連載コラム『知らないと損をする「お金と法律」の話』では、アディーレ法律事務所の法律専門家が、具体的な相談事例をもとに、「お金」が絡む法的問題について解説します。


【相談内容】
先日テレビを見ていたら、通勤電車内でケンカになり、暴行や傷害で争っていた裁判が和解金80万円を支払い解決したというニュースをしていました。わたしの中では裁判になる前に話し合い、結論を出すことを和解というのかと思っていたのですが、裁判中でも和解ってできるんですか。裁判になる前に和解するのと裁判になった後に和解するのでは、どちらの方が和解金が高くなるなどあるのでしょうか。

【プロからの回答です】

「和解」とは?

「和解」とは、法的には、「当事者双方がお互いの主張を譲り合い、最終的な合意に至ること」をいいます。簡単にいうと、「金額や責任の有無などについて法的に争っていた当事者が仲直りする」ものですね。

たとえば、けがをさせられた被害者が、加害者に対して「慰謝料100万円払え」と争っていた場合に、加害者が、「1円も払う必要はない」とか「多くても50万円だ」と主張している事案を考えてみましょう。このようなケースで、最終的に「では80万円払うということでお互い合意しましょう」となるのが「和解」ということです。

裁判を起こした後でも「和解」は可能

みなさんのイメージでは、「和解」=話し合いによる解決、「裁判」=裁判所が強制的に判断を下す解決、というイメージがあるようで、裁判を起こした場合には「和解」という概念がなくなると考えている方もいるようです。しかし、裁判を起こした後でも「和解」をすることができます。

裁判所に訴えることなく、当事者間で(弁護士を立てている場合も同様)合意に至るケースを「私法上の和解」といいます。一方、裁判所が関与する形で和解をすることを「裁判上の和解」といいます。「裁判上の和解」には、「訴訟上の和解=裁判を実際に起こした後に和解をすること」と、「訴え提起前の和解=あらかじめ和解をした内容について、裁判所に調書を作成してもらう和解」があります。

裁判上の和解となった場合、相手が和解内容を守らなかったら強制執行できる

裁判上の和解となった場合、仮に相手が和解内容を守らなかったら、相手の財産を差し押さえるなどの強制執行を行うことができます。逆に、私法上の和解の場合は、合意書を作成したのみでは、相手の財産に強制執行をすることができません。仮に強制執行をしたい場合にはあらためて裁判を起こさねばならない、という不便さがあります。ここで、和解内容について「公正証書=公証役場で作成する書面」を作成しておくと、強制執行が可能となりますので、「相手が合意内容を守らないおそれ」がある場合には、私法上の和解を公正証書にしておくことが望ましいといえるでしょう。

基本的に、和解においては、判決の場合と違って、当事者が取り決めたことは何でも条項に盛り込めるというメリットがありますが、実現不可能な和解内容や、法律違反の内容等は盛り込めないという一定の制限があります。

和解はお互いが譲歩して合意する手続きですから、通常は、原告主張の金額を減額したり、一括払いを分割にしたり…というかたちで譲り合って合意します。たとえば、500万円の請求を300万円に減額、400万円の支払いを月額10万円×40回払いで、などという方法です。

訴訟上の和解は、裁判官がお互いが和解できるように説得するという側面が強い

訴訟上の和解は、当事者主導で話し合いをするというよりは、裁判官が双方の言い分を聴取し、お互いが和解できるように説得するという側面が強いです。その場合、裁判官から、「原告が勝つ見込みはどれくらいか」等も考慮するよう示唆することが多いです。原告としては、裁判官の説明を聞いて、「原告の勝つ見込みが低いなあ」と感じた場合には、500万円の請求を50万円まで減額するなどの大幅な譲歩に至ることもあります。裁判所からは、「こういう内容で合意したらどうですか」というかたちで和解勧告をされることもあります。この和解勧告では、原告の勝訴見込や仮に判決になった場合に認められるであろう金額を基礎になされることも多いので、およそ「合理的な和解内容」になっていることが多いと言えます。

