに、「こういうのはイヤだって言われたから」「迷惑をかけないように」と行動していたのです。そして、考えて考え抜いた行動のあとに、結局パートナーに「なんでこんなところにお菓子置くんだよ! 」と怒られて、「おめーがアレはイヤだコレはやめろって言った結果、こうなったんじゃないか! 」と激怒してしまいました。
あ~なるほど。つまり自分自身の気持ちよりも、「パートナーに怒られたくない」が別の規範になっていて、それに伴って行動したのに結局パートナーに怒られた……ということが怒りのトリガーになったんだな~と思いました。パートナーと私ではパートナーのほうがキレがちだけど、抑圧の構造に置かれれば結局自分もキレるんだなと実感しました。なので、「怒り」でコミュニケーションしたことについては「いつも怒りでコミュニケーションするなって言ってるのに、ごめんね」と謝りました。
パートナーに「なんで自分の部屋に作ったものを置かないの? 」と聞かれたのですが……。我が家の猫が、私の机の上にあるものを破壊したり、落としたりするからなんです! その話をしたら、「ああ……そっか」と理解してもらえました(リビングや彼の部屋のものは狙われず、私の部屋のものだけ狙われるのはパートナーも知っているので)。
パートナーは「想定していない場所に、想定していないものがある」ことがイヤだということで、あらかじめ「今日作ったお菓子を、お客さんが来るまでここに置いておくね」と知らされれば問題ないということだったので、今後はそのようにすることになりました。 細かいことでもすり合わせしないと衝突しがちな我が家。早く穏やかなコミュニケーションばかりで済む家族になりたいです……!
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著者プロフィール:水谷さるころ
女子美術短期大学卒業。イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。
1999年「コミック・キュー」にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末が『30日間世界一周! (イースト・プレス)』としてマンガ化(全3巻)される。2006年初婚・2009年離婚・2012年再婚(事実婚)。アラサーの10年を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。その後2014年に出産し、現在は一児の母。産前産後の夫婦関係を描いた『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)、『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』(幻冬舎)が近著にある。趣味の空手は弐段の腕前。