「家事も育児も家計も全部ワリカン! 」バツイチ同士の事実再婚を選んだマンガ家・水谷さるころが、共働き家庭で家事・育児・仕事を円満にまわすためのさまざまな独自ルールを紹介します。第153回のテーマは「お父さんとお母さんの役割は違っていい」です。

これまでのお話はこちら

前回、息子と私は「エピソード記憶」が強めのタイプで、お互いの言ったことをよく覚えているので会話がスムーズ。一方パートナーは「エピソード記憶」が苦手なので、情報が抜け落ち、息子の言ったことを補完することができず、「察して会話する」ことが苦手、という話を書きました。

そんなわけで、息子はなにか言いたいことがあると私に話をします。何でも言える信頼関係ができているとか、心理的安全性が構築されているというのは、親子関係としてはとてもよいと思うのですが……。同時に「安心できる=ネガティブな感情もぶつけやすい」ということになります。

もちろん、多少のネガティブは受け止めます。甘えてるんだなあとか、信頼してるんだなあとか思って受け止めることはできます。とはいえ、それが多くなると受け止めるのは、段々と難しくなります。母親の無償の愛とか無理……! 母親の愛は無限ではありません。

息子は結構な完璧主義で、適当にやることが難しい。なので、「できること」と「できないこと」の境目がわりとはっきりしています。息子はエピソード記憶だけでなく意味記憶にも強く、知識系の記憶力もよいほうです。ただこの「覚えている」という自負が、わからないことやできないことへの抵抗になっているようなのです。

こっちからすれば、「そりゃ6才なんだからできないでしょ」と思うことでも、本人が悔しかったり悲しかったりすると、もう大変。感情的になってしまいます。もちろん、いつも冷静な6才児がいたら怖いわけで、感情的になるのはある程度仕方ない。

でも物に当たったりもするのです。そうなるとさすがに「優しいお母さん」ではいられず、ギッチリ叱ります。すると、息子はネガティブな感情でいるところに、さらにやったことを叱られるので、またまた大変。もう最初に何が問題だったんだっけ……みたいになってしまいます。

結局収集がつかないので、落ち着かせてから「やっちゃダメってわかった? 」と優しくケアするところまでがセットです。これをやると私の中の精神力は空っぽになり、「ライフはゼロよ! 」状態になります。

息子の場合、「はっきりとした正解がないことについて答える」のがすごく苦手です。はっきりとした答えがないということに困惑してしまうようで、「この文章を読んで、この人はなんと思ったでしょう」的な問題が大の苦手です。「人が何を考えたかなんて、わかるわけがない」と、まあそれも確かに事実ですが、それだと答えにならない……!

意味記憶が苦手な私は、子どもの頃自由回答系の問題とか好きにやっていいことしかできませんでした。なので「答えがない問題が嫌いってどういうこと?! 」と思ってしまうのですが、苦手なものは仕方ありません。しかし、「これからもずっと国語はこういう問題が出るよ」「自分だったらこう思うかなってことでいいんだよ」とか言ってもダメ。「できないことを頑張ってやらせる」みたいなミッションは、私と息子は相性が非常に悪いんです。

「お母さんはボクの気持ちをわかってくれる=わかってくれないと嫌だ」ということになり、「やりたくないという気持ちをわかってほしい」という要求になっちゃうんですね。たしかに、無理したって大体の場合はいいことがないので、困らない、死なない程度にであれば「無理して嫌なことはやらない」方針の我が家です。でも、やっぱり「苦手なことを克服」しておくことも大事だと思います。

そして、結局パートナーにお任せすることにしました。お父さんが相手だと、泣いて喚いても暴れても、さらに叱られるとわかっていると息子も分かっているので、嫌がりはするものの私のときほどはひどい態度はとりません。パートナーにも「厳しすぎるとできる前にメゲちゃうから」という話はしたので、パートナーも感情的にならず、わかりやすい言葉で落ち着いて話すようにしてくれます。

そこでやっと息子は「やらねばならない」という状況になり、どうしたらできるかという姿勢になれます。私とだと、親子喧嘩を何回かやらないとそこにたどり着けないんですよね。やっちゃダメなことを叱るだけの時とは違って、その後に「できないことをできるようになる」というミッションがあるので、喧嘩になった後にそこへもっていくのが難しい。

父子だと、息子がお父さんへネガティブな甘えをしないので、喧嘩に発展する確率が私よりは下がります。そして、実際に「ああ、なるほどこうやってやればいいのか」というところまでたどり着き、一つの苦手を克服することができました。よかったな~と思う反面、「お父さんへはネガティブな甘えをしない」ということは、お父さんへの心理的安全性が低く、多少緊張感のある関係である。ということも意味するので、そういう状況を便利に使っちゃっていいのかなあ? と思わなくもないのです。

昭和の子育ては、「お父さんは厳しい」というステレオタイプや役割分担があったとは思うのですが、「厳しさ」に加害性が含まれる場合もあります。父親だけでなく、母親も含めて親の加害性を取り除きつつ、信頼関係を築いて、的確に厳しくすることって本当に難しい……!

でも、夫婦で足並み揃えて試行錯誤していくしかないんですよね。21世紀の子育てには「心理的な丁寧さ」が求められていると思うのですが、実際に丁寧に子育てするのって、本当に修行だな……と思いながらやってます。

新刊『骨髄ドナーやりました!』

(少年画報社刊/1,045円)
初代骨髄バンクアンバサダーの俳優・木下ほうかさんも「『ちょっと人の命を助けて来るから!』。こんなカッコいいことを言い放つお母さん。私はこんな最強マンガを待っていました」と絶賛する書籍が発売!! 日本骨髄バンク完全監修の爆笑必至の骨髄ドナー体験マンガです!
夫婦揃って献血が好きで、骨髄ドナーに登録しているさるころとノダD。2人は事実婚・共働きで息子を育てています。夫のノダDは今までに3回骨髄ドナーにマッチングをしていて、3回目で骨髄提供をしました。そんなある日、骨髄バンクから届いた書類をよく見ると、なんと今度は妻のさるころが骨髄ドナーにマッチングしたお知らせでした……! 非血縁ドナーのマッチング確率は数百~数万分の1とも言われており、骨髄ドナーは登録してもマッチングするとは限りません。そんな中、なんと夫婦で2年連続ドナーを体験。そんな激レアなn=2のリアルガチな体験談をあますことなくお届けします! 詳しくはコチラ

著書『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』

(幻冬舎/1,100円)
全編書き下ろしエッセイマンガ!
バツイチ同士の事実婚夫婦にめでたく子ども誕生! ここから「家事と育児をどうフェアにシェアしていくか」を描いたコミックエッセイです。家事分担の具体的な方法から、揉めごとあるある、男の高下駄問題、育児はどうしても母親に負担がいってしまうのか、夫のキレにどう対処する? などなど、夫婦関係をぶつかりつつもアップデートしてきた様子を赤裸々に描きます。くわしくはコチラ

著者プロフィール:水谷さるころ

女子美術短期大学卒業。イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。
1999年「コミック・キュー」にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末が『30日間世界一周! (イースト・プレス)』としてマンガ化(全3巻)される。2006年初婚・2009年離婚・2012年再婚(事実婚)。アラサーの10年を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。その後2014年に出産し、現在は一児の母。産前産後の夫婦関係を描いた『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)、『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』(幻冬舎)が近著にある。趣味の空手は弐段の腕前。