実際に裁判まで起こす場合、原告にとっても費用や労力・時間を相当費やすことになります。ですので、通常は、「裁判になる前に和解したほうがよい」ということで多少低い金額でも和解をすることが多いです。ただ、不倫の慰謝料裁判などでは逆のケースもあって、「訴えないでくれ。裁判にしないでくれ」と、多少多くのお金を払ってでも裁判をとにかく拒みたいというケースでは、裁判に至らずに和解した方が高額の慰謝料を獲得できるケースもあります。

有利な和解にもっていくためには、「初めから大きく譲歩せず少しずつ譲歩する」

有利な和解にもっていくためには、「初めから大きく譲歩はせずに少しずつ譲歩する」ことが重要ですね。

(1)判決では20万円見込みだが90万円の和解成立に成功

もともとは250万円を請求していた事件ですが、一部が消滅時効にかかっていたため、判決では最大で20万円も見込めない案件でした。依頼者の強い希望を裁判所に訴え、裁判官に長文の「上申書」を提出して粘り強く訴えたところ約90万円の和解勧告をしてもらえ、裁判上の和解に至りました。

裁判官が判決見込み以上の和解案を勧告してくれることは稀ですが、裁判官も人間である以上、誠意が伝わればある程度高額の和解勧告を出してくれることもあるのが実情といえるでしょう。

(2)悪徳業者から220万円の返還に成功

車を担保にとって融資を行い、高利をむさぼりとる悪徳業者に対し、払った金員を返還せよ! と交渉を行った案件です。なかなか連絡さえつかない悪徳業者相手に粘り強く交渉したところ、ほぼ請求満額である220万円につき、変換する旨の和解が成立しました。不安な毎日だった依頼者の方のもとに、無事に車もお金も戻ってきました。悪徳業者だからといって諦めずに交渉することが大事です。

(3)不倫ではお金以外での争いも…

不倫相手に対して慰謝料請求をするようなケースですと、お金以外の部分でも争いになることが多いです。たとえば、夫の不倫相手に対し、妻が慰謝料請求をする場合などは典型例です。妻としては金額云々よりも、「ひとこと謝ってほしい」という気持ちが強く、一方で不倫相手の方は「絶対謝罪しない」というスタンスであった場合、金額面で合意できても「謝る・謝らない」の争点でなかなか和解ができないということも多いです。実際に裁判を起こしても「被告は原告に謝れ」などという判決はもらえませんので、この場合の解決として「乙は甲に対して謝罪の意を表する」などと一言加えることで落ち着くことが多いです。

よく耳にする「和解」といった言葉ですが、実際には「どのような経緯により、どのような和解に至れたか」によって、その後の人生を左右するようなケースも多くあります。

勝ち同様の和解のことを、「勝訴的和解」などといいますが、いい和解に持ち込むためには、交渉の仕方など様々なテクニックが必要です。まずは、粘り強く交渉してくれる弁護士選びが重要かもしれませんね。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

篠田 恵里香(しのだ えりか)

東京弁護士会所属。東京を拠点に活動。債務整理をはじめ、男女トラブル、交通事故問題などを得意分野として多く扱う。また、離婚等に関する豊富な知識を持つことを証明する夫婦カウンセラー(JADP認定)の資格も保有している。外資系ホテル勤務を経て、新司法試験に合格した経験から、独自に考案した勉強法をまとめた『ふつうのOLだった私が2年で弁護士になれた夢がかなう勉強法』(あさ出版)が発売中。『Kis-My-Ft2 presentsOLくらぶ』(テレビ朝日)や『ロンドンブーツ1号2号田村淳のNewsCLUB』(文化放送)ほか、多数のメディア番組に出演中。 ブログ「弁護士篠田恵里香の弁護